上 下
84 / 158

イーリン王女

しおりを挟む
案内してくれる人に続いて、晩餐会の広間をでた私たち。
そして、その人について、廊下を歩いて、ついていく。

ええと、どこまで行くのかしら?

と、思いはじめた時、案内してくれていた人が足をとめ、ふりむいた。

「ご挨拶が遅れました。わたくし、デュラン王子の専属執事のルパート・スミスと申します。
こちらのお部屋にどうぞ。あとで、デュラン王子も来ますので、それまで、イーリン様と、ごゆっくりなさってください。では、お茶のご用意をさせていただきますね」
そう言って、落ち着いた雰囲気の素敵なお部屋に通された。

イーリンさんを見ると、ふるえはとまっている。ひとまず、良かった。

「あの、ごめんなさい…。どうぞ、すわって」
と、イーリンさんが、部屋の椅子を私にすすめてくれた。

「ありがとう。…もう大丈夫?」
と、まだ、下をむいたままのイーリンさんに、私は聞いた。

「ええ…。あの、連れ出してくれて、ありがとう。それと、晩餐会、まだ終わってなかったのに、ごめんなさい。…アデル王女」
と、イーリンさんが、下をむいたまま、小さな声で言った。

気持ちが伝わってきて、キュンとくる。

「いいの、いいの。もう、すでに、お料理は、しっかりと、たいらげてたからね! それと、私のことは、アデルと呼んでね。王女らしくない王女なので、気をつかわないでしゃべってくれると、うれしいわ」
そう言うと、イーリンさんは、うなずいた。

そこへ、執事のルパートさんが、メイドさんと一緒に戻って来た。
そして、素早く、テーブルにお茶の準備を整えてくれる。

「そうだ、自己紹介してもいいかしら?」
私の言葉に、イーリンさんは、だまってうなずく。

「あのね、私は14歳。本を読むことと、甘いものが大好きなの。さっき、イーリンさんのななめ前にすわってた魔王、…いえ、金髪の男性が、私の婚約者でユーリっていうの。でもね、こっからは愚痴になってしまうけど、いい?」

イーリンさんは、だまったままうなずく。

よし、聞いてくれてるわね。

「私の婚約者のユーリはね、見た目がきらきらしてるでしょ? 私が、ユーリを最初に見た時、あんまり、きれいな少年だったから、天使かと思って喜んだの。私、天使が大好きだから。…でも、残念なことに、全然、違ってた。それどころか、天使の対極にいるというか…。それなのに、その見た目に騙された令嬢たちが、熱狂的なファンになって、パーティーとかでは、私の悪口を言うの。それも、わざと聞こえるように。私がその人たちに何かしたわけでもないのにね」

イーリンさんの頭が少し持ち上がった。そして、うなずいた。

「でね、そんな時は、パーティーが終わったら、どの本を読もうかな? って考えるの。そしたら、あの本も読みたいけど、この本も読みたい。ああ、一緒にマカロンもあったら幸せだな。みたいに、どんどん想像がひろがって、そんな雑音どうでもよくなるの。どうぞ、好きに言って、みたいなね」

イーリンさんの頭がまた少し、持ち上がった。もう少しで、顔が見えそう。

「アデルちゃん」
と、イーリンさんに呼ばれた。

あ、名前で呼んでくれた! うれしい、ドキドキ。 

「うん、なに?」

「私ね、デュラン兄様ほどではないけど、魔力があるの」

「うん」

「デュラン兄様は、人の体の中が見える魔力なんだけど、私は、人が発した言葉の真意が目に見える魔力なの」

「うん? えっ?! なんか、すごいわね!」

すると、イーリンさんは、下をむいたまま、首を横にふった。

「ちっとも、すごくない。何の役にも立たないし、知りたくないことばかり、知ってしまうから。
デュラン兄様みたいに、見ようと思って見られるのならいいんだけど、私の場合は、勝手に見えるの。
どんなに見ないようにしても、止められない。
でも、さっき、晩餐会で、アデルちゃんにかけてもらった言葉は、とても、きれいな虹色をしてた。私を心から気づかってくれてることが伝わってきたの。今もだよ」
そう言って、また少し、頭が持ち上がった。

「もしかして、下をむいてるのも、見ないようにするため?」

イーリンさんは、うなずいて、言った。

「そう、数年前から急に見え始めて、怖くなったの。口では、いいことを言っていても、真っ黒な魔物がおそってくるのが見えたりするから」

えっ、それは怖い!

「でも、アデルちゃんの言葉に嘘がないことはわかったから。だから、大丈夫」
そう言って、顔をあげた。

王妃様に似た、そして、デュラン王子にも少し似ている、きれいな顔立ち。

でも、目が見えない。
というのも、前髪を目の下まで、しっかりとたらしていたからだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...