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番外編
ムルダー王太子 12
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「ムルダーだけ、この場に残れ」
父上は、苦々しい声でそう言い放った。
思い通りにことが運んだことで、殊勝な演技もやめて、すっかり上機嫌なルリ。
もはや、そんなルリを視界にも入れていない父上。
「では、ムルダー様。婚約を楽しみにしていますね!」
と、浮かれた様子で、大神官をひきつれて、部屋から出て行った。
ふたりが去った後、父上は側近も下げ、この部屋には父上とぼくだけになった。
なのに、なんで、しゃべらない…?
ぼくのほうが、重い沈黙に耐え切れなくなり、口を開いた。
「父上、何か話があるから、ぼくを残したんでしょう?」
そう言った瞬間、父上がため息をついた。
「色々言いたいことがありすぎて、何を伝えるべきか考えておった。…が、何を言っても遅い。おまえは、大神官と聖女にはっきりと断言したのだ。もう取り返しがつかない」
そこまで言うと、父上は鋭い視線でぼくを見据えた。
「だがな、ムルダー。クリスティーヌのことだけは許せん! 幼い頃から、クリスティーヌがどれだけ苦労してきたか、誰よりも、おまえが知っているはずだ」
「はい、もちろんです」
ぼくの返事に、普段は冷静な父上がダンッと机をこぶしで叩いた。
「それならば、どうして…?! それほどに、聖女に心を奪われたのか?! おまえが聖女を保護したいと言いだした時、私は言ったはずだ。おまえが手懐けられるのではなく、おまえが、聖女を手懐けるのだ、と。それなのに、おまえが手懐けられてどうするのだっ! それも、あんな浅はかな女に騙されおって。嘆かわしい…。あんな女、たとえ聖女の力があったとしても、クリスティーヌとは比べ物にならん!」
感情をむきだしにする父上。
初めて見る父上に驚く。
父上は、そんなにクリスティーヌのことを買ってたのか…。
ぼくのために、そんなに怒ってくれたことなんて一度もないのに…。
ずきっと胸が痛んだ。
が、まあ、父上の珍しい顔も見れたことだし、そろそろ、本当のことを言うことにしよう。
国王である父上には伝えておかないと困るしね。
「父上、ぼくは、クリスティーヌを愛しています。ルリになんか、心を奪われてはいません。都合がいいだけで、愛してなどいません」
父上の目が大きく見開かれた。
「クリスティーヌを愛してるだと? なら、何故だ…?! さっき、クリスティーヌと婚約を解消して、聖女と婚約すると言っただろうが?!」
「ええ、言いました」
「愛しているのに、クリスティーヌを手放せるのか?!」
「まさか。手放すわけないじゃないですか。ぼくは、クリスティーヌを愛してるんですよ?」
「ムルダー…。おまえは、さっきから、何を言っている…?」
「さっき、父上と話していて、急におもいついたんです。何かと都合のいいルリをお飾りの正妃にして、愛しているクリスティーヌを側妃にしようって」
「だから、おまえは、何を言っておるのだ! そんなこと、許されるわけないだろうが?!」
父上が、椅子をけって立ちあがり、ぼくに向かって怒鳴った。
「許されますよ? だって、父上も妃はふたりいるじゃないですか」
「は…?」
父上の茫然とした顔に、思わず、フッと笑ってしまった。
「ぼくも父上みたいに、正妃と側妃を持とうと、さっき思ったんです。もちろん、大事なクリスティーヌのほうを、側妃にします。父上と同じように。本当は、父上がしているように、クリスティーヌには、妃としての仕事はさせず、どっかの城に閉じ込めておきたいんです。だけど、ほら、ルリだと妃の仕事は無理でしょう? だから、クリスティーヌに妃の仕事をやってもらわないといけないんですけどね。そこだけは、残念です。でも、父上。いきなり、正妃と側妃、一緒に婚姻するのは、さすがにまずいですよね。だから、形だけ、クリスティーヌとは一旦婚約を解消して、ルリと婚姻した後に、側妃になってもらおうと思っています。父上、認めてくれますよね?」
と、ぼくは、いまだ茫然としたままの父上に言い放った。
※ 読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、エール、ご感想も、大変励みにさせていただいています!
