上 下
80 / 158

王様!

しおりを挟む
晩餐会は、王様のご挨拶から始まった。
そこで紹介されたため、いっせいに、みなさんの視線が私に集中する。

オパール国の王女として、ブルージュ国のみなさまに、少しでも好印象を持っていただかないとね!
そう思って、精一杯、王女らしさをしぼりだして、優雅に微笑んでみる。

ふと、ユーリと目があった。
すると、ユーリが、それはそれは、優雅に微笑んだ。

あ、それそれ。そんな笑顔をしようとしてるんだけどね。
悲しいことに、真似できないわね…。

表情筋が疲れてきたところで、着席。

つかれた顔を、ふにゃふにゃっとゆるめて、くつろがしていると、デュラン王子がプハッと笑った。
はっとして、まわりを見ると、王妃様も王太子様も王様までもが微笑んでいる。

あ、見られてた…!

一気に顔が熱くなった。恥ずかしい!

「アデル王女は、本当に、かわいらしい方ね」
と、王妃様が優しくフォローをいれてくださる。

「そうでしょ。ほんと、かわいいんだよ」
と言いながら、私に甘く微笑みかけてくるデュラン王子。

そこで、王太子様が、
「デュラン。アデル王女には婚約者がいるんだからね。忘れないで」
と、からかうように言った。

「そうかな。べつに、忘れてもいいんじゃない?」
と、真顔で答えるデュラン王子。

はいっ?! なんか、おかしな返答だよね?

王太子様もそう思ったのか、笑うのをやめて、
「何言ってるんだ、デュラン? 忘れたらダメに決まってるだろ」 
と、釘をさすように言った。

「いやいや、ダメじゃない! デュランも若いんだから、燃えるような恋をしたらいい。本気で好きなら、婚約者から奪ってしまえ! わたしも、王妃を当時の婚約者から奪ったからな。ハッハッハ!」
と、王様がグラスを手に、豪快に笑った。

もしや、もう酔っぱらってますか? 
最初の印象とかなり違ってますが…。

しかも、物語のようなそのお話、本当なのかしら?!

思わず、王妃様を見ると、困ったように微笑んだ。
「アデル王女の前で、話を捏造しないでください」

えっ、捏造?!

驚いている私にむかって、王妃様が、
「私の最初の婚約者は、他国の王子で政略だったんだけど、クーデターがあって、政略の意味がなくなったの。だから、とりやめになっただけなのよ。
それで、次の政略結婚に決まったのが、この国の王だったの。奪ったとかじゃ、全くないのよ?」
そう言って、美しい笑みを浮かべた。

すると、王様は、
「何を言う。政略の意味もあるにはあったが、どれほど、私が王妃に恋焦がれたか! その私の強い念が、王妃の前の婚約をとりやめにしたようなもんだ。つまり、奪ったってことだな! ハッハッハ!」
と、楽しそうに笑った。

やっぱり、酔っぱらってるのかしら? 
王様が、すっかり、おもしろいおじさんと化してしまってるわ…。

それにしても、飲み始めたのって今さっきよね。
それで、こんなにご機嫌に酔えるものなのかしら?

などと、考えていると、
「酔っぱらってないよ。父上は、これが素なんだ」
と、デュラン王子が、笑いながら言った。

「えっ、また、心の声がでてた?」
思わず口をおさえながら、デュラン王子に聞く。

他国訪問で、この癖はまずいわ!

「大丈夫。今は、何も言ってなかったよ。でも、アディーの顔を見てたら、言いたいことがわかるんだよね。もう、すっかり心がつながってるんだね、アディーと」
と、デュラン王子が、甘ったるい雰囲気を爆発させた。

ご家族の前でも、変わらないその態度。なんだか、すごいわ…。

その様子を見ていた王様が、
「ハーッ、こりゃいい! アデル王女とデュランが結婚したら、隣の国とも親戚になる。助け合って、両国とも、ますます繁栄できるな! 
デュラン、がんばれ! ハッハッハ!」
と、大笑いしている。

ご機嫌のところ、すみませんが、…なんてことを言うの?! 
しかも声が大きすぎるわ! 

聞こえたかしら…? 
聞こえたわよね。すごい声量だもの…。

でも、もしかしたら、誰かとしゃべってて、魔王も聞き逃したってこともあるかもしれないしね。

…って、無理だった! 

とてつもない冷気が、どっと押し寄せてきた。

「寒いわ! また、空調をだれか強くしたのね。いくらなんでも強すぎるわ」

あわてて、王妃様が人を呼んでいる。

まずいわ! 早く止めないと、ここらへんが凍りついてしまうじゃない! 

私は、魔王ユーリを見る。
が、ユーリの冷たい目は、完全に王様をロックオンしていた。

王様! 両国が繁栄するどころか、両国とも消えてしまいます! 

だから、言葉には気をつけて!! もう遅いかもしれないけど…。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

処理中です...