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番外編
ムルダー王太子 15
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ぼくが贈った、青いドレスを着ているクリスティーヌ。
クリスティーヌに贈った青いドレスは何着もあるけれど、特にこのドレスの青は、ぼくの瞳の色に一番似ていると、クリスティーヌが喜んでいたものだ。
しかも、あの小さな花のネックレスもつけている。
ぼくの瞳の色が、本当に似合っているクリスティーヌ。
凛とした姿が今日も美しい。
あの父親のことだ。婚約解消を言い放っただけで、クリスティーヌをなぐさめることすらしていないだろうに。
悲しみを外にださないなんて、さすが、クリスティーヌだ。
でも、相当な悲しみに耐えているのだろう。
いつも以上に、はかなげに見える。
ああ、このパーティー、早く終わればいいのに…。
そうしたら、すぐに、クリスティーヌに伝えよう。
ぼくの側妃になってほしい。愛しているから側妃にするんだよ。安心してって。
でも、パーティーが終わるまでは言えない。
クリスティーヌは、すがるような目で、ぼくのことをじっと見つめていた。
広間にいる男たちは、クリスティーヌの美しさに目を奪われているのに。
クリスティーヌの目には、ぼくしか映っていない。
と、そこへ、ルリが大神官や神官をひきつれて、広間へと入って来た。
そして、ルリは、父上の隣に立つぼくのそばにくるなり、上目遣いでぼくを見上げてきた。
心細そうな表情を作っているが、もちろん演技。
これから起こることに興奮しているのか、頬が上気し、目がやけにぎらついている。
が、貴族たちからは、感嘆の声があがる。
というのも、神秘的な黒い髪と黒い瞳を持つルリ。
しかも、尾ひれのついた聖女の噂のせいか、皆、崇高なものを見るように、ルリを見ている。
まあ、ルリの聖女としての評価が高まれば、お飾りの正妃としては願ったりだ。
ここは、仲睦まじい様子を見せておかないと、そう思って、見上げてくるルリにむかって、ルリの大好きな顔で微笑んであげた。
たちまち、ルリの頬が染まる。
まわりから、ため息がもれた。
その間も、ぼくの意識はクリスティーヌに向いている。
一瞬、目の端にとらえると、とても悲し気な表情を見せていた。
その顔を見た時、またもや、薄暗い喜びがわいてきた。
そして、ついに、隣で、国王専用の椅子に座っていた父上が席を立った。
「我が息子、王太子ムルダーと、アンガス公爵令嬢クリスティーヌとの婚約を解消する。そして、異世界から来た聖女ルリと王太子ムルダーの婚約を命じる」
父上の言葉に、ワーッと貴族たちが声をあげた。
クリスティーヌの反応が気になって、確認しようとしたら、「ムルダー様…」と、小声でルリに呼ばれた。
ルリのほうを見る。
人々の視線を意識したのか、笑みをうかべたままのルリが、ぼくにささやいた。
「ムルダー様の心に誰がいようが構いませんよ? そのかわり、私の願いはぜーんぶ叶えてくださいね」
え…?
「ほら、みんな、見てますよ? 困難を乗り越え、結ばれた相思相愛のカップルを演じなきゃ。笑顔ですよ、ムルダー様」
黒々とした瞳が闇に見えた。
清廉なクリスティーヌとは違って、邪悪さを持つルリ。
でも、これなら、心置きなくお飾りにできる。
「わかったよ、ルリ」
そう言って、微笑み返した。契約完了だ。
微笑み合うぼくたちに、まわりが、更にざわめく。
と、ここで、父上が、再び話し出した。
「そうそう言い忘れていたが、異世界からきた聖女ルリは、当然、こちらに血縁がいない。アンガス公爵がルリを養女とし、後ろ盾になることを名乗り出てくれた」
は…? ルリを養女? アンガス公爵がか?!
見ると、にこにこしながら、こっちのほうに近づいてくる、クリスティーヌの家族。
自分の娘が婚約解消されたのに、ルリを養女にするだと?!
やっぱり、クリスティーヌが側妃になったら、あの家族はもういらないな。
ああ、そうだ。王太子の側妃を虐待していたとして、平民にでもするか。
クリスティーヌも喜ぶだろう。
そう思うと、笑みがこぼれた。
満面の笑みで近づいてきた、アンガス公爵一家。
ルリに向かって、気持ちの悪い笑みをうかべたまま、挨拶をしはじめた。
やっぱり、平民にしたうえ、国外追放だな。
こいつらは、一生、クリスティーヌの目にふれないようにしよう。
そう思った時、女性の悲鳴が響いた。
声のほうを見ると、…え?! クリスティーヌ?!
※ ムルダー視点、読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
沢山のお気に入り登録、エール、ご感想もいただき、感謝でいっぱいです!! 大変、励みになります!
クリスティーヌに贈った青いドレスは何着もあるけれど、特にこのドレスの青は、ぼくの瞳の色に一番似ていると、クリスティーヌが喜んでいたものだ。
しかも、あの小さな花のネックレスもつけている。
ぼくの瞳の色が、本当に似合っているクリスティーヌ。
凛とした姿が今日も美しい。
あの父親のことだ。婚約解消を言い放っただけで、クリスティーヌをなぐさめることすらしていないだろうに。
悲しみを外にださないなんて、さすが、クリスティーヌだ。
でも、相当な悲しみに耐えているのだろう。
いつも以上に、はかなげに見える。
ああ、このパーティー、早く終わればいいのに…。
そうしたら、すぐに、クリスティーヌに伝えよう。
ぼくの側妃になってほしい。愛しているから側妃にするんだよ。安心してって。
でも、パーティーが終わるまでは言えない。
クリスティーヌは、すがるような目で、ぼくのことをじっと見つめていた。
広間にいる男たちは、クリスティーヌの美しさに目を奪われているのに。
クリスティーヌの目には、ぼくしか映っていない。
と、そこへ、ルリが大神官や神官をひきつれて、広間へと入って来た。
そして、ルリは、父上の隣に立つぼくのそばにくるなり、上目遣いでぼくを見上げてきた。
心細そうな表情を作っているが、もちろん演技。
これから起こることに興奮しているのか、頬が上気し、目がやけにぎらついている。
が、貴族たちからは、感嘆の声があがる。
というのも、神秘的な黒い髪と黒い瞳を持つルリ。
しかも、尾ひれのついた聖女の噂のせいか、皆、崇高なものを見るように、ルリを見ている。
まあ、ルリの聖女としての評価が高まれば、お飾りの正妃としては願ったりだ。
ここは、仲睦まじい様子を見せておかないと、そう思って、見上げてくるルリにむかって、ルリの大好きな顔で微笑んであげた。
たちまち、ルリの頬が染まる。
まわりから、ため息がもれた。
その間も、ぼくの意識はクリスティーヌに向いている。
一瞬、目の端にとらえると、とても悲し気な表情を見せていた。
その顔を見た時、またもや、薄暗い喜びがわいてきた。
そして、ついに、隣で、国王専用の椅子に座っていた父上が席を立った。
「我が息子、王太子ムルダーと、アンガス公爵令嬢クリスティーヌとの婚約を解消する。そして、異世界から来た聖女ルリと王太子ムルダーの婚約を命じる」
父上の言葉に、ワーッと貴族たちが声をあげた。
クリスティーヌの反応が気になって、確認しようとしたら、「ムルダー様…」と、小声でルリに呼ばれた。
ルリのほうを見る。
人々の視線を意識したのか、笑みをうかべたままのルリが、ぼくにささやいた。
「ムルダー様の心に誰がいようが構いませんよ? そのかわり、私の願いはぜーんぶ叶えてくださいね」
え…?
「ほら、みんな、見てますよ? 困難を乗り越え、結ばれた相思相愛のカップルを演じなきゃ。笑顔ですよ、ムルダー様」
黒々とした瞳が闇に見えた。
清廉なクリスティーヌとは違って、邪悪さを持つルリ。
でも、これなら、心置きなくお飾りにできる。
「わかったよ、ルリ」
そう言って、微笑み返した。契約完了だ。
微笑み合うぼくたちに、まわりが、更にざわめく。
と、ここで、父上が、再び話し出した。
「そうそう言い忘れていたが、異世界からきた聖女ルリは、当然、こちらに血縁がいない。アンガス公爵がルリを養女とし、後ろ盾になることを名乗り出てくれた」
は…? ルリを養女? アンガス公爵がか?!
見ると、にこにこしながら、こっちのほうに近づいてくる、クリスティーヌの家族。
自分の娘が婚約解消されたのに、ルリを養女にするだと?!
やっぱり、クリスティーヌが側妃になったら、あの家族はもういらないな。
ああ、そうだ。王太子の側妃を虐待していたとして、平民にでもするか。
クリスティーヌも喜ぶだろう。
そう思うと、笑みがこぼれた。
満面の笑みで近づいてきた、アンガス公爵一家。
ルリに向かって、気持ちの悪い笑みをうかべたまま、挨拶をしはじめた。
やっぱり、平民にしたうえ、国外追放だな。
こいつらは、一生、クリスティーヌの目にふれないようにしよう。
そう思った時、女性の悲鳴が響いた。
声のほうを見ると、…え?! クリスティーヌ?!
※ ムルダー視点、読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
沢山のお気に入り登録、エール、ご感想もいただき、感謝でいっぱいです!! 大変、励みになります!
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