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ふさわしくない

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獣人と人との絶対的な違い。
まあ、普通に考えて番。
そんな当然のことを意味ありげに聞いてくる王女様の真意が見えない。

でも、私へ向ける挑むような表情を見ると、まあ、よくない含みがあるんだろうね……。

とはいえ、ここで、それを口にするのは嫌だ!
だって、その言葉が大嫌いになった元凶の第二王子がいるからね。

ということで、ここはすっとぼけてみることにした。

「さあ……? 私にはわかりませんが?」

そう言った瞬間、モリナさんがバカにしたようにクスクスと笑った。

「ララベルさん、こんな簡単な問いに答えられないんですの!? 番に決まってるじゃない」

いや、口にしたくないだけなんですが?
と、心の中で反論する。

「やはり、獣人の中の獣人である、誇り高い竜の獣人であるルーファス様のおそばにいるのは、獣人であるべきですわ! 竜の獣人どころか、どんな獣人の血も全く入っていないララベルさんでは、ふさわしくありませんわ! 獣人のことを理解できてないんですもの!」

声高らかに言い放ったモリナさん。

獣人、獣人、獣人、獣人……。
今、何回、獣人って言った……?
いつにもまして、獣人のマウントが激しくて、うんざりしてしまう。

思わず、言い返そうとしたしたとき、隣から、なんだか冷気がただよってきた。

「竜の獣人である僕のそばにいるのは獣人であるべき……? なんで、そんなことを、君が決めるの? 君は神なわけ? まあ、神であっても、ララを侮辱したら、僕は許さないけどね。……侯爵令嬢。悪意をララにぶつける君こそ、ララの真向かいに座るのはふさわしくないよね。というか、同じ部屋にいるのもふさわしくないよね。ララを見るのもふさわしくないし、ララの声を聞くのもふさわしくない。当然、ララと話すのもふさわしくないし、ララの視界に入るのだってふさわしくない」
と、言い返したルーファス。

今度はルーファスが「ふさわしくない」を連発してる……。
しかも、言ってる内容がおかしいよ、ルーファス……。

ともかく、ルーファスにこんなことを言われたら、きっと、また、私をにらんでくるんだろうな、モリナさん……。
と思いつつ、モリナさんの顔をみたら、なんだか顔色が悪い。

唇をかみしめて、視線を下にむけたモリナさん。
なんだか少し震えているみたい。

そんなモリナさんを見て、王女様が嬉しそうに手をたたいた。

「さすがはルーファスね! 私の思った通り、いえ、想像以上だわ! なんて、すばらしい竜の威圧なの! モリナさんくらいの血の薄い竜の獣人なら、ひとたまりもないわね。やはり、ルーファスは竜の特性が強いのだわ」
と、目をