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馬車の中
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馬車の窓から、お店が立ち並ぶ景色が見えるようになってきた。
「もう、街の中心あたりに入ったのかしら?」
隣のイーリンさんに聞くと、うなずいた。
「この街はね、円形状になってるの。だから、道路がずーっとまわるようにはしってるのよ」
言われてみれば、ゆったりしているけど、カーブが多いような…。
…が、窓の外の風景よりも気になるのは、ランディ王子だ。
窓の外を見ることもなく、真ん前に座るユーリを、きらきらした目で見つめているランディ王子。
しかも、大事そうに両手で抱えている革のバッグは、ユーリのバッグだったような?
気になる…。
気になりすぎる。
なので、聞いてみた。
「ええと、ランディ王子。その抱えているバッグは、もしやユーリのバッグを持ってるのかしら?」
すると、ランディ王子は、
「そう、ユーリさんのバッグだ。持たせてもらってるんだ!」
と、胸をはった。その後ろに、「いいだろ」と、つきそうな勢いだ。
デュラン王子とジリムさんが、奇妙な生き物を見る目でランディ王子を見ている。
変わり方が、あまりに極端よね…。
当の本人であるユーリは、そんなランディ王子には見向きもせず、いつもどおり、涼しい美貌で、なぜか私を見ている。
目が合うと、美しく微笑まれた…。
なにかしら、この不思議すぎる空気間。
黙っていると、落ち着かないので、
「…ええと、ユーリ。ランディ王子の魔力の訓練はいつするの?」
と、聞いてみた。
私の言葉を聞いて、ランディ王子が期待に目を輝かせる。
「そうだね、アデルがいいと思う時に」
ん? なぜ、私がここにでてくるの? おかしい返事よね?
「いや、私は関係ないよね? 二人で訓練するんでしょ?」
と、私が聞くと、
「アデル、もう忘れたの? わたしも手伝うから、って言ったの?」
ユーリの青い瞳が、まっすぐに私を見る。
え?! そんなこと、言ったかしら?
「あ、でも、ほら。もう、ランディ王子もユーリに懐いているし、二人でじっくりと訓練したらいいんじゃない?」
と、私が言うと、
「何言ってるの、アデル。アデルがいないと、やらないよ」
と、ユーリが言った瞬間、ランディ王子が、私をすごい勢いでにらんだ。
「おい、アデル! わたしも手伝うって言え!」
と、ランディ王子。
すぐさま、ユーリが、ランディ王子に冷ややかな声で言った。
「ぼくの婚約者に、口の利き方がなってないね。凍らすよ、ランディ」
すると、ランディ王子が、ぎょっとしたように、
「すみません、アデルさん、手伝って下さい」
と、ぎこちなく私に向かって言い、それから、ユーリにあこがれの眼差しを向けて、つぶやいた。
「…でも、ユーリさんになら、ちょっと凍らされてみたいな…」
これは、やばいのでは?!
馬車の中が、さらに微妙な空気になった…。
デュラン王子は、聞こえなかったふりをしているし、ジリムさんの眉間のしわが一段と深くなった。
イーリンさんは、目を見開いて、何かを見ている。
何か良くないものが見えてるのかしら?!
私は、心配になって声をかけた。
「イーリンさん、大丈夫? 変なものは、見えてない?」
すると、イーリンさんは、はっとしたように私を見て、うなずいた。
そして、小声で言った。
「ええ、大丈夫。ちょっと驚いてたの。まあ、ランディ兄様は、あこがれてる気持ちが強すぎて、春みたいな気を放ってるのは、この際、どうでもいいんだけど…。
びっくりしたのは、ユーリさんの言葉の気よね」
「え? なにか、まがまがしいものでも見えた?」
と、おそるおそる、小声で聞き返す。
イーリンさんは、首を横にふって、
「いえ、そうではないの。怖くはないんだけど、見たこともない、すごいオーラというか…。
圧倒されるというか…。いいか、悪いか、判別もつかないようなものが、見えてるのよね…。」
と、あっけにとられている。
「あ、魔王だからね。やはり、人間ではないのね…」
と、つぶやいたら、いきなり、耳に、魔王がささやいてきた。
「ふーん、ぼく、人間ではないの?」
ひえっ! 聞こえてた?!
びっくりして、ユーリを見ると、妖しげに微笑みかけてくる。
が、ふと別の視線を感じる。ランディ王子だ。
私をうらやましそうに見ている。
もしや、ユーリに笑いかけられているのがうらやましいの?!
いやいや、この笑顔、怖いから。
全然、うらやましくないからね?!
