私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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発光

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「婚約までこぎつけただけ」と、楽しそうに言う王女様の様子から、ふたりの幸せではない未来が察せられて、気持ちが一気に重くなる。

が、私とは反対に、複雑そうだった第二王子が、何故か、ほの暗い笑みを浮かべて、王女様に聞いた。

「では、番でありながら、ふたりは、うまくいかなかったのか?」

「フフ……。ガイガー王子はせっかちね。結果だけ言ってもおもしろくないでしょう? それに、ふたりの過程をちゃんと話さないと、ララベルさんに獣人ととの違いをわかってもらえないじゃない?」

第二王子は、どろっとした目でルーファスと私を見比べたあと、王女様にむかって楽しそうに言った。

「それもそうだな。じゃあ、婚約したあとのふたりについて、聞かせてくれ」

「ええ、もちろん。婚約後、公爵家で滞在することになった旅商人の娘は、ジャナ国の貴族のマナーを公爵子息の母である公爵夫人のもとで学ぶことになったの。公爵夫人は、誇り高いクロヒョウの獣人で素晴らしい方よ。私の竜の獣人としての力をとても敬ってくれていて、常々、私が王太女にふさわしいと言ってくれている方だもの。年が離れていなかったら、公爵子息を、アジュお姉さまじゃなく、私の婚約者候補にしたかったのですって」

そう言って、勝ち誇った笑みをうかべた王女様。

つまり、公爵夫人は王女様と似たような価値観の方ってことよね……。
知らない人だけれど、そんな人が義母として教えるなんて、娘さんのこれからの苦難が想像できてしまう。
ますます、気持ちが重くなるんだけど……。

「強い獣人であることを誇りに思う公爵夫人だから、なんの力もない、である娘が息子の番であることに納得しなかった。なにかの間違いだと言って、最後まで婚約することを反対していたわ。結局、アジュお姉さまに頼まれた、国王であるお父様から口添えがあり、渋々、受けいれたのよ。だから、娘には厳しく指導していたみたいよ。見かねた公爵子息が、公爵家を捨てるから、アルジロ国に一緒に行って住もうと言っても、娘は頑張って公爵夫人に認めてもらうからと言ったみたいなの。身の程しらずで健気よねえ」
と、あざ笑うような口調で言った王女様。

私は見知らぬ娘さんを思って、胸が痛くなった。

「でも、娘にとったら、大変なのは公爵夫人だけじゃなかったわ。ララベルさんも、だから、想像がつくんじゃなくて? なんの力もない、であるララベルさんが、生粋の獣人だらけのなかにぽつんと入ったらどうなるのかって」

その瞬間、隣からドンッと音がした。
ルーファスがこぶしをテーブルに叩きつけたみたい。

「落ち着いて、ルーファス!」

あわてて、小声で言ったけれど、ルーファスは鋭く王女様を見据えたまま。 

「なんの力もない……? 誰のことを言ってるんですか、王女? ララは存在自体が力のかたまりで、輝いてる。ララがそばにいてくれるだけで、僕がどれだけ力をもらっているか……。ララから、こんなに美しい力があふれでているのが見えないなんて、ご自慢の竜の力を持っていても、目は良くないみたいだな」

場がシーンとした。
私の思考もとまる……。

レーナおばさまのふふっと笑った声に、はっと正気に戻った。

えええ!? ちょっと、ちょっと、ルーファス! 今、とんでもないことを言わなかった!? 

私に関してはよくわからないほめっぷりだし、なにより、王女様にむかって、すごいことを言ったよね!?

あせってルーファスを見る。
ルーファスも私のほうをむく。

ルーファスの鋭かった目が一気にゆるんだ。

「ほら、今だって、ララは内なる力があふれだして輝いてる。ララがまぶしい」

そう言って、切れ長の目を細めるルーファス。

「……え? いやいや、ルーファス。私は発光してないからね?」

動揺しまくる私に、「発光って……」と笑ったルーファス。

「いや、ララは、いつだって、どこにいたって、光ってるよ」

思わず、光る自分を想像する……。
うん、全く想像できない。

「あのね、ルーファス。発光しているのは、ルーファスのほうだからね。小さい頃から、いつだって、ルーファスは輝いてた。だから、私は遠くにいても、すぐに、ルーファスを見つけてたもん。そのこと、自覚したほうがいいよ。あ、そうだ。私が光って見えるのは、多分、ルーファスの光が反射して見えてるのかもね」

間違いを正し、ルーファスに真実を伝えた私。
ルーファスの背後で、レーナおばさまがハンカチで口をおさえて、笑いをこらえているのが見えた。

私の言葉に破顔するルーファス。
きらきらした笑顔が、それこそ、まぶしいよ、ルーファス……。

「ララにも僕が輝いて見えてるなんて、嬉しい」

いや、ルーファスが輝いて見えるのは私だけじゃない。
やっぱり、ルーファスは自分の魅力に無頓着で、危なっかしいよね。

どう自覚させたらいいんだろう……なんて、思っていたら、「馬鹿馬鹿しい」と、王女様の冷たい声が響いた。

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