(番外編) 私のことが嫌いなら、さっさと婚約解消してください。私は、花の種さえもらえれば満足です!

水無月あん

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パトリックの記憶 6

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ライラは、ぼくのベッドの横にある、お母様が座っていた椅子に、ちょこんと座った。
そして、ぼくののどのあたりをじっと見た。

「きのうよりは、わるいところが少なくなって、よくなってるね。でも、まだ、のどがいたいでしょ?」
と、顔をしかめて、心配そうに言った。

まるでお医者さんのような口ぶりがかわいくて、思わずぼくの顔がゆるむ。

「うん、ライラ、よくわかったね? だいぶん、よくなったけど、まだ、のどが痛いんだ」

お医者さんごっこみたいだけれど、ライラが言ったことは、あたってる。
声はでやすくなったけれど、のどには、まだ、しめつけるような痛みが残っていた。

ライラが真面目な顔をして、昨日みたいに、ぼくののどあたりをなでるしぐさをする。

「なにしてるの、ライラ?」

「うん、おそうじだよ? わるいところを、なおすの」

お掃除? 治療のことかな? お医者さんごっこが続いてるんだね。

それと同時に、ライラは歌をうたいはじめた。
「きゅっきゅっきゅー、わるいところがきれいになーれ。きゅっきゅっきゅー、きゅっきゅっきゅー!」

その間も、両手を、ぼくののどにむけて、まわしながら動かしている。

ライラの動きが、おもしろくて、かわいくて、ぼくは、目が離せなくなった。

「きゅっきゅっきゅー、わるいところをぜーんぶすいとろー、きゅっきゅっきゅー、きゅっきゅっきゅー!」

調子がはずれた歌なのに、なんて、心地いい声なんだろう…。
大きな目を、転げ落ちそうなほど更に大きく開いて、ぼくののどのあたりを真剣に見ている。
森を思いうかべるような深い緑色の瞳がきらきらして、吸いこまれそうだ。

しばらく、両手をうごかしていたけれど、ライラの歌と動きがとまった。
そして、ライラは、両手をにぎりこんで、ワンピースのポケットに手を入れた。

なにしてるんだろう?

「どうしたの? ライラ」
ぼくが聞くと、ライラはにっこり笑って言った。

「わるいものがいっぱいとれちゃったから、今日はここまでだよ。まだ、全部はとれなかったけど、明日、またとりにくるね」

明日もきてくれるんだ! うれしい!

「わるいものはへったから、もうちょっとしたら、なおるからね。お兄ちゃん」

あ、まだ、お医者さんごっこが、続いていたんだ。

「わかったよ。治療してくれて、ありがとう。ライラ先生」
ぼくがそう言うと、ライラは顔いっぱいで、笑った。

きらきらした光が、まわりにとびちったように見えた。
ぼくの体の奥から、あたたかいものがこみあげてくる。

兄上のことで色々悩んでいたのも、もう、どうでもいい感じ。
まだ、体は重いけれど、うきあがりそうなほど、心は軽くなった。

間違いない。ライラは、ぼくの妖精。ぼくの天使。
これからも、ずーっと、ライラと一緒にいたい…。
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