ほんとに、ユーリはあまたの令嬢だけでなく、こじらせ王子までもとりこにするとは、おそるべし…。
「もう、街の中心あたりに入ったのかしら?」
隣のイーリンさんに聞くと、うなずいた。
「この街はね、円形状になってるの。だから、道路がずーっとまわるようにはしってるのよ」
言われてみれば、ゆったりしているけど、カーブが多いような…。
…が、窓の外の風景よりも気になるのは、ランディ王子だ。
窓の外を見ることもなく、真ん前に座るユーリを、きらきらした目で見つめているランディ王子。
しかも、大事そうに両手で抱えている革のバッグは、ユーリのバッグだったような?
気になる…。
気になりすぎる。
なので、聞いてみた。
「ええと、ランディ王子。その抱えているバッグは、もしやユーリのバッグを持ってるのかしら?」
すると、ランディ王子は、
「そう、ユーリさんのバッグだ。持たせてもらってるんだ!」
と、胸をはった。その後ろに、「いいだろ」と、つきそうな勢いだ。
デュラン王子とジリムさんが、奇妙な生き物を見る目でランディ王子を見ている。
変わり方が、あまりに極端よね…。
当の本人であるユーリは、そんなランディ王子には見向きもせず、いつもどおり、涼しい美貌で、なぜか私を見ている。
目が合うと、美しく微笑まれた…。
なにかしら、この不思議すぎる空気間。
黙っていると、落ち着かないので、
「…ええと、ユーリ。ランディ王子の魔力の訓練はいつするの?」
と、聞いてみた。
私の言葉を聞いて、ランディ王子が期待に目を輝かせる。
「そうだね、アデルがいいと思う時に」
ん? なぜ、私がここにでてくるの? おかしい返事よね?
「いや、私は関係ないよね? 二人で訓練するんでしょ?」
と、私が聞くと、
「アデル、もう忘れたの? わたしも手伝うから、って言ったの?」
ユーリの青い瞳が、まっすぐに私を見る。
え?! そんなこと、言ったかしら?
「あ、でも、ほら。もう、ランディ王子もユーリに懐いているし、二人でじっくりと訓練したらいいんじゃない?」
と、私が言うと、
「何言ってるの、アデル。アデルがいないと、やらないよ」
と、ユーリが言った瞬間、ランディ王子が、私をすごい勢いでにらんだ。
「おい、アデル! わたしも手伝うって言え!」
と、ランディ王子。
すぐさま、ユーリが、ランディ王子に冷ややかな声で言った。
「ぼくの婚約者に、口の利き方がなってないね。凍らすよ、ランディ」
すると、ランディ王子が、ぎょっとしたように、
「すみません、アデルさん、手伝って下さい」
と、ぎこちなく私に向かって言い、それから、ユーリにあこがれの眼差しを向けて、つぶやいた。
「…でも、ユーリさんになら、ちょっと凍らされてみたいな…」
これは、やばいのでは?!
馬車の中が、さらに微妙な空気になった…。
デュラン王子は、聞こえなかったふりをしているし、ジリムさんの眉間のしわが一段と深くなった。
イーリンさんは、目を見開いて、何かを見ている。
何か良くないものが見えてるのかしら?!
私は、心配になって声をかけた。
「イーリンさん、大丈夫? 変なものは、見えてない?」
すると、イーリンさんは、はっとしたように私を見て、うなずいた。
そして、小声で言った。
「ええ、大丈夫。ちょっと驚いてたの。まあ、ランディ兄様は、あこがれてる気持ちが強すぎて、春みたいな気を放ってるのは、この際、どうでもいいんだけど…。
びっくりしたのは、ユーリさんの言葉の気よね」
「え? なにか、まがまがしいものでも見えた?」
と、おそるおそる、小声で聞き返す。
イーリンさんは、首を横にふって、
「いえ、そうではないの。怖くはないんだけど、見たこともない、すごいオーラというか…。
圧倒されるというか…。いいか、悪いか、判別もつかないようなものが、見えてるのよね…。」
と、あっけにとられている。
「あ、魔王だからね。やはり、人間ではないのね…」
と、つぶやいたら、いきなり、耳に、魔王がささやいてきた。
「ふーん、ぼく、人間ではないの?」
ひえっ! 聞こえてた?!
びっくりして、ユーリを見ると、妖しげに微笑みかけてくる。
が、ふと別の視線を感じる。ランディ王子だ。
私をうらやましそうに見ている。
もしや、ユーリに笑いかけられているのがうらやましいの?!
いやいや、この笑顔、怖いから。
全然、うらやましくないからね?!
ほんとに、ユーリはあまたの令嬢だけでなく、こじらせ王子までもとりこにするとは、おそるべし…。
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