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寒いんですが

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「アデル王女、どうかした?」
と、デュラン王子が聞いてきた。

はい、命の危機がせまっています。

とも言えず、
「いえいえ、ちょっと、ここ、冷気があたって寒いなあって…」

天使にご心配をおかけするわけにはいかない。
が、あの恐ろしい視線から逃れるために、一刻も早く、ユーリの死角に入らねば…。

ということで、さささっと横歩きをしながら、速やかに、ユーリの視線上から逃れていく。

「空調がよく効いているからね」
と、デュラン王子もついてきた。

ここまでくれば大丈夫かな?

振り返るのは、もちろん怖いが、怖いものを、そのままにしておくのはもっと怖い。
なので、おそるおそる確認する。

ちらっ

ちょうど、グループになっている人たちのおかげで、ユーリの姿が見えない。

ひとまず、よしっ!

「なんか、アデル王女っておもしろいね」

はっと気がつくと、すみれ色の目が楽しそうに私を見つめている。

あっ! 天使のこと、忘れてた。
私、王女らしさゼロだったよね。
それどころか、不審者の動きだったよね!

よその国の王族の前で、というか、天使の前で、私ったらはずかしい!
なんとか、挽回を…。

「えっと、いつもの私は、もっとちゃんとしてて、…そう、色々かきあつめて、王女らしくしてるんです!」

ん? あせってしまい、さらに変なことを言ってしまった?!

「だめだ。…くくっ、…ははっ」
そうつぶやくと、デュラン王子は体をふるわせて笑いだした。

まわりから、きゃっと声があがる。

花をまきちらしながら笑う姿は、甘さ爆発。まわりの女性たちの視線を釘付けにしている。

…が、なかなか笑いがとまらない。

もしや、笑い上戸ですか?
まあ、天使に笑っていただけて、何よりです…。

やっと、笑いがとまったデュラン王子は、少しかがみ、背の低い私の目線にあわせてきた。
熱をおびた、すみれ色の瞳が、私の瞳をとらえる。

なんかぞわっとした。ちょっと、ユーリみたいなんだけど…。
恐ろしいほどの色気がもれはじめ、まわりの女性たちが悲鳴をあげた。
さっきまでの邪気のない天使、どこ行ったの? 戻ってきて!!

私は思わず横に逃げようとすると、長い手がのびてきて遮られた。

え、怖い! なに、なに? なに、言われるの?

「アデル王女のこと、もっと知りたくなったんだけど」

…ん? 
なんだと思ったら、そんなこと。お安い御用じゃない?

だって、リッカ先生のファンなら、親友も同然だもの。
お互い、どんどん知っていこう!

「いいよ! そうだ、リッカ先生の話も聞かせてね!」

デュラン王子は、一瞬かたまったあと、つぶやいた。
「なにこの生きもの。おもしろい、かわいい、育てたい」

なんか、変なセリフがところどころ混じってなかった?

と思ったら、デュラン王子は、また、天使のような笑顔に戻っていた。

そこへ、
「ねえ、アデル。 なに、堂々と浮気してるの?」
背後から、地をはうような声がした。

怖すぎて、振りむけない。

ゴーッと冷たい風がふきあれはじめた。

寒い! ここだけ極寒のよう! 助けて!
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