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王宮で探る 21
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アルに促され、私は、また話し出した。
「ええと、じゃあ続きを話しますね……。私の父は、そんな強めの種がうまれるくらいの邪気がついていたのに、自覚症状がなかった。なのに、ジュリアンさんとコリーヌ様の場合は、邪気の影響が強くでて、邪気がとれるまで苦しみが続いた、その違いというか……。おふたりは邪気と共存したり、慣れたりすることから、あらがい続けていた感じがするんです。つまり、おふたりについた邪気は、気づかずについて、たまっていくような類の普通の邪気じゃない。人としての本能が危険を察知して、異常な状態で知らせてくるような、異質な邪気だったのでは、と思いました。でも、そんな特殊な邪気を沢山身にまとっていたイライザさん、あ、イライザ様……もう、イライザさんでいいか。とにかく、イライザさんは体調的にはお元気そうに見えました……」
「それは、あの女自身が邪気をつくりだしているからじゃないのか?」
と、アルが嫌そうに言った。
「うーん、そこも気になるところなんだよね……」
そうつぶやくと、私は自分が感じた、もやもやとした違和感をみんなに伝えるため、頭の中で言葉に変換しはじめた。
「確かに、イライザさんは邪気を発しているとは思う。でも、どうしても、その向こうにもっと強い何かを感じたんだよね……。それに、ジュリアンさんにイライザさんの邪気がつくのはわかるの。多分、アンナさんがパトリックを思い通りにしようとした感じに似てると思うから。……あ、変なたとえでごめんなさい」
私の言葉に、ジュリアンさんが首を横にふり、哀愁あふれる口ぶりで言った。
「気をつかってくれてありがとう、ライラちゃん。わかりやすすぎて、今、猛烈に身に染みてる……」
「ほんと、色仕掛けどころか、自分が邪気まみれにされてどうするんだ、ジュリアン」
アルがあきれたように言うと、ジュリアンさんがしょぼんとなった。
「……反省してます」
絵に描いたようにうなだれるジュリアンさんから視線をそらして、私のほうに向きなおったアル。
「つまり、ライラが言いたいのは、あの女の発した邪気だった場合、ジュリアンはわかるけれど、母上につくのはわからないってことだよな。確かに……。母上に邪気をつけるなら、どう考えても、あの女より、あの女の叔母で、グリシア侯爵の妹の側妃だろ。母上と俺を目の敵にしてるからな。それか、グリシア侯爵自身もあり得るな。妹の側妃のため、邪魔な母上と俺を王宮から出すために邪気をつけたとか。実際、あの時、母上は長く苦しめられ、結局、辺境に療養に行くことになったわけだし……」
「でも、そのおかげで私もアルもライラちゃんに会えたでしょう。その点だけは、邪気をつけられたことに感謝しないとね」
「いや、俺がライラと出会えたのは運命だったからだ。邪気をつけられなくても、絶対に出会ったはずだ」
アルが即座に言い切った。
次の瞬間、ブハッとふきだしたジュリアンさん。
「氷の王子と呼ばれたアルが、運命なんて言い出す日がこようとは……乙女か……。だめだ、笑える」
コリーヌ様も楽しそうに笑いながら、「アルの言う通りかもしれないわね」と、うなずいた。
恥ずかしいけれど、アルとコリーヌ様にそういってもらえて、私の心がほわっとあたたかくなる。
ジュリアンさんの笑いの波が落ち着いたあと、コリーヌ様が話を戻した。
「私もイザベルさん自身から邪気をつけられたとは思わないわ。そもそも、あまり関わりがないの。もちろん、イザベルさんのお父様のグリシア侯爵や、その妹である側妃アメルダ様とは色々あるから、私に良い感情はもっていないでしょうけれど……」
と、言葉をにごされたコリーヌ様。
「母上の場合は、あの女自身がつけたわけじゃないにしても、種をみると、ジュリアンについた邪気と同じ類だ。そうなると、さっきのジュリアンの話にでてきたロアンダ国の男が渡した怪しい水のように、何かに入れて他人に渡せるものならば腑に落ちる。やはり、グリシア侯爵家とロアンダ国が関わってそうだな。だとしたら、さっきのジュリアンの話の続きが気になるところだが」
「うん、私も、気になる! 薬師の人が令嬢とそのお母様に、もらった水を使ったあと、そのふたりは、どうなったんろうって。ジュリアンさんやコリーヌ様みたいに、あからさまに体調に影響がでたのか反応が気になって」
「なるほど、そうだよね……。その後の話として俺が覚えてるのは、あの薬師の男は、結局、願いは叶ったみたいで、その令嬢と結婚できたってこと。ただ、変な水を使って結婚したもんだから、相手の思いに不安になっているようだった。あの水のおかげで結婚できたけど、あの水の支配はずっと続いてるんだろうか。だとしたら、その支配がとけたとき、自分と結婚したことを後悔するんじゃないか。とか、そもそも、自分に気持ちがないのに、無理やり結婚したんだとしたらむなしいとか、同じようなことをぐちぐち言いだしたから、そこで興味を失って聞くのをやめたんだよね。つまり、その水を使ったことで、そのふたりにどんな反応がでたか、でなかったのかは、まるでわからないんだ」
「そうなんだ……。でも、もし、水を使って体調が悪化したら、きっと結婚どころじゃなくなってたよね」
「多分。でも、確証はないから、ライラちゃん。1週間、待ってくれる?」
「え……?」
ジュリアンさんの言葉に、思わず聞き返した。
「ええと、じゃあ続きを話しますね……。私の父は、そんな強めの種がうまれるくらいの邪気がついていたのに、自覚症状がなかった。なのに、ジュリアンさんとコリーヌ様の場合は、邪気の影響が強くでて、邪気がとれるまで苦しみが続いた、その違いというか……。おふたりは邪気と共存したり、慣れたりすることから、あらがい続けていた感じがするんです。つまり、おふたりについた邪気は、気づかずについて、たまっていくような類の普通の邪気じゃない。人としての本能が危険を察知して、異常な状態で知らせてくるような、異質な邪気だったのでは、と思いました。でも、そんな特殊な邪気を沢山身にまとっていたイライザさん、あ、イライザ様……もう、イライザさんでいいか。とにかく、イライザさんは体調的にはお元気そうに見えました……」
「それは、あの女自身が邪気をつくりだしているからじゃないのか?」
と、アルが嫌そうに言った。
「うーん、そこも気になるところなんだよね……」
そうつぶやくと、私は自分が感じた、もやもやとした違和感をみんなに伝えるため、頭の中で言葉に変換しはじめた。
「確かに、イライザさんは邪気を発しているとは思う。でも、どうしても、その向こうにもっと強い何かを感じたんだよね……。それに、ジュリアンさんにイライザさんの邪気がつくのはわかるの。多分、アンナさんがパトリックを思い通りにしようとした感じに似てると思うから。……あ、変なたとえでごめんなさい」
私の言葉に、ジュリアンさんが首を横にふり、哀愁あふれる口ぶりで言った。
「気をつかってくれてありがとう、ライラちゃん。わかりやすすぎて、今、猛烈に身に染みてる……」
「ほんと、色仕掛けどころか、自分が邪気まみれにされてどうするんだ、ジュリアン」
アルがあきれたように言うと、ジュリアンさんがしょぼんとなった。
「……反省してます」
絵に描いたようにうなだれるジュリアンさんから視線をそらして、私のほうに向きなおったアル。
「つまり、ライラが言いたいのは、あの女の発した邪気だった場合、ジュリアンはわかるけれど、母上につくのはわからないってことだよな。確かに……。母上に邪気をつけるなら、どう考えても、あの女より、あの女の叔母で、グリシア侯爵の妹の側妃だろ。母上と俺を目の敵にしてるからな。それか、グリシア侯爵自身もあり得るな。妹の側妃のため、邪魔な母上と俺を王宮から出すために邪気をつけたとか。実際、あの時、母上は長く苦しめられ、結局、辺境に療養に行くことになったわけだし……」
「でも、そのおかげで私もアルもライラちゃんに会えたでしょう。その点だけは、邪気をつけられたことに感謝しないとね」
「いや、俺がライラと出会えたのは運命だったからだ。邪気をつけられなくても、絶対に出会ったはずだ」
アルが即座に言い切った。
次の瞬間、ブハッとふきだしたジュリアンさん。
「氷の王子と呼ばれたアルが、運命なんて言い出す日がこようとは……乙女か……。だめだ、笑える」
コリーヌ様も楽しそうに笑いながら、「アルの言う通りかもしれないわね」と、うなずいた。
恥ずかしいけれど、アルとコリーヌ様にそういってもらえて、私の心がほわっとあたたかくなる。
ジュリアンさんの笑いの波が落ち着いたあと、コリーヌ様が話を戻した。
「私もイザベルさん自身から邪気をつけられたとは思わないわ。そもそも、あまり関わりがないの。もちろん、イザベルさんのお父様のグリシア侯爵や、その妹である側妃アメルダ様とは色々あるから、私に良い感情はもっていないでしょうけれど……」
と、言葉をにごされたコリーヌ様。
「母上の場合は、あの女自身がつけたわけじゃないにしても、種をみると、ジュリアンについた邪気と同じ類だ。そうなると、さっきのジュリアンの話にでてきたロアンダ国の男が渡した怪しい水のように、何かに入れて他人に渡せるものならば腑に落ちる。やはり、グリシア侯爵家とロアンダ国が関わってそうだな。だとしたら、さっきのジュリアンの話の続きが気になるところだが」
「うん、私も、気になる! 薬師の人が令嬢とそのお母様に、もらった水を使ったあと、そのふたりは、どうなったんろうって。ジュリアンさんやコリーヌ様みたいに、あからさまに体調に影響がでたのか反応が気になって」
「なるほど、そうだよね……。その後の話として俺が覚えてるのは、あの薬師の男は、結局、願いは叶ったみたいで、その令嬢と結婚できたってこと。ただ、変な水を使って結婚したもんだから、相手の思いに不安になっているようだった。あの水のおかげで結婚できたけど、あの水の支配はずっと続いてるんだろうか。だとしたら、その支配がとけたとき、自分と結婚したことを後悔するんじゃないか。とか、そもそも、自分に気持ちがないのに、無理やり結婚したんだとしたらむなしいとか、同じようなことをぐちぐち言いだしたから、そこで興味を失って聞くのをやめたんだよね。つまり、その水を使ったことで、そのふたりにどんな反応がでたか、でなかったのかは、まるでわからないんだ」
「そうなんだ……。でも、もし、水を使って体調が悪化したら、きっと結婚どころじゃなくなってたよね」
「多分。でも、確証はないから、ライラちゃん。1週間、待ってくれる?」
「え……?」
ジュリアンさんの言葉に、思わず聞き返した。
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