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ユーリ、どうしたの?
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デュラン王子は、ダニエルに言った。
「少年、甘い話には罠がある。安易にのるな。後悔するぞ」
それは言える…。
特に、ユーリの話にのるのは、やめておいたほうがいいと思う。
ほら、「貸しを作るな」と、あの動物のお菓子たちの目もかたってるわ…。
デュラン王子とユーリの間が、今や、凍りつきそうなほど冷えてきた。
動けなくなっているダニエルを、兄貴分であるロイドが捕獲し、昼食のテーブルにひきつれていった。
よかった。ダニエルを逃がしてくれて!
二人の間に立っていると、氷漬けにされるところだもの。
では、私も逃亡しよう。ここ、寒いから。
後はお二人で、ごゆっくり…。
そーっと向きをかえ、一歩踏み出したとたん、ぐいっと力強く引っ張られた。
勢いがつきすぎて、すっぽりと、なにかにうまった。
背中があたたかい…、じゃなくて、私、今、どうなってるの?!
頭がうごかないんだけど…。
追い打ちをかけるように、耳元で、ユーリが甘い声でささやいた。
「アデル、ぼくと帰ろうよ」
うわっ! なになになに?!
あ、ユーリの腕!
これって、ユーリに後ろからだきしめられてる感じに見えるんじゃない?!
ごはんを食べてた、ちびっ子たちが、こっちを見て、「ぎゃーっ!」とおたけびをあげた。
一気に顔が熱くなる。
なぜか、マルクも顔が赤くなっている。見てないで、助けて!
「ちょっと、離してよ、ユーリ! 恥ずかしいじゃない!」
全力で暴れるけれど、ユーリの腕はびくともしない。
デュラン王子が、冷ややかな目でユーリをにらむ。
「心をつかんでいないから、必死だね。そんなんじゃ、ますます、離れるだけだよ」
「必死で何が悪い? そっちこそ、中途半端に、なに、近づいてんの? 必死になれないなら関わるなってこと」
ユーリの腕が、更に、ぎゅっとしまった。
ちょっと、ユーリ…!
と、思って、顔を見上げて、びくっとした。
ユーリが、今まで、見たことがないほど、焦った顔をしているように見えたから。
いったい、どうしたのかしら?
普段は、嘘くさい天使の笑みをうかべて、完璧にふるまうくせに、なんか、今日は変だよ…。
そこへ、ロイドも飛んできた。
「アデル様をすぐに離してください。というか、離せ!」
うん、うるさい。し、ややこしい。
そこへ、のんきな笑い声が聞こえてきた。師匠だ。
「お姫さんも大変だなあ…。くせの強いやつらに好かれて。まあ、どいつを選んでも、おもしろそうだけどな。いいなあ、俺も一度くらい、もてて困ってみたかった。…いや、そんなこと、俺は考えてないぞ。一人だけ、そう、一人だけにもてたらいいんだ!」
と、誰かにむかって、力強く宣言をしている。
しかし、師匠も変なことを言うわね。
私、もててるわけではないよ?
たぶん、ユーリは、いつも遊んでいたおもちゃがとられそうに感じたんだろうね。
自分で言うと、むなしいけれど…。
ん? なに、マルク? なにか言いたそうな目をしてるわね。
ま、とにかく、今は、この状況をぬけだすことを考えなきゃ。
まずは、この腕をほどいてもらわないとね。
私は、おだやかに言ってみた。
「ユーリ、離して」
「やだ」
え、子ども?
「離せ!」
ロイドは黙って! ややこしくなるから。刺激しないで!
なんか、誘拐犯につかまっている人質の気分なんだけれど…。
「じゃあ、一緒に帰るから、離してよ。ほら、お茶もするんでしょ?」
と、言ってみた。
すると、ユーリは、腕の中の私をみおろして、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
なに、その心底嬉しそうな笑顔。
思わず、どきっとしたじゃない。
笑顔ひとつで、恐ろしいわね!
「ということで、ぼくたちは、先に帰るねえ」
一気に上機嫌になったユーリに、私は連れ去られた。
「少年、甘い話には罠がある。安易にのるな。後悔するぞ」
それは言える…。
特に、ユーリの話にのるのは、やめておいたほうがいいと思う。
ほら、「貸しを作るな」と、あの動物のお菓子たちの目もかたってるわ…。
デュラン王子とユーリの間が、今や、凍りつきそうなほど冷えてきた。
動けなくなっているダニエルを、兄貴分であるロイドが捕獲し、昼食のテーブルにひきつれていった。
よかった。ダニエルを逃がしてくれて!
二人の間に立っていると、氷漬けにされるところだもの。
では、私も逃亡しよう。ここ、寒いから。
後はお二人で、ごゆっくり…。
そーっと向きをかえ、一歩踏み出したとたん、ぐいっと力強く引っ張られた。
勢いがつきすぎて、すっぽりと、なにかにうまった。
背中があたたかい…、じゃなくて、私、今、どうなってるの?!
頭がうごかないんだけど…。
追い打ちをかけるように、耳元で、ユーリが甘い声でささやいた。
「アデル、ぼくと帰ろうよ」
うわっ! なになになに?!
あ、ユーリの腕!
これって、ユーリに後ろからだきしめられてる感じに見えるんじゃない?!
ごはんを食べてた、ちびっ子たちが、こっちを見て、「ぎゃーっ!」とおたけびをあげた。
一気に顔が熱くなる。
なぜか、マルクも顔が赤くなっている。見てないで、助けて!
「ちょっと、離してよ、ユーリ! 恥ずかしいじゃない!」
全力で暴れるけれど、ユーリの腕はびくともしない。
デュラン王子が、冷ややかな目でユーリをにらむ。
「心をつかんでいないから、必死だね。そんなんじゃ、ますます、離れるだけだよ」
「必死で何が悪い? そっちこそ、中途半端に、なに、近づいてんの? 必死になれないなら関わるなってこと」
ユーリの腕が、更に、ぎゅっとしまった。
ちょっと、ユーリ…!
と、思って、顔を見上げて、びくっとした。
ユーリが、今まで、見たことがないほど、焦った顔をしているように見えたから。
いったい、どうしたのかしら?
普段は、嘘くさい天使の笑みをうかべて、完璧にふるまうくせに、なんか、今日は変だよ…。
そこへ、ロイドも飛んできた。
「アデル様をすぐに離してください。というか、離せ!」
うん、うるさい。し、ややこしい。
そこへ、のんきな笑い声が聞こえてきた。師匠だ。
「お姫さんも大変だなあ…。くせの強いやつらに好かれて。まあ、どいつを選んでも、おもしろそうだけどな。いいなあ、俺も一度くらい、もてて困ってみたかった。…いや、そんなこと、俺は考えてないぞ。一人だけ、そう、一人だけにもてたらいいんだ!」
と、誰かにむかって、力強く宣言をしている。
しかし、師匠も変なことを言うわね。
私、もててるわけではないよ?
たぶん、ユーリは、いつも遊んでいたおもちゃがとられそうに感じたんだろうね。
自分で言うと、むなしいけれど…。
ん? なに、マルク? なにか言いたそうな目をしてるわね。
ま、とにかく、今は、この状況をぬけだすことを考えなきゃ。
まずは、この腕をほどいてもらわないとね。
私は、おだやかに言ってみた。
「ユーリ、離して」
「やだ」
え、子ども?
「離せ!」
ロイドは黙って! ややこしくなるから。刺激しないで!
なんか、誘拐犯につかまっている人質の気分なんだけれど…。
「じゃあ、一緒に帰るから、離してよ。ほら、お茶もするんでしょ?」
と、言ってみた。
すると、ユーリは、腕の中の私をみおろして、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
なに、その心底嬉しそうな笑顔。
思わず、どきっとしたじゃない。
笑顔ひとつで、恐ろしいわね!
「ということで、ぼくたちは、先に帰るねえ」
一気に上機嫌になったユーリに、私は連れ去られた。
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