上 下
33 / 158

師匠あらわる

しおりを挟む
また、歩き始めると、今度は、道具を売っているお店のエリアに入った。

と、そこで、お店からでてきた男性が、私のほうを見るなり、
「あれ、ロイ坊じゃないか?」
と、声をかけてきた。

小柄で、中年の男性だ。

ロイボウ? ロイボウってなに?
男性の目線を追うと、私の真後ろ。…あ、ロイドのこと?!

「ご無沙汰しております、師匠」
ロイドは、そう言って、きっちりとお辞儀をした。

「あいかわらず、くそ真面目だな、おい」

口が悪いわね。ロイドとは真逆のタイプみたい。なんの師匠なのかしら?

と、師匠と目があった。

「おっ、そちらのきれいなお嬢さんは?」

口は悪いけど、いい人みたいね。

「こちらは、私のお仕えする主、アデル王女様です」

いやいや、あなたの主はルイ兄様でしょ。王太子専属護衛騎士さん。

師匠は、目を見開くと、
「俺はそういうのに、うといもんで、失礼しました」
そう言って、笑った。

「いえ、お気になさらず」
私もにっこり微笑んだ。

すると、師匠はにやりと笑って、ロイドを見た。
「なるほど。このかたが、おまえのお姫さんか…。念願かなって、おそばにいるんだな」

「念願かなうって?」
私は思わず、口をはさんだ。

「だまっててください、師匠」
ロイドが珍しく、あせった様子で言った。
見ると、顔が赤くなってる!
え、なんか、かわいい! ほんと、ずるいな、きらきら星人は。

こうなったら、意地でも聞いてやる!

「教えてください、師匠!!」
おっと、前のめりになってしまった。
なんの師匠かも知らないけれど…。

師匠がブフォッと、ふきだした。
「…なんというか、おもしろいお姫さんだな」

あら、何かでてましたか?

「そう、そこが素敵なところなんです」
すかさず、そう言ったのは、デュラン王子だ。

「これまた、えらい男前さんだが、お姫さんの噂の婚約者かい?」

「まったく違いますよ。こちらは、ブルージュ国の第二王子殿下です」
すぐさま、そして、きっぱりと、ロイドが訂正する。

「まあ、ほんとに婚約者になってしまうかもしれないけれどね」
と、デュラン王子が、にこやかに言った。

お願いだから、魔王から魔王への変更はやめて。

「ありえません…。しかし、今の婚約者は、いずれアデル王女様にふさわしい、素晴らしい方に変わるでしょうが」

ロイド…、ユーリが聞いたら、凍らされるわよ。

ほら、マルクを見て。
急いで、耳をふさいでいるわ。
聞かなかったことにするつもりね。
わかるわ。聞いてしまったら同罪、みたいなこと、言いそうだものね、あの魔王は。
怖いわ…。

「なんか、お姫さんも色々大変そうだな」
師匠が、気の毒そうな目で私を見た。

そう、その通り。色々大変なんです。魔王とか、魔王とか…。

しかし、服装からして、師匠は町の人。
貴族のロイドと、どうやって知りあったのかしら?

「ロイドとは、いつからお知り合いなんですか?」
と、聞いてみる。

「確か、今のお姫さんよりも、もうちょい小さい頃だったか。ちょうど、この市場の近くで、俺があらくれどもに説教してた時に通りかかってな」

「いえ、説教ではなく、全員のしてましたよ。師匠」
ロイドが冷静に訂正する。

「言っても聞かん奴らだったからなあ。おとなしくさせて、その後、説教したんだっけな? まあ、とにかく、そこへ、ロイ坊が飛びだしてきて、弟子にしてくださいって、頼んできたんだ」

「では、そのくらいで師匠。さようなら」
と、いきなり、話をぶちぎりにして、私を連れて立ち去ろうとするロイド。

こらこら、話はここからでしょ!

あわてるロイドに興味をひかれた様子のデュラン王子が、
「で、そのあとは、どうなったんですか?」
と、師匠に続きを促した。

「断ったよ。いかにも、貴族のなまっちろくて、ひょろっとしたガキだし、面倒だなって。が、こいつは本当にしつこかった。毎日、毎日、やってくるんだ」

「それで、師匠はロイドの熱意にうたれて、弟子にしたわけね」

なんか、良い話じゃない! 感動しちゃうわ!

「いえ、私の持っていく手土産の菓子につられたんですよね、師匠」
と、これまた冷静に訂正をいれるロイド。

「ははは、まあな。俺は甘いもんに目がなくてな…」

本当に食べ物につられたのね。感動をかえして、師匠!






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...