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ご遠慮いたします

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涙にぬれた、イーリンさんの琥珀色の瞳は、きらきらと輝いている。
デュラン王子と同じ、ハニーブラウンの髪といい、どっかで見たような、聞いたような…。
うーん、なにかしら、この既視感…。

あっ!! そうだわ!

こんなときに、なんだけど、イーリンさんって、リッカ先生の最新作のヒロインに似てるんだわ!
琥珀色の瞳のヒロインの冒険と成長を描いた、リッカ先生初のファンタジー。

これは、是非、イーリンさんにも読んでもらいたい!

「話は、まるっとかわるけど、イーリンさんって、物語の本を読んだりするかしら?」
と、思わず、前のめりで聞いてしまう。

突然の話に、一瞬きょとんとしたものの、
「ええ、読むわ。あ、そういえば、アデルちゃん、本好きだって、さっき言ってたわね」

私は、こくこくとうなずき、
「特に大好きな作家さんがいて、リッカ先生っていうんだけど、知ってる?」

「名前は聞いたことあるけど、…読んだことはないわね」
と、首をひねる、イーリンさん。

「え、そうなの?! デュラン王子もファンで全巻そろえてるらしいし、ご本人とも知りあいなんだって。
まったく、ファンとして、身近な人にすすめないだなんて、デュラン王子は何をしてるのかしら!」
思わず、ぐちをこぼすと、フフッとイーリンさんが笑った。

そこへ、
「ごめん、アディー、遅くなった!」
と、飛び込んできたのは、噂のご本人だ!

すごいタイミングで、びっくり。

「いえいえ、すごく早かったですね。向こうは大丈夫なんですか?」

「ああ、晩餐会は終わった」

そう私に微笑みながら歩いてきて、私の真向かい、そして、イーリンさんの隣の椅子にすわった。

「アディー。イーリンの様子がおかしいことにすぐに気づいて、連れ出してくれてありがとう。
…それと、気づけなくてごめん、イーリン。…って、えええ!」
デュラン王子が、驚いた声をあげて固まった。

今日、固まったのは、これで3人目だわ…。

ということで、慣れた手つきで、パンッと手を打って、正気に戻す。

はっとしたように、デュラン王子が、まばたきをした。

そして、
「イーリンの目を見たのって、いつぶりだったかな…? 
ええと、何があったの? って、聞いてもいいのかな? それともダメなのかな?」
と、とまどいながら、イーリンさんに聞いた。

すると、イーリンさんは、
「全部、アデルちゃんのおかげなの。なんか、いろいろ悩んでたことが、ふっきれたというか…。どうでもいいんじゃないかって、思えてきたの。
それにね、アデルちゃんって、モリスの瞳じゃない私の瞳をきれいだって、ほめてくれたのよ!」
と、嬉しそうに笑った。

デュラン王子が、一瞬、泣きそうな、なんともいえない顔をして、
「そう。良かった…」
と、つぶやくと、

「アディー、本当にありがとう。それと、ふがいない兄でごめん、イーリン」
そう言って、頭をさげた。

ダメだわ。感動して、なんだか泣いてしまいそうになる! 
と、思ったときには、時、すでに遅し…。
滝のように、涙がでてきた。

「え! アデルちゃん、どうしたの?!」

イーリンさんが、びっくりして私を見ている。が、涙はとまらない。

デュラン王子は、すでに私の大泣きを見ているので、
「アディーは、ほんと、泣き虫だね」
と、甘ーく微笑んだ。

が、泣き虫なんて、かわいいレベルじゃないわよね?
豪雨のような涙なんだから。

イーリンさんが、すぐに立ちあがって、メイドさんに何かを頼んでいる。
と、思ったら、タオルが差し出された。

ふかふかのタオルは、水分をよく吸い取ってくれて、ありがたいわね!
的確なお気遣いを、どうもありがとう。イーリンさん。

「目が腫れたら、また、ぼくが癒すからね」
と、デュラン王子が、微笑んでくれる。

それなら、良かった。

…じゃない! それだけははやめて! 

また、ユーリに、寿命が縮みそうな消毒をうけることになるじゃない!

ということで、目があかなくなっても、癒しはご遠慮いたします。
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