62 / 81
信じられない
しおりを挟む
「どこまで話したかしら……? あ、そうね。娘にとって大変なのは公爵夫人だけじゃなかった、くらいまで話していたわね。つまり、それは、どういうことかわかる、ララベルさん?」
王女様は私に鋭い視線を向けて、聞いてきた。
私は、視線をそらさずに答えた。
「まわりの貴族の方たちも好意的ではなかった、ということでしょうか……?」
「その通りよ、ララベルさん。同じただの人だから、娘の状況が想像しやすかったようね」
嫌味な口調で言った王女様。
人だから想像しやすい? どう考えても、普通に、そう思うよね。
まあ、「ただの人」っていうフレーズを言いたいだけなのかも。
王女様は冷たい笑みを浮かべて、話を続けた。
「アジュお姉さまの婚約者候補でもあった将来有望な公爵家子息の番が見つかった、だけでも、大ニュースなのに、その番が、他国の人間で、平民で、しかもただの人だったから、貴族の間では、それはそれは大騒ぎになったわ。そんななか、公爵夫人は容赦なく、娘を茶会やパーティーに参加させたの。生粋の獣人しかいないところに、ただの人が放り込まれたのよ? 娘は、貴族社会にとびこんできた異物として、どこに行っても、注目の的になった。もちろん、公爵子息が護衛のようにひっついて、守っていたし、アジュお姉さまも、自分が参加できる時は、できるだけ参加して、娘がまわりの貴族と打ち解けられるよう、必死になっていたわ。ただの人にそこまで気をつかうなんて、バカみたいでしょう? アジュお姉さまは、誇り高い竜の獣人であるジャナ国王女としての自覚が足りないのよ。お父様はなんで、そんなアジュお姉さまを王太女に指名したのかしら。信じられないわ……」
と、憎々し気に言った王女様。
なんというか、相当、王太女になりたかったんだろうし、未だ、あきらめてない感じがびしびしと伝わってくる。
でも、優しいお姉さまが王太女様であって、本当に良かった。
それに、王女様のお姉さまを王太女様に指名された国王様も信頼できそうな方だなと、禍々しいオーラを放つ王女様を見ながら思う。
「王女。それで、その娘はそれからどうなったんだ?」
第二王子が焦れたように促した。
すると、王女様が当時を思い出したのか、くすりと笑った。
「公爵子息がそばにいたから、直接、身体的に危害を加えられることはなかったけれど、好奇の視線や嘲笑、聞こえてくる悪口から、娘を守ることはできなかったわね。なかでも、令嬢たちからの風当たりは強かったわ。身分の高い、見目のいい公爵子息は大人気だったから。アジュお姉さまの婚約者候補だった時は、黙っていた令嬢たちも、相手が平民でただの人だと、納得がいかない。なかでも、公爵子息と同じクロヒョウの獣人で侯爵家の令嬢がいたの。彼女は、公爵子息がアジュお姉さまの正式な婚約者になるまではあきらめない、自分が番かもしれないから、と言って、婚約者を決めずにいたほど、公爵子息に執心だったわ。その令嬢は、取り巻きの令嬢たちと一緒に、娘に嫌がらせをはじめた。茶会やパーティーでは、男性である公爵子息だと、どうしても、そばにいられない状況はあるでしょう? その隙をついて、色々したんでしょ。まあ、私だったら、やられたら、何倍にもしてやり返すけれど、無力なただの人である娘は、我慢するしかなかったみたい。公爵子息の隣で、バカみたいに、のんきに、笑っていた娘が、だんだん笑わなくなっていったわ」
と、王女様は楽しそうに言った。
笑わなくなった娘さんを思うと、胸がしめつけられる。
と、同時に、そんな娘さんのことを、おもしろがっているような王女様に心底腹が立った。
「まあ、ララベルさん、怖い顔……フフ。やっぱり、ただの人だから、感情移入してしまうのね?」
「ララはものすごく優しいですから。人の不幸をおもしろがるような王女とはまるで違います」
ルーファスの冷たい声が響いた。
いや、ルーファス……。
私の優しさはごく普通レベルだし、なにより、王女様になんてことを。
まあ、人の不幸をおもしろがっているのは本当だけど、その言い方……。
そんなルーファスに怒ることもなく、王女は嬉しそうに微笑んだ。
「もう、ルーファスったら、ひどいわね……。でも、なんの役にも立たない優しさより、力でおさえこめる強さのほうがいいわ。だって、アジュお姉さまは、あんなに娘に優しくしていても、娘を守ることなんてできなかったものね。もし、私が娘を守りたいと思ったのなら、まわりの令嬢たちなんか竜の力で簡単におさえこめたのに。……まあ、ただの人である娘を守る義理もないから、しなかったけどね」
自慢げに言う王女様が信じられない……。
すでに過去におこったことなので、今更、どうすることもできないけれど、娘さんがその状況から一刻も早く逃れて、幸せになって欲しい……。
思わず、こぶしをにぎりしめて、そう願っていると、王女様は、そんな私の願いを打ち砕くようなことを語り始めた。
王女様は私に鋭い視線を向けて、聞いてきた。
私は、視線をそらさずに答えた。
「まわりの貴族の方たちも好意的ではなかった、ということでしょうか……?」
「その通りよ、ララベルさん。同じただの人だから、娘の状況が想像しやすかったようね」
嫌味な口調で言った王女様。
人だから想像しやすい? どう考えても、普通に、そう思うよね。
まあ、「ただの人」っていうフレーズを言いたいだけなのかも。
王女様は冷たい笑みを浮かべて、話を続けた。
