上 下
51 / 158

ユーリ、どうしたの?

しおりを挟む
デュラン王子は、ダニエルに言った。
「少年、甘い話には罠がある。安易にのるな。後悔するぞ」

それは言える…。
特に、ユーリの話にのるのは、やめておいたほうがいいと思う。
ほら、「貸しを作るな」と、あの動物のお菓子たちの目もかたってるわ…。

デュラン王子とユーリの間が、今や、凍りつきそうなほど冷えてきた。

動けなくなっているダニエルを、兄貴分であるロイドが捕獲し、昼食のテーブルにひきつれていった。

よかった。ダニエルを逃がしてくれて!
二人の間に立っていると、氷漬けにされるところだもの。

では、私も逃亡しよう。ここ、寒いから。
後はお二人で、ごゆっくり…。

そーっと向きをかえ、一歩踏み出したとたん、ぐいっと力強く引っ張られた。
勢いがつきすぎて、すっぽりと、なにかにうまった。

背中があたたかい…、じゃなくて、私、今、どうなってるの?!
頭がうごかないんだけど…。

追い打ちをかけるように、耳元で、ユーリが甘い声でささやいた。

「アデル、ぼくと帰ろうよ」

うわっ! なになになに?!

あ、ユーリの腕!
これって、ユーリに後ろからだきしめられてる感じに見えるんじゃない?!

ごはんを食べてた、ちびっ子たちが、こっちを見て、「ぎゃーっ!」とおたけびをあげた。

一気に顔が熱くなる。
なぜか、マルクも顔が赤くなっている。見てないで、助けて!

「ちょっと、離してよ、ユーリ! 恥ずかしいじゃない!」
全力で暴れるけれど、ユーリの腕はびくともしない。

デュラン王子が、冷ややかな目でユーリをにらむ。
「心をつかんでいないから、必死だね。そんなんじゃ、ますます、離れるだけだよ」

「必死で何が悪い? そっちこそ、中途半端に、なに、近づいてんの? 必死になれないなら関わるなってこと」

ユーリの腕が、更に、ぎゅっとしまった。

ちょっと、ユーリ…!
と、思って、顔を見上げて、びくっとした。
ユーリが、今まで、見たことがないほど、焦った顔をしているように見えたから。

いったい、どうしたのかしら?
普段は、嘘くさい天使の笑みをうかべて、完璧にふるまうくせに、なんか、今日は変だよ…。

そこへ、ロイドも飛んできた。
「アデル様をすぐに離してください。というか、離せ!」

うん、うるさい。し、ややこしい。

そこへ、のんきな笑い声が聞こえてきた。師匠だ。

「お姫さんも大変だなあ…。くせの強いやつらに好かれて。まあ、どいつを選んでも、おもしろそうだけどな。いいなあ、俺も一度くらい、もてて困ってみたかった。…いや、そんなこと、俺は考えてないぞ。一人だけ、そう、一人だけにもてたらいいんだ!」
と、誰かにむかって、力強く宣言をしている。

しかし、師匠も変なことを言うわね。
私、もててるわけではないよ?

たぶん、ユーリは、いつも遊んでいたおもちゃがとられそうに感じたんだろうね。
自分で言うと、むなしいけれど…。

ん? なに、マルク? なにか言いたそうな目をしてるわね。

ま、とにかく、今は、この状況をぬけだすことを考えなきゃ。
まずは、この腕をほどいてもらわないとね。

私は、おだやかに言ってみた。
「ユーリ、離して」

「やだ」

え、子ども?

「離せ!」

ロイドは黙って! ややこしくなるから。刺激しないで!

なんか、誘拐犯につかまっている人質の気分なんだけれど…。

「じゃあ、一緒に帰るから、離してよ。ほら、お茶もするんでしょ?」
と、言ってみた。

すると、ユーリは、腕の中の私をみおろして、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。

なに、その心底嬉しそうな笑顔。
思わず、どきっとしたじゃない。
笑顔ひとつで、恐ろしいわね!

「ということで、ぼくたちは、先に帰るねえ」
一気に上機嫌になったユーリに、私は連れ去られた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...