父上は、苦々しい声でそう言い放った。
思い通りにことが運んだことで、殊勝な演技もやめて、すっかり上機嫌なルリ。
もはや、そんなルリを視界にも入れていない父上。
「では、ムルダー様。婚約を楽しみにしていますね!」
と、浮かれた様子で、大神官をひきつれて、部屋から出て行った。
ふたりが去った後、父上は側近も下げ、この部屋には父上とぼくだけになった。
なのに、なんで、しゃべらない…?
ぼくのほうが、重い沈黙に耐え切れなくなり、口を開いた。
「父上、何か話があるから、ぼくを残したんでしょう?」
そう言った瞬間、父上がため息をついた。
「色々言いたいことがありすぎて、何を伝えるべきか考えておった。…が、何を言っても遅い。おまえは、大神官と聖女にはっきりと断言したのだ。もう取り返しがつかない」
そこまで言うと、父上は鋭い視線でぼくを見据えた。
「だがな、ムルダー。クリスティーヌのことだけは許せん! 幼い頃から、クリスティーヌがどれだけ苦労してきたか、誰よりも、おまえが知っているはずだ」
「はい、もちろんです」
ぼくの返事に、普段は冷静な父上がダンッと机をこぶしで叩いた。
「それならば、どうして…?! それほどに、聖女に心を奪われたのか?! おまえが聖女を保護したいと言いだした時、私は言ったはずだ。おまえが手懐けられるのではなく、おまえが、聖女を手懐けるのだ、と。それなのに、おまえが手懐けられてどうするのだっ! それも、あんな浅はかな女に騙されおって。嘆かわしい…。あんな女、たとえ聖女の力があったとしても、クリスティーヌとは比べ物にならん!」
感情をむきだしにする父上。
初めて見る父上に驚く。
父上は、そんなにクリスティーヌのことを買ってたのか…。
ぼくのために、そんなに怒ってくれたことなんて一度もないのに…。
ずきっと胸が痛んだ。
が、まあ、父上の珍しい顔も見れたことだし、そろそろ、本当のことを言うことにしよう。
国王である父上には伝えておかないと困るしね。
「父上、ぼくは、クリスティーヌを愛しています。ルリになんか、心を奪われてはいません。都合がいいだけで、愛してなどいません」
父上の目が大きく見開かれた。
「クリスティーヌを愛してるだと? なら、何故だ…?! さっき、クリスティーヌと婚約を解消して、聖女と婚約すると言っただろうが?!」
「ええ、言いました」
「愛しているのに、クリスティーヌを手放せるのか?!」
「まさか。手放すわけないじゃないですか。ぼくは、クリスティーヌを愛してるんですよ?」
「ムルダー…。おまえは、さっきから、何を言っている…?」
「さっき、父上と話していて、急におもいついたんです。何かと都合のいいルリをお飾りの正妃にして、愛しているクリスティーヌを側妃にしようって」
「だから、おまえは、何を言っておるのだ! そんなこと、許されるわけないだろうが?!」
父上が、椅子をけって立ちあがり、ぼくに向かって怒鳴った。
「許されますよ? だって、父上も妃はふたりいるじゃないですか」
「は…?」
父上の茫然とした顔に、思わず、フッと笑ってしまった。
「ぼくも父上みたいに、正妃と側妃を持とうと、さっき思ったんです。もちろん、大事なクリスティーヌのほうを、側妃にします。父上と同じように。本当は、父上がしているように、クリスティーヌには、妃としての仕事はさせず、どっかの城に閉じ込めておきたいんです。だけど、ほら、ルリだと妃の仕事は無理でしょう? だから、クリスティーヌに妃の仕事をやってもらわないといけないんですけどね。そこだけは、残念です。でも、父上。いきなり、正妃と側妃、一緒に婚姻するのは、さすがにまずいですよね。だから、形だけ、クリスティーヌとは一旦婚約を解消して、ルリと婚姻した後に、側妃になってもらおうと思っています。父上、認めてくれますよね?」
と、ぼくは、いまだ茫然としたままの父上に言い放った。
※ 読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
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