「アジュお姉さまの婚約者候補でもあった将来有望な公爵家子息の番が見つかった、だけでも、大ニュースなのに、その番が、他国の人間で、平民で、しかもただの人だったから、貴族の間では、それはそれは大騒ぎになったわ。そんななか、公爵夫人は容赦なく、娘を茶会やパーティーに参加させたの。生粋の獣人しかいないところに、ただの人が放り込まれたのよ? 娘は、貴族社会にとびこんできた異物として、どこに行っても、注目の的になった。もちろん、公爵子息が護衛のようにひっついて、守っていたし、アジュお姉さまも、自分が参加できる時は、できるだけ参加して、娘がまわりの貴族と打ち解けられるよう、必死になっていたわ。ただの人にそこまで気をつかうなんて、バカみたいでしょう? アジュお姉さまは、誇り高い竜の獣人であるジャナ国王女としての自覚が足りないのよ。お父様はなんで、そんなアジュお姉さまを王太女に指名したのかしら。信じられないわ……」
と、憎々し気に言った王女様。
なんというか、相当、王太女になりたかったんだろうし、未だ、あきらめてない感じがびしびしと伝わってくる。
でも、優しいお姉さまが王太女様であって、本当に良かった。
それに、王女様のお姉さまを王太女様に指名された国王様も信頼できそうな方だなと、禍々しいオーラを放つ王女様を見ながら思う。
「王女。それで、その娘はそれからどうなったんだ?」
第二王子が焦れたように促した。
すると、王女様が当時を思い出したのか、くすりと笑った。
「公爵子息がそばにいたから、直接、身体的に危害を加えられることはなかったけれど、好奇の視線や嘲笑、聞こえてくる悪口から、娘を守ることはできなかったわね。なかでも、令嬢たちからの風当たりは強かったわ。身分の高い、見目のいい公爵子息は大人気だったから。アジュお姉さまの婚約者候補だった時は、黙っていた令嬢たちも、相手が平民でただの人だと、納得がいかない。なかでも、公爵子息と同じクロヒョウの獣人で侯爵家の令嬢がいたの。彼女は、公爵子息がアジュお姉さまの正式な婚約者になるまではあきらめない、自分が番かもしれないから、と言って、婚約者を決めずにいたほど、公爵子息に執心だったわ。その令嬢は、取り巻きの令嬢たちと一緒に、娘に嫌がらせをはじめた。茶会やパーティーでは、男性である公爵子息だと、どうしても、そばにいられない状況はあるでしょう? その隙をついて、色々したんでしょ。まあ、私だったら、やられたら、何倍にもしてやり返すけれど、無力なただの人である娘は、我慢するしかなかったみたい。公爵子息の隣で、バカみたいに、のんきに、笑っていた娘が、だんだん笑わなくなっていったわ」
と、王女様は楽しそうに言った。
笑わなくなった娘さんを思うと、胸がしめつけられる。
と、同時に、そんな娘さんのことを、おもしろがっているような王女様に心底腹が立った。
「まあ、ララベルさん、怖い顔……フフ。やっぱり、ただの人だから、感情移入してしまうのね?」
「ララはものすごく優しいですから。人の不幸をおもしろがるような王女とはまるで違います」
ルーファスの冷たい声が響いた。
いや、ルーファス……。
私の優しさはごく普通レベルだし、なにより、王女様になんてことを。
まあ、人の不幸をおもしろがっているのは本当だけど、その言い方……。
そんなルーファスに怒ることもなく、王女は嬉しそうに微笑んだ。
「もう、ルーファスったら、ひどいわね……。でも、なんの役にも立たない優しさより、力でおさえこめる強さのほうがいいわ。だって、アジュお姉さまは、あんなに娘に優しくしていても、娘を守ることなんてできなかったものね。もし、私が娘を守りたいと思ったのなら、まわりの令嬢たちなんか竜の力で簡単におさえこめたのに。……まあ、ただの人である娘を守る義理もないから、しなかったけどね」
自慢げに言う王女様が信じられない……。
すでに過去におこったことなので、今更、どうすることもできないけれど、娘さんがその状況から一刻も早く逃れて、幸せになって欲しい……。
思わず、こぶしをにぎりしめて、そう願っていると、王女様は、そんな私の願いを打ち砕くようなことを語り始めた。
494
お気に入りに追加
1,986
あなたにおすすめの小説
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。
新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
見えるものしか見ないから
mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。
第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……
義妹が私に毒を盛ったので、飲んだふりをして周りの反応を見て見る事にしました
新野乃花(大舟)
恋愛
義姉であるラナーと義妹であるレベッカは、ラナーの婚約者であるロッドを隔ててぎくしゃくとした関係にあった。というのも、義妹であるレベッカが一方的にラナーの事を敵対視し、関係を悪化させていたのだ。ある日、ラナーの事が気に入らないレベッカは、ラナーに渡すワインの中にちょっとした仕掛けを施した…。その結果、2人を巻き込む関係は思わぬ方向に進んでいくこととなるのだった…。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる