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まさか
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※ 今のお話に戻ります。
春休みに入ってからも、どこにも出かけず、私は家にいた。
人にほとんど会っていないのに、ケヤキの妖精とは毎日会う。
今日のおやつは肉まん。
ケヤキの妖精もさすがに食べないよね?
そう思ったから、レンジであたためた肉まんを部屋に持っていく。
一人で食べ始めたとき、窓からケヤキの妖精が入ってきた。
「いい匂いがすると思えば、やっぱり、おぬしか! わしに持ってこず、ひとりで食べるとはずるいだろう!」
飛び跳ねながら、文句を言うケヤキの妖精。
「でも、今日のおやつは甘くないから……。好きじゃないかなあと思って……」
そう言うと、緑色の目をぎろっと見開いた。
「わしの好き嫌いを、おぬしが決めるでない! 早く食べさせろ!」
と、どなった。
人にごちそうになる態度ではないけれど、これ以上、怒らすのも面倒なので、ほかほかの肉まんをわけた。
結果、ケヤキの妖精は肉まんもお気に召したよう。
誰かに教える機会もないけれど、このケヤキの妖精は雑食だってことがわかった。
それ以来、ケヤキの妖精は、「おぬしは、うまいものをひとりじめしようとするからな。油断ならん」とか言いながら、毎日、午後3時になると、私の部屋をのぞくようになった。
◇ ◇ ◇
もうすぐ3時。
そろそろケヤキの妖精がくる時間だなあと思い、窓をあけて、外を見た。
私の家の玄関の前で、たたずむ人。
……え、冬樹君?
わたしはとっさに窓から離れた。
2年前、一度だけ、冬樹君は、うちの庭のケヤキを見にきたことがある。
図書館のとなりだから。
でも、まさかね……。
見間違いだよね……。
気になって、もう一度、窓に近づいた。
そっと、外を見た。
遠ざかっていく後ろ姿は、緑色のトートバッグを手にもっている。
2年前、図書館によく持ってきていたバッグにそっくり。
やっぱり冬樹君……?
「私の家、おぼえてたんだ……」
私は動揺したまま、つぶやいた。
「あたりまえじゃ。今は、この家のあわれなケヤキにつきっきりじゃ。忘れるわけがなかろう」
と、声がした。
ケヤキの妖精が、窓をまたいで、入ってきていた。
「あ……ちがう。ケヤキの妖精さんに言ったんじゃない……。だって、うちを忘れるどころか毎日いるじゃない……」
ケヤキの妖精がめんどくさそうにため息をついた。
「そんなことはどうでもよい。それより、今日のおやつはなんだ?」
私のほうこそ、今はそれどころじゃない。
気持ちを整理したいのに……。
「今日はどらやき。はい、どうぞ」
私は、すでに半分にきってお皿にのせておいたどらやきを、ケヤキの妖精のほうに、なげやりに押した。
今日は、さっさと食べて、早く帰ってほしい。
ケヤキの妖精は、つまようじみたいな細い手で、ちょちょいと、どらやきをつついた。
「ほおお! こりゃ、やわらかい! 寝床にも良さそうな弾力じゃ! さて、それでは、いただくか……」
そう言って、いつものように、大喜びでかぶりついていった。
◇ ◇ ◇
「いやはや、おぬしのおやつは、どれも、うまいものよのう。ゲプッ……」
どらやきをあっという間にたいらげて、机の上でゴロンと横になったケヤキの妖精。
もう慣れたけれど、ほんと、自由すぎるよね。
でも、どうしたんだろう?
いつもは、食べたらすぐに、「いそがしい、いそがしい」と言いながら去っていくのに、今日は机の上でゴロゴロしたままだ。
早く帰ってほしい時にかぎって、なんで……?
あ、もしかして、残りの半分のどらやきまで狙ってる?
と警戒した時だった。
「して、人の子よ」
ケヤキの妖精が声をかけてきた。
「これは私の分だから、あげない」
「なんじゃと?」
「だから、ケヤキの妖精さんは、もう食べたでしょ。これは私のどらやきだからダメ」
そう言って、私の分のどらやきがのったお皿を自分の方へ引き寄せた。
「これ、人の子よ。まさか、わしがおぬしのおやつまでくれと言うと思うてか?」
「ちがうの?」
「あたりまえじゃ! たとえ、わしが食べ足りなくとも、まるごと全部ほしくとも、口には出さん! わしは遠慮深く、礼儀正しい、誇り高い、妖精の中の妖精。きっすいの妖精じゃからな。……しかしじゃ、おぬしが是非にともいうのなら、もらってやらぬことはないが……」
とたんに、ぎらぎらした目で、私のどらやきを狙いはじめた。
私は、どらやきをちぎって、あわてて口に押し込んだ。
「……んぐ、……じゃあ、何をいいかけたの?」
もぐもぐと口を動かしながら、ケヤキの妖精に聞いた。
減っていく私のどらやきを残念そうに見ながら、ケヤキの妖精は言った。
「最初に会った時、おぬしは妖精が見えるといっておったろう? どんな妖精を見たのか気になっただけじゃ」
「そうだね……。家の中だと、たとえば、あそこ」
私は天井のすみを指さした。
春休みに入ってからも、どこにも出かけず、私は家にいた。
人にほとんど会っていないのに、ケヤキの妖精とは毎日会う。
今日のおやつは肉まん。
ケヤキの妖精もさすがに食べないよね?
そう思ったから、レンジであたためた肉まんを部屋に持っていく。
一人で食べ始めたとき、窓からケヤキの妖精が入ってきた。
「いい匂いがすると思えば、やっぱり、おぬしか! わしに持ってこず、ひとりで食べるとはずるいだろう!」
飛び跳ねながら、文句を言うケヤキの妖精。
「でも、今日のおやつは甘くないから……。好きじゃないかなあと思って……」
そう言うと、緑色の目をぎろっと見開いた。
「わしの好き嫌いを、おぬしが決めるでない! 早く食べさせろ!」
と、どなった。
人にごちそうになる態度ではないけれど、これ以上、怒らすのも面倒なので、ほかほかの肉まんをわけた。
結果、ケヤキの妖精は肉まんもお気に召したよう。
誰かに教える機会もないけれど、このケヤキの妖精は雑食だってことがわかった。
それ以来、ケヤキの妖精は、「おぬしは、うまいものをひとりじめしようとするからな。油断ならん」とか言いながら、毎日、午後3時になると、私の部屋をのぞくようになった。
◇ ◇ ◇
もうすぐ3時。
そろそろケヤキの妖精がくる時間だなあと思い、窓をあけて、外を見た。
私の家の玄関の前で、たたずむ人。
……え、冬樹君?
わたしはとっさに窓から離れた。
2年前、一度だけ、冬樹君は、うちの庭のケヤキを見にきたことがある。
図書館のとなりだから。
でも、まさかね……。
見間違いだよね……。
気になって、もう一度、窓に近づいた。
そっと、外を見た。
遠ざかっていく後ろ姿は、緑色のトートバッグを手にもっている。
2年前、図書館によく持ってきていたバッグにそっくり。
やっぱり冬樹君……?
「私の家、おぼえてたんだ……」
私は動揺したまま、つぶやいた。
「あたりまえじゃ。今は、この家のあわれなケヤキにつきっきりじゃ。忘れるわけがなかろう」
と、声がした。
ケヤキの妖精が、窓をまたいで、入ってきていた。
「あ……ちがう。ケヤキの妖精さんに言ったんじゃない……。だって、うちを忘れるどころか毎日いるじゃない……」
ケヤキの妖精がめんどくさそうにため息をついた。
「そんなことはどうでもよい。それより、今日のおやつはなんだ?」
私のほうこそ、今はそれどころじゃない。
気持ちを整理したいのに……。
「今日はどらやき。はい、どうぞ」
私は、すでに半分にきってお皿にのせておいたどらやきを、ケヤキの妖精のほうに、なげやりに押した。
今日は、さっさと食べて、早く帰ってほしい。
ケヤキの妖精は、つまようじみたいな細い手で、ちょちょいと、どらやきをつついた。
「ほおお! こりゃ、やわらかい! 寝床にも良さそうな弾力じゃ! さて、それでは、いただくか……」
そう言って、いつものように、大喜びでかぶりついていった。
◇ ◇ ◇
「いやはや、おぬしのおやつは、どれも、うまいものよのう。ゲプッ……」
どらやきをあっという間にたいらげて、机の上でゴロンと横になったケヤキの妖精。
もう慣れたけれど、ほんと、自由すぎるよね。
でも、どうしたんだろう?
いつもは、食べたらすぐに、「いそがしい、いそがしい」と言いながら去っていくのに、今日は机の上でゴロゴロしたままだ。
早く帰ってほしい時にかぎって、なんで……?
あ、もしかして、残りの半分のどらやきまで狙ってる?
と警戒した時だった。
「して、人の子よ」
ケヤキの妖精が声をかけてきた。
「これは私の分だから、あげない」
「なんじゃと?」
「だから、ケヤキの妖精さんは、もう食べたでしょ。これは私のどらやきだからダメ」
そう言って、私の分のどらやきがのったお皿を自分の方へ引き寄せた。
「これ、人の子よ。まさか、わしがおぬしのおやつまでくれと言うと思うてか?」
「ちがうの?」
「あたりまえじゃ! たとえ、わしが食べ足りなくとも、まるごと全部ほしくとも、口には出さん! わしは遠慮深く、礼儀正しい、誇り高い、妖精の中の妖精。きっすいの妖精じゃからな。……しかしじゃ、おぬしが是非にともいうのなら、もらってやらぬことはないが……」
とたんに、ぎらぎらした目で、私のどらやきを狙いはじめた。
私は、どらやきをちぎって、あわてて口に押し込んだ。
「……んぐ、……じゃあ、何をいいかけたの?」
もぐもぐと口を動かしながら、ケヤキの妖精に聞いた。
減っていく私のどらやきを残念そうに見ながら、ケヤキの妖精は言った。
「最初に会った時、おぬしは妖精が見えるといっておったろう? どんな妖精を見たのか気になっただけじゃ」
「そうだね……。家の中だと、たとえば、あそこ」
私は天井のすみを指さした。
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