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おなかがすきました!
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ひざまくらの衝撃もうすらいできた頃、
グーッ
おなかがなった…。静かな馬車の中で、響いたわね。
普通なら恥ずかしいところだが、ひざまくらの後なので、もう、開き直ってる!
ということで、指摘される前に、自己申告だ。
「私、おなかがすきました! 何か食べたい!」
ユーリが、ふっと笑って、
「もう、到着するから、すぐに食べられるよ。アデル、ちょっと口をあけてみて」
と、言った。
ん? 私は言われた通り、口をあけてみた。
すると、ユーリの長い指がのびてきて、私の口に何か小さいものを入れてきた。
ふわりとした食感のあと、ジュワッと、果実の甘酸っぱさがひろがった。
そして、あっという間にとけた。
「ユーリ、なにこれ?! 美味しいんだけど!!」
「最近できたお店の人気のお菓子らしいよ」
すごい! はじめて食べた。マルクは知ってるのかしら?
そして、もっと食べたいわ!
思わず、ユーリを見た。ユーリは、嬉しそうに笑って言った。
「ほら、口をあけて」
美味しいお菓子のためなら、いいなりだ。
口をあけて、待つ!
ユーリの指が近づいてきて、また、お菓子が投入された。
今度は、ストロベリー。
うわ、美味しい!
でも、一瞬で消えるの。あー、もっと食べたい!
また、口をあけると、ユーリが、
「アデルって、お菓子で簡単につれるねえ」
と、笑いながら、また、ひとつ入れてくれた。
「ユーリ様、そのへんでやめてください。アデル様も、もうすぐランチなのに、食べられなくなりますよ!」
と、アンの注意がはいった。ごもっともだ。
ユーリは、
「口をあけてるアデルが、ばかかわいくて、癖になるわ。また、帰りの馬車でしようね?」
と、甘く微笑んできた。
こら、だれが、ばかですって! 後ろにかわいいがついても、ごまかされないわ!
と、そこで、馬車がとまった。
「着いたのかしら?」
ユーリは、馬車の窓のカーテンをあけ、外を確認している。
「宮殿ではないみたいだけどね」
外から、護衛騎士の声がした。
「アデル王女様、ブルージュ国の王子殿下がいらっしゃいました。扉を開けてもよろしいでしょうか?」
「嫌なんだけど」
隣で、ユーリが言う。
その声に、かぶせるように、
「どうぞ、開けて」
と、私が大きめの声で答えた。
扉が開くと、デュラン王子が、にこやかに立っていた。
「アデル王女、長旅お疲れ様。大丈夫だった?」
「ええ、私は馬車でぐっすり眠ったので、元気です!」
と、答えながら、デュラン王子の隣にいるジリムさんが目に入った。
なんだか、目の下のクマが更に濃くなってない?
「ジリムさんは…、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます。大丈夫です。ちょっと、馬車の中で仕事をしていたもので…」
「ジリムの目の下のクマは、ずーっとあるから大丈夫だよ」
と、デュラン王子が笑いながら言った。
いやいや、大丈夫じゃないみたいよ?
ほら、隣を見て! すごい勢いで、ジリムさんがにらんでるよ?
そして、
「誰のせいで、俺のクマが消えないと思ってるんだ…」
ジリムさんがつぶやいた。
「ジリムさん。今日は、家に帰って、ぐっすり眠ってくださいね…」
と、心からの声をかけると、ジリムさんが、微笑んでくれた。
そして、デュラン王子が、
「アデル王女、ランチを食べるので、降りてくれる? 王宮もここからすぐだから、そこでとも思ったけど、そうすると、王が挨拶したいとか言ってたし、食べるのが遅くなるでしょ。おなかがすくと思うから、先にここで食べてから行った方がいいかなと思ってね」
と、言った。
私は、思わず、力強くうなずいてしまった。
もう、すでに、私はおなかがすいてるの! 一刻も早く食べたいの!
適切なお気づかいをありがとうございます、デュラン王子!
急いで降りようとすると、
「待って、アデル」
と、ユーリが先に馬車から降りた。
そして、デュラン王子と馬車の間に立ち、
「アデル、足元、気をつけて降りてね」
と、私の方に手をのばしてくる。
デュラン王子の顔は、笑みをたたえたままだが、ユーリを見る目が怖い…。
二人の間に流れる不穏な空気。
また、なにかはじまったみたいね。
が、私の気持ちは、ランチに飛んでいる! だから、どうでもいいの。
そんなことより、何かな、ランチ? 楽しみだな、私のランチ!
ユーリの手をとり、軽やかに馬車から降り立つと、デュラン王子が、すばやく私の前に進み出た。
そして、
「ようこそ、ブルージュ国へ」
と、甘い笑顔をふりまいた。
同時に、ふわりと、気持ちのいい風がふきぬける。
知らない外国の匂いがして、わくわくしてきた。
が、今は、とにかく、美味しいものが食べたい! まずは食を知ろうだ!
グーッ
おなかがなった…。静かな馬車の中で、響いたわね。
普通なら恥ずかしいところだが、ひざまくらの後なので、もう、開き直ってる!
ということで、指摘される前に、自己申告だ。
「私、おなかがすきました! 何か食べたい!」
ユーリが、ふっと笑って、
「もう、到着するから、すぐに食べられるよ。アデル、ちょっと口をあけてみて」
と、言った。
ん? 私は言われた通り、口をあけてみた。
すると、ユーリの長い指がのびてきて、私の口に何か小さいものを入れてきた。
ふわりとした食感のあと、ジュワッと、果実の甘酸っぱさがひろがった。
そして、あっという間にとけた。
「ユーリ、なにこれ?! 美味しいんだけど!!」
「最近できたお店の人気のお菓子らしいよ」
すごい! はじめて食べた。マルクは知ってるのかしら?
そして、もっと食べたいわ!
思わず、ユーリを見た。ユーリは、嬉しそうに笑って言った。
「ほら、口をあけて」
美味しいお菓子のためなら、いいなりだ。
口をあけて、待つ!
ユーリの指が近づいてきて、また、お菓子が投入された。
今度は、ストロベリー。
うわ、美味しい!
でも、一瞬で消えるの。あー、もっと食べたい!
また、口をあけると、ユーリが、
「アデルって、お菓子で簡単につれるねえ」
と、笑いながら、また、ひとつ入れてくれた。
「ユーリ様、そのへんでやめてください。アデル様も、もうすぐランチなのに、食べられなくなりますよ!」
と、アンの注意がはいった。ごもっともだ。
ユーリは、
「口をあけてるアデルが、ばかかわいくて、癖になるわ。また、帰りの馬車でしようね?」
と、甘く微笑んできた。
こら、だれが、ばかですって! 後ろにかわいいがついても、ごまかされないわ!
と、そこで、馬車がとまった。
「着いたのかしら?」
ユーリは、馬車の窓のカーテンをあけ、外を確認している。
「宮殿ではないみたいだけどね」
外から、護衛騎士の声がした。
「アデル王女様、ブルージュ国の王子殿下がいらっしゃいました。扉を開けてもよろしいでしょうか?」
「嫌なんだけど」
隣で、ユーリが言う。
その声に、かぶせるように、
「どうぞ、開けて」
と、私が大きめの声で答えた。
扉が開くと、デュラン王子が、にこやかに立っていた。
「アデル王女、長旅お疲れ様。大丈夫だった?」
「ええ、私は馬車でぐっすり眠ったので、元気です!」
と、答えながら、デュラン王子の隣にいるジリムさんが目に入った。
なんだか、目の下のクマが更に濃くなってない?
「ジリムさんは…、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます。大丈夫です。ちょっと、馬車の中で仕事をしていたもので…」
「ジリムの目の下のクマは、ずーっとあるから大丈夫だよ」
と、デュラン王子が笑いながら言った。
いやいや、大丈夫じゃないみたいよ?
ほら、隣を見て! すごい勢いで、ジリムさんがにらんでるよ?
そして、
「誰のせいで、俺のクマが消えないと思ってるんだ…」
ジリムさんがつぶやいた。
「ジリムさん。今日は、家に帰って、ぐっすり眠ってくださいね…」
と、心からの声をかけると、ジリムさんが、微笑んでくれた。
そして、デュラン王子が、
「アデル王女、ランチを食べるので、降りてくれる? 王宮もここからすぐだから、そこでとも思ったけど、そうすると、王が挨拶したいとか言ってたし、食べるのが遅くなるでしょ。おなかがすくと思うから、先にここで食べてから行った方がいいかなと思ってね」
と、言った。
私は、思わず、力強くうなずいてしまった。
もう、すでに、私はおなかがすいてるの! 一刻も早く食べたいの!
適切なお気づかいをありがとうございます、デュラン王子!
急いで降りようとすると、
「待って、アデル」
と、ユーリが先に馬車から降りた。
そして、デュラン王子と馬車の間に立ち、
「アデル、足元、気をつけて降りてね」
と、私の方に手をのばしてくる。
デュラン王子の顔は、笑みをたたえたままだが、ユーリを見る目が怖い…。
二人の間に流れる不穏な空気。
また、なにかはじまったみたいね。
が、私の気持ちは、ランチに飛んでいる! だから、どうでもいいの。
そんなことより、何かな、ランチ? 楽しみだな、私のランチ!
ユーリの手をとり、軽やかに馬車から降り立つと、デュラン王子が、すばやく私の前に進み出た。
そして、
「ようこそ、ブルージュ国へ」
と、甘い笑顔をふりまいた。
同時に、ふわりと、気持ちのいい風がふきぬける。
知らない外国の匂いがして、わくわくしてきた。
が、今は、とにかく、美味しいものが食べたい! まずは食を知ろうだ!
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