私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

文字の大きさ
68 / 101

そうはさせない!

しおりを挟む
番を忘れた……。

王女様の言葉に、第二王子が嫌な笑い声をあげた。

「そうか! おとぎ話でもなく、本当に番を忘れる手段がジャナ国にはあるんだな! ……それで、番を忘れた公爵の息子はどうなったんだ!?」

「娘への気持ちが、きれいさっぱり消えたのよ。もちろん、である娘と一緒に、アルジロ国へ移り住むなんてことも言わなくなった。公爵夫人が嬉しそうに報告してきた話によると、公爵子息は、その代わりの物を飲んだ直後に、娘に向かって苦しそうに言ったそうよ。『もう、君と一緒にはいられない。君は国へ帰って、どうか幸せになってくれ』とね。つまり、番である娘を捨てたってこと」

「ほお、代わりの物とやらは、すごい威力だな。それを飲めば、すぐに番を忘れられるとは……」

目をぎらつかせて、つぶやく第二王子。

「王家に伝わる『番を忘れる薬』は、番の存在すら忘れるらしいのだけれど、代わりの物は、番という感覚だけを忘れたみたいだったわ。だから、公爵子息は娘の存在を忘れたわけではなかったの。でも、焦がれる気持ちだけが消えた。つまり、公爵子息は娘が番というだけで、惹かれてたってことよ。まあ、でも、傍からみたら、そんなことはわかりきっていたことだったけれど……。だって、である、なんの魅力もない平民の娘を、有能な獣人の公爵子息が好きになるわけないもの。番という本能だけが求めていたってことよ。番に会うことを運命のように思う獣人なら、それはそれで特別だからいいんでしょうけれど、番の本能を理解できないである娘にとったら、それって最悪なことでしょう? 公爵子息が自分自身を微塵も好きなわけじゃなかったことを思い知らされたわけだから。その衝撃で抜け殻みたいになった娘を、あわてて迎えにきた両親が、アルジロ国へと連れて帰ったわ」

そこまで話すと、意味ありげに私に微笑みかけてきた王女様。
が、そんなことより、私は別のことがひっかかっていた。

それは、公爵子息が苦しそうに娘さんに言ったという言葉。
「もう、君と一緒にはいられない。君は国へ帰って、どうか幸せになってくれ」だったよね……。

私は番のことは何もわからないけれど、番という認識が消えても、公爵子息は娘さんのことを思っているような気がするんだよね……。そうあって欲しいと思う私の願望かもしれないけれど。
でも、少なくとも、王女様の言うように、好きなわけじゃなかった、というのは違うと思う。

番だから惹かれたんだとしても、きっと娘さんと一緒に過ごすうちに、公爵子息は娘さん自身のことを好きになったんじゃないのかな。
でも、一緒にいられないと言ったということは、もしかしたら、その代わりの物を飲んだことによる影響が何か関係しているような気がする。

その根拠は? と聞かれれば、何もないけれど、強いて言えば、私の野生の勘!
なんだか、あたってる気がする! 

「それでね、ララベルさん。これは、つい最近、わかったことなのだけれど、であるあの娘は、結局、である、平民の男と結婚したのですって……。つまり、ララベルさんに私が言いたかったのは、たとえ番であっても、獣人とが結ばれるのは無理だってことなの。お互い理解しあえないし、障害だらけで、まわりもまきこんで不幸になるわ。だから、獣人には獣人が、それも強い獣人には強い獣人がふさわしいし、にはが、そばにいるのが一番いいってことを伝えたかったのよ。理解していただけたかしら? ララベルさん、あなたには、身の程をわきまえなかったあの娘のように悲しんでほしくはないから言ってるのよ」
と、さとすように私に語りかけてきた王女様。

ほんと、王女様は人をなんだと思ってるんだろう……。
身の程をわきまえないとか、色々ひどい……。

とにかく、王女様が私に言いたいのは、優れた獣人のルーファスの隣に、獣人じゃない私がちょろちょろしているのは、ふさわしくないってことだよね。
やっぱり、王女様は、ルーファスをジャナ国に連れて帰ろうと目論んでいる気がする。でも、そうはさせない!

だって、天使のような優しいルーファスに、こんな高圧的で差別的な考えを持つ王女様は、それこそ、ふさわしくない!
大事な幼馴染のルーファスのことは、なんとしてでも、私が守る!

私は体中の力を目力に集中させて、王女様を見据えた。

王女様にとったら、私は、ひ弱な「ただの人」なんだろうけれど、ルーファスを守るためなら、私はなんだってする! 
そう、私の靴を投げる相手は第二王子だけじゃない! 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

修道院パラダイス

恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。 『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』 でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。 ◇・◇・◇・・・・・・・・・・ 優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。 なろうでも連載しています。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。 ※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

番(つがい)はいりません

にいるず
恋愛
 私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。 本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。  

処理中です...