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無理もない
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その時、神殿の扉が開いて、神官見習いのアランが入って来た。
私の方を見ている。用があるみたい。
私よりも先に、王太子様がアランに声をかけた。
「ルシェルに用があるのでしょう? どうぞ」
優雅に微笑む。
すると、アランは一瞬固まって、真っ赤になった。
ああ、そうよね…。
アランは、まだ、ここへ来て数か月。
今は、神官になるための勉強とともに、神殿全体の雑用をしている。
なので、王太子様に会う機会はなかったと思う。
耐性がないと、この美しさは驚くよね…。
しかも、私の霧をまとって、パワーアップしているものね…。
美の神が降臨したみたいな感じで、王太子様のまわりだけ異空間だし。
固まったままのアランのところへいき、パチンと目の前で軽く手をたたいた。
はっとしたように、意識を戻したアラン。
「あ、も、…申し訳ありません! 筆頭聖女ルシェル様…」
あせりまくっているアラン。
「大丈夫だから、落ち着いて。無理もないわ…。それより、何の用かしら?」
「あっ、はい。新しい聖女様が来られて、今、聖女アリシア様が神殿内をご案内されています。もし、お祈りが終わっておられたら、次はここを案内されたいそうなのですが、いかがでしょうか?」
「いいですよ、どうぞ。私も新人聖女に挨拶しておきたいので、こちらで待っています」
私より先に答えた王太子様。
そして、アランに美しい笑みを投げかける。
あの…、アランにとどめを刺そうとするのはやめていただけますか?
思ったとおり、アランが石のように固まった。
面倒なので、両肩をもって、雑にゆさぶってみる。
あ、動き出した。
「ひゃ、…はいっ! 承りました! 今、すぐに、呼んでまいりますっ!」
アランが頭を下げて、猛スピードで去っていった。
アランの後ろ姿を見送り、振り返ると、目の前に麗しいお顔が…!
王太子様が、私に至近距離まで近づき、妖しい笑みを浮かべて私をじっと見ている。
顔は笑っているけれど、目の奥に不機嫌なものが宿っている。
「…えっと、どうされました…?!」
「ルシェル。先程、あの男の両肩を触りましたね?」
「へ? あの男…?」
この方、一体、何を言っているの…?
記憶を巻き戻してみる。
ああ、あの男って、アランのこと?
触った? まあ、触ったけれど。正気に戻すため、適当に両肩をつかんだっていうか…。
「ええと、それが何か…?」
「ルシェル。非常時でもないのに異性に触れないでください」
「異性? アランが? …っていうか、アランはまだ14歳で、子どもですが…」
「14歳といっても、年はルシェルとはふたつしか違いませんから。要注意です」
「…要注意?」
「ルシェル。わかりましたか?」
王太子様が更に顔をちかづけ、その凶暴な美貌で圧をかけてくる。
全然、わかりません。
なんて、言える勇気は私には全くない…。
「…わかりました。もう、異性を触りません!」
思わず、大きな声で宣言して、はっとした。
この発言、おかしくないかしら?
あわててあたりを見回す。
視線のあわないアルバートさんは、無の表情のまま。
そして、王太子様に言われた距離をきっちり保ち、離れたところから、私を見ている護衛騎士のジャック。
目があった。なんとも言えない残念そうな目で私を見ている。
あ、つまり、アランうんぬんのくだりは全く聞こえてなくて、今の私の言葉だけがジャックに聞こえたってこと?!
なんか、私、痴女みたいではない?!
私の方を見ている。用があるみたい。
私よりも先に、王太子様がアランに声をかけた。
「ルシェルに用があるのでしょう? どうぞ」
優雅に微笑む。
すると、アランは一瞬固まって、真っ赤になった。
ああ、そうよね…。
アランは、まだ、ここへ来て数か月。
今は、神官になるための勉強とともに、神殿全体の雑用をしている。
なので、王太子様に会う機会はなかったと思う。
耐性がないと、この美しさは驚くよね…。
しかも、私の霧をまとって、パワーアップしているものね…。
美の神が降臨したみたいな感じで、王太子様のまわりだけ異空間だし。
固まったままのアランのところへいき、パチンと目の前で軽く手をたたいた。
はっとしたように、意識を戻したアラン。
「あ、も、…申し訳ありません! 筆頭聖女ルシェル様…」
あせりまくっているアラン。
「大丈夫だから、落ち着いて。無理もないわ…。それより、何の用かしら?」
「あっ、はい。新しい聖女様が来られて、今、聖女アリシア様が神殿内をご案内されています。もし、お祈りが終わっておられたら、次はここを案内されたいそうなのですが、いかがでしょうか?」
「いいですよ、どうぞ。私も新人聖女に挨拶しておきたいので、こちらで待っています」
私より先に答えた王太子様。
そして、アランに美しい笑みを投げかける。
あの…、アランにとどめを刺そうとするのはやめていただけますか?
思ったとおり、アランが石のように固まった。
面倒なので、両肩をもって、雑にゆさぶってみる。
あ、動き出した。
「ひゃ、…はいっ! 承りました! 今、すぐに、呼んでまいりますっ!」
アランが頭を下げて、猛スピードで去っていった。
アランの後ろ姿を見送り、振り返ると、目の前に麗しいお顔が…!
王太子様が、私に至近距離まで近づき、妖しい笑みを浮かべて私をじっと見ている。
顔は笑っているけれど、目の奥に不機嫌なものが宿っている。
「…えっと、どうされました…?!」
「ルシェル。先程、あの男の両肩を触りましたね?」
「へ? あの男…?」
この方、一体、何を言っているの…?
記憶を巻き戻してみる。
ああ、あの男って、アランのこと?
触った? まあ、触ったけれど。正気に戻すため、適当に両肩をつかんだっていうか…。
「ええと、それが何か…?」
「ルシェル。非常時でもないのに異性に触れないでください」
「異性? アランが? …っていうか、アランはまだ14歳で、子どもですが…」
「14歳といっても、年はルシェルとはふたつしか違いませんから。要注意です」
「…要注意?」
「ルシェル。わかりましたか?」
王太子様が更に顔をちかづけ、その凶暴な美貌で圧をかけてくる。
全然、わかりません。
なんて、言える勇気は私には全くない…。
「…わかりました。もう、異性を触りません!」
思わず、大きな声で宣言して、はっとした。
この発言、おかしくないかしら?
あわててあたりを見回す。
視線のあわないアルバートさんは、無の表情のまま。
そして、王太子様に言われた距離をきっちり保ち、離れたところから、私を見ている護衛騎士のジャック。
目があった。なんとも言えない残念そうな目で私を見ている。
あ、つまり、アランうんぬんのくだりは全く聞こえてなくて、今の私の言葉だけがジャックに聞こえたってこと?!
なんか、私、痴女みたいではない?!
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