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そこへ、

「こら、やめろ」
と、デュラン王子を小声で威嚇する救世主の声が…。
ジリムさんだ。

「アデル王女様、おはようございます。朝から申し訳ありません」

「おはようございます。…えっと、ジリムさん、大丈夫ですか?」
と、私は思わず聞いてしまった。

というのも、打ち合わせで会った時よりも、あきらかに目の下のクマが濃くなっている。
疲労が全身からにじみでてるけど…。

ジリムさんは、はーっとため息をついて言った。

「本当は、先にブルージュ国に帰り、アデル王女様をお出迎えする準備をしたかったのですが、こいつを置いて帰ると、またご迷惑をかけそうで…。なので、こちらから、ブルージュ国へ指示をだしていたので、色々手間取りまして、睡眠が…」

「なんか、本当に色々すみません…。ご迷惑をおかけします…」

「あっ、いえいえ、こちらこそ、アデル王女様には、これが、ご迷惑をおかけしまして。しかし、わが国を訪問していただけるのは、光栄なことです。是非、楽しんでいただけるように、準備いたします」
そう言うと、疲労感いっぱいの笑顔を見せてくれた。

そして、やっと馬車にのることに。
王室所有の馬車のなかでも、遠距離用で大き目の馬車が用意されていた。これだけ広いと、ゆったり、横になって眠れそう!

が、ふと見ると、ユーリとともにデュラン王子まで、私の後ろにぴったりとついてきている。

ん? もしや、この三人で乗るのでしょうか?!

と、思ったら、
「こら、デュー。どこへ行く?」
と、ジリムさん。

「アデル王女の馬車に乗ろうと思って」
と、爽やかに答えるデュラン王子。

「はあああ?!」
ジリムさんの整った顔が、凶悪な顔に変わった。

「だれかのわがままで、ずーっと寝不足な俺に、なに馬鹿なこと言ってんだ?」
怒りのあまり、デュラン王子を王子として扱う口調は、完全に捨て去ったようだ。

「でも、道中で、色々説明もしたいし。一緒の馬車に乗りたいなって」
と、デュラン王子。

すごいな…。こんなジリムさんを目の前に、よくそんなセリフが言えたね。
他人事ながら、震えるわね…。

ジリムさんから、ブチッと音がした気がした。

「つべこべ言わずに、自国の馬車に乗れ!!」
と、一喝。

そして、私たちに、
「失礼しました。では、のちほど」
そう言うと、デュラン王子を引き連れていった。

引っ張られながらも、デュラン王子は、
「じゃあ、また、あとでねー」
と、私に向かって、手をひらひらさせている。

うん、全く凝りていない。反省していない。
さすが、魔王。メンタルがすごいわ…。
そして、魔王を従えるジリムさん。一体、何者かしら?!

「邪魔な虫も消えたし、二人きりで楽しく行こうね」
と、とろけるような笑みをみせたユーリ。

「あ、ダメダメー。アンにも一緒に乗ってもらうからねー」
と、のんびりした声が。
ルイ兄様だ。

「何、言ってんの?!」
と、一気に冷気を放出するユーリ。

「婚約者だけど、まだ婚約してるだけだしね。二人だけで馬車には乗せないよー」
と、にっこりするルイ兄様。

「どういうこと? 王太子は、ぼくが信用ならないって言いたいわけ?」
ルイ兄様に、冷え冷えとした目をむけるユーリ。

でも、ルイ兄様は、にこにこしたまま、
「うん、そうだね。アデルに関して、最近のユーリは、まったく信用ならないかな?」
そう言い切った。

ちょっと、ルイ兄様、なんてことを!

「だから、ユーリ選んで。ひとつめは、アデルとユーリとアンが乗る。ふたつめは、アデルとアンが乗る。みっつめは、アデルとユーリとロイドが乗る。さあ、どれがいい?」
と、ルイ兄様が楽しそうに聞く。

はあ?! ちょっと、最後の何? なぜ、ここでロイド?!
その組み合わせ、私も嫌だけど…。

ほら、ユーリから、何か黒いものが、もれだしてますよ。

なのに、ルイ兄様は、にこにこしたまま、付け加えた。

「ほら、どれにする? 三つもあるんだよ、選択肢。ぼく、優しい!」

なぜ、更にあおるの?!
怖いもの知らずにもほどがあるよ、ルイ兄様…。

ユーリから殺気がでだしたわ。
ルイ兄様、御身大切にね…。

ユーリは憎々し気に言った。
「じゃあ、ひとつめで」

ルイ兄様はそれを聞くと、そばにいたアンに向かって、
「じゃあ、アン。そういうことなんで、アデルをよろしくねー」
と、のほほんと声をかけた。

何よりかわいそうなのは、アンね。
顔がひきつってるものね。
ルイ兄様のせいで、ほんと、ごめんね。

大丈夫、アンのことは守るから。
閉ざされた空間で、怒れる魔王と一緒でも、私が守るから。
安心して、アン!

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