上 下
77 / 158

部屋で

しおりを挟む
デュラン王子とジリムさんは、晩餐会の前に、部屋まで迎えに来てくれるということで、いったん別れた。
アンもやってきて、手際よく、持ってきた荷物を片づけてくれている。

あと3時間もないものね。ちょっと、ゆっくりしてから、晩餐会のため着替えないといけない。

「あんまり時間がないし、ユーリも、自分の部屋で休んできたら?」
と、私が、ユーリに声をかける。

すると、
「ここで、アデルを補充したほうが休まる。着替える前に出ていくから、それまでいさせて?」
そう言いながらも、すでに、ジャケットをぬぎ、くつろぎ体制に入っている。

「私を補充って、なに? 意味がわからないわね」
と、私がつぶやくと、

「アデルのそばで、アデルと同じ空気をすいながら、アデルを見て、アデルの存在を感じることだよ。残念ながら、まだ、ふれられないけどね」
妖しい何かをふりまきながら、ユーリが、甘ったるく微笑んだ。

近くにいたアンが、片づけながら、「こわっ」と、つぶやき、身震いしている。

確かに、なんだか、ぞくっとしたわね。
ちょっと、離れていようかしら…。

「ねえ、アデル。アンも忙しそうだし、今日は、ぼくがお茶を淹れるね?」
と、ユーリが立ちあがって、ティーセットに近づいていく。

「え? ユーリって、お茶を淹れられるの?」

「まあね。ほら、次期公爵の仕事柄、色んな領地をまわるでしょ。あまり知らない場所で滞在する時もたまにあってね。そんな時は、口にいれるものは気をつけてるから、茶葉も自分で持参して淹れるよ。毒とか、媚薬とか入れられたこともあったからね」

「ええええっ?! ユーリって、狙われてるの?!」
思わず、驚きすぎて、大声をあげてしまった。

確かに、王族には毒味係がいるけれど、実際、毒がでたなどと聞いたことはない。
それなのに、まさか、こんな身近で、毒とか媚薬とか、物語の中で起きるようなことが、現実にあるなんて!

すると、ユーリは、
「筆頭公爵家の嫡男で、王女の婚約者で、魔力が膨大なぼくをコントロールしようとするバカがいるんだよ。まあ、その都度、二度と、そんな気になれないようにしたから、最近はないけどね」
と、不敵な笑みを浮かべた。

なんでかしら?
襲われたユーリよりも、加害者のほうに少し同情してしまったわ…。
それにしても、ユーリにそんなことするなんて、なんて、命知らずな…。

「もし、アデルにそんなことをしようとする奴がいたら、ぼくが、完璧に根絶やしにするから、安心してね」
と、艶やかに笑った。

「それは、とっても安心だわ。ハハハハハ…」
かわいた笑いが口からでた。

悪いことを考えている、みなさん。ユーリは敵にまわさないほうが、身のためですよ…。

「あ、そうだ。この部屋の中も、用意されたお茶の葉も、すべて、ぼくの部下が先に確認してるから、大丈夫だよ」
と、ユーリは優雅にお茶を淹れながら、説明してくれた。

ほんと、ユーリは有能なんだよね。そういう点では、絶対的に信頼している。
ただ、私にかかわると、なんだかおかしくなるけれど…。

あ、そんな人が、もう一人いた。ロイドだ!

そういえば、ロイドって、帰りに迎えにくるんだったわよね。
私に異常に過保護だから、初めて、一人で、外国訪問している私を、今頃、それはそれは心配しているでしょうね。
あんまり、気にしすぎないといいけど…。

なんて、考えてたら…、

「ひゃああ! なになになに?!」
思わず、叫びながら、飛び上がってしまった。

だって、いきなり、首の後ろに、ひやっとしたものが、ひっついてきたんだもの!

ふと見ると、ユーリが、片手におしぼりを持っている。
あっ、それを、私のうなじにひっつけたわね!

「ちょっと、ユーリ! 急に何するのよ! びっくりするじゃない!」
私が、うなじを手でさわりながら、ユーリに抗議する。

「だって、アデル。さっき、他の男のこと、考えてたでしょ?」
と、ユーリ。

他の男? …あっ、ロイドのこと?! 
確かに考えてたけど…、なんで、わかるの?! 

そうか、ロイドはユーリの天敵だものね。
私の頭の中で考えてても察知するなんて、おそろしいわ…。

アンが、片づけの手をとめて、生暖かい目で私たちを見ている。

いやいや、王女らしからぬ声で叫んだのは、不可抗力だから。
だって、ユーリが驚かすから、びっくりしたんだもの!

きりっと、ユーリをにらむと、なぜか、とても嬉しそうに笑った。
久々に見た、邪気のない天使みたいな笑顔に、思わず見とれてしまう。

もう、ほんと、美形はずるいわよね。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

処理中です...