(番外編) 私のことが嫌いなら、さっさと婚約解消してください。私は、花の種さえもらえれば満足です!

水無月あん

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パトリックの記憶 8

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ぼくは、さっきから、ずーっと時計を見ている。
そして、やっと3時になった! 

ぼくは、そわそわしながらお母様に声をかける。

「ねえ、お母様。そろそろ、お茶を飲んできたら?」

刺繍をしていたお母様が顔をあげ、微笑んだ。

「あら、もう3時? でも、まだ、今日はのどが渇いてないかしらね?」

「えっ! そんなことないよね? 飲んできた方がいいよ?」
あせって答えるぼくを見て、楽しそうに笑い始めたお母様。

「フフッ、嘘よ! 辺境伯夫人とゆっくり、お茶をいただいてくるわ」
ほっとした僕を見て、目を輝かせるお母様。

「ライラちゃんが、パトリックに会いにきてくれる時間だものね。お母様は邪魔しないから、安心してね」
そう言うと、手をひらひらふって、部屋から出て行った。

そう、あれから毎日、ライラは様子を見に来てくれる。
3時になると、家庭教師との勉強が終わるみたい。

わくわくしながら待っていると、コンコンとノックの音。

ぼくは、ベッドにすわり、髪の毛を手でささっとなおして、返事をする。
「どうぞ!」

ドアがひらいて、ぴょこんと入って来たライラ。
ふわふわ動く金色の髪の毛が、ひだまりが動いているみたい。
部屋の中が、ぱあーっと明るくなる。

ライラは、ぼくのそばにやってきて、にこにこっと笑った。

「こんにちは。お兄ちゃん」

「こんにちは。ライラ」

そして、きらきらした緑色の瞳で、ぼくをじっと観察するように見る。
そう、あれからもライラのお医者さんごっこは続いている。

「どう? ライラ先生」
ぼくが聞くと、ライラは、ちょこんと首をかしげた。

「うーん、まだちょっと、のどのところに悪いものが残ってる。昨日、とれたと思ったのに、なんでかな?」

ぼくは、あの男を思い出した時、また、のどがしめつけられたことを思いだした。
ひゅっと体が寒くなり、怖さが、一瞬にして戻ってくる。

すると、ライラが両手を、ぼくに向かってさっとかざした。
まじめな顔になって、ぼくののどあたりに向かって、動かし始めた。

「だいじょうぶだよ、お兄ちゃん。こわくないからね。ライラがぜーんぶとってあげる」

そう言って、一生懸命な顔で、小さな両手をまわしながら、ぼくののどをなでるように動かし始めた。

「なかなかとれないから、もっと、ちかくによっていい?」
ライラが聞いてきた。

「もちろん!」
嬉しくて、大きな声で答えてしまうぼく。

ライラは、ぼくのすぐそばまできて、小さな両手をぼくののどにさわりそうなほど伸ばしてきた。
そして、両手を動かし始める。

「うわ、すごい、ひっついてる!」
ライラが、驚いたように声をあげる。そして、さらに、力を入れて、両手を動かし始めた。

変わったお医者さんごっこだけれど、ライラが近くにきてくれて、とってもうれしい。
ライラがそばにいてくれるなら、ぼくは、ずっと患者でもいいな…。

ぼくのすぐ近くで、ふわふわと動く、金色のひだまり。
思わずさわってしまいそうになる。だって、あったかそうだから…。

そんなことを考えている間に、さっきの怖さはすっかり消えていた。
のども、もう痛くない。

「とれたー! とれたよ、お兄ちゃん!」
ライラが、ぼくを見て、うれしそうに笑った。

その顔を見て、ぼくは思った。
この笑顔はぼくのものだ。他のだれにもとられたくないって…。




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