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ダニエル先生

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台所は、居間の隣。扉をあけると、隣の部屋が良く見える。
なるほど。これなら、料理をしながらも、居間にいる子どもたちの様子がわかるね。

「ちょっと大きいけど、これ着て」
そう言って、ダニエルがエプロンを渡してきた。

「ドーラさんのでしょ? いいの?」

ダニエルがうなずく。
「きれいな服が汚れたらダメだから」

そっか。今日は私は町歩き用に、普段着を着ている。
でも、やっぱり、王女の服は質がいい。
きれいに見えてしまよね、としんみり…。

そして、ダニエルの心づかいにぐっときた。
私もがんばるから、美味しいごはんを作ろうね!!

「先に子どもたちのご飯から作るから」
ダニエル自身も、手早く、自分のエプロンをつけながら言った。

「メニューは決めてるの?」
ダニエルは、材料をだしながら、うなずいた。

「今日は近所の人から卵を沢山もらったから、オムレツにする」
確かに、かごに山盛りの卵がある。

「では、私も手伝うわ。何をしたらいいかしら?」

ダニエルは少し考えて、言った。
「卵、われる?」

さすがに卵はわれるよね!
…あ、でも、今世では卵をわったことがなかったわね。

「たぶん、大丈夫…だと思うよ?」

「じゃあ、ひとつ、わってみてくれる」

「了解、まかせて!」

まず、卵をにぎりしめる。
そして、器のへりにめがけて、…叩き落す。

「待って、待って、待って、アディー!」
すごい勢いで、ダニエルが止めに入った。

「なにかしら、ダニエル?」

「すごい力が入ってるけど? 卵をわるんじゃなくて、壊してるの?」

そういえば、肩がガチガチだわ。
前世ぶりの卵をわる作業なので、緊張しちゃったのかしら?

ククッと笑い声が聞こえた。
デュラン王子だ。
いつの間にか、近くの椅子にすわって、こちらを見ている。

見てなさい。今から、本領発揮よ!

と思ったら、ダニエルが言った。
「ぼくがわってみせるから、見てて」

なるほど。それ、いいわね。

「じゃあ、お願いします! ダニエル先生!」

「先生って…」
と言いながら、真っ赤になるダニエル。

あらためて見ると、目はくりっとしていて、まつ毛も長い!
なんだか、悔しいくらい、かわいらしい。
大きくなったら、もてそう。きらきら星人予備軍だわね。

ダニエルは、卵を持ち、器のへりにこつんと軽くあてた。
そして、パカンとあざやかにわる。

「すごいわ、ダニエル!! 流れるような手さばきね!」

思わず、感激して声をあげた。

ダニエルは、またもや真っ赤になって、
「卵をわるくらいで、大げさだよ。アディーもすぐにできるようになるよ」
そう言って、はずかしそうに微笑んだ。
くりくりの大きな瞳が、きらきらしている。

あー、なんていい子なのかしら! そして、かわいい! 頭なでたいっ!
あっ、ダメダメ。子ども扱いしたら、また怒られるわ。

では、私も気合いを入れて、卵をわらせていただきます!

「ほら、そんなににぎりしめないで。普通に持って!」

「はい、先生!」

「そんなに上に手をあげなくていいよ。卵は叩きつけるんじゃないからね!」

「はい、先生!」

「器に、軽くあててみて」

…コスッ

「先生、われません!」

「うん、今度は軽すぎるよね。器にさわるだけじゃ、殻にひびが入らないから」

「はい、先生!」

「もうちょっと、強くあててみて。失敗しても大丈夫だから」

「はい、先生!」

繰り返すこと、何度目か…。

「われました! 先生!」

パチパチパチパチ

拍手がおこった。

デュラン王子やマルク、子どもたち。
いつの間にか、みんなが台所にのりだすようにして、見ていた。

みんなに手をふって、こたえてみせる。

私、やりとげました! 残りの卵わりもおまかせください!

子どもたちが、手をふりかえしてくれた。
ほんと、いい子たちねえ。

そんな感動のなか、笑い転げてる人が一名。師匠!
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