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ピンときました

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※アデル視点に戻ります。


動きもだんだん慣れてきて、少しずつ、卵を割るスピードもあがってきたわ。

しかし、前世の記憶があっても、やはり、完全に別人なのね。
この体は、料理を一度もしたことがない、アデルなんだわ、としみじみ。

深いわね、卵をわるって!

さあ、これで、言われた分は、全部われた。

「できました!」
と言いながら、ダニエルの方をむいて、驚いた。

いつの間に!

お鍋にはスープができあがり、そして、大きな器に野菜のサラダもできていた。

うそでしょ?! 私が卵をわっている間にそんなにできるの?!

…あ、そうか。

「スープとサラダは、前もって作ってたの?」 

ダニエルは、へ? という顔をしてから、首を横にふった。

「今、作ったけど」

「ええ?! たった2、3分で? ダニエルって、魔法使いなの?!」

ブフッとふきだす声が聞こえた。

「少なくても、15分はたってるだろ」
師匠が、笑いながら言った。

「えっ?! 嘘よね?」
思わず、確認のため、デュラン王子の方を見る。

師匠が驚かそうと思って、嘘ついてるのよね?

が、デュラン王子は、
「そうだね。それくらいはたってるかな。でも、アディーがかわいくって、時間がたつのが早かったよ」
と、甘くほほえむ。

うん、フォローされても、嬉しくないわね。
そんなに時間がかかったことの衝撃が大きいもの。

「動きが遅すぎて、動いてないみたいなのに、動いてるって、…おもしろいよなあ!」
さらに、師匠が追い打ちをかけた。

ずーん…。

「でも、きれいにわれてるよ。アディー」
横から、かわいい声が。ダニエルだ。

見ると、やさしく、ほほえんでいる。

ダニエル、あなた、天使だったのね!
ここに天使がいました!
見かけだけじゃなく、本物の天使だわ!

落ちこんだ気持ちが、一気に浮き上がる。
私、救われました。
ダニエル天使、ありがとう!

「あと、オムレツを焼くだけだから、すぐ終わるよ」
ダニエルはそう言うと、フライパンをだしてきた。

「じゃあ、アディーは卵を混ぜてくれる?」

「わかったわ」

うん、それならできる。まかせて、天使ダニエル!
力いっぱいまぜるからね!

でも、すぐに、
「もういいよ」
と、ダニエルにとめられた。

え、もういいの? 力、ありあまってますが…。

ダニエルは、さっさと味をつけ、フライパンに油をひく。

「卵の量が多いから、何回かにわけて焼くんだ」
と言うと、手慣れた手つきで焼き始めた。

あっという間に、三つの大きなオムレツができた。
それを、人数分にきれいに切っていく。

「あ、いけない。まったく手伝えてないわね。ダニエルの手際がよくて、思わずみとれてしまったわ!」

私の言葉に、ダニエルが恥ずかしそうに言った。
「ぼくは、ドーラさんと比べると、まだ全然だよ。それに、アデルは卵をわって、混ぜてくれたよ」

はい、やっぱり、ダニエルは天使だわ!
私の気持ちをあげてくれるもの。

「じゃ、次はドーラさんのお昼だけど、何がいいと思う?」
ダニエルが聞いてきた。

病人といえば、おかゆ。
「お米をやわらかく炊いたら、どうかしら?」
と、前世の知識を、さも、今、思いついたように言ってみる。

「お米がないよ」

「あ、そう…え、お米ないの?」

「うん、近所のパン屋さんが、毎日、パンを届けてくれるからね」
ダニエルが指をさした先には、かごいっぱいにパンが盛られていた。

そう言えば、この世界、お米より、パンを食べる率が圧倒的に高いものね。

なるほど、おかゆは炊けないということか。

ま、でも、やわらかくて、消化が良くて、栄養があるものがいいものね。

はい、ピンときました。

「じゃ、パンを柔らかくして、卵も栄養があるから、いれたらどうかしら?」

「パンをやわらかく? ちょっと待って」
ダニエルは、パンと卵をひとつずつ持ってきた。

「そのパンを小さく切って、おなべで煮るの。牛乳でね。それから、お砂糖もいれて甘くして、卵もいれたら、栄養もあって、美味しそうじゃない?」

そう、今、私の頭の中は、前世で大好物だったフレンチトーストがまわっている。
材料的には、こんな感じだったよね?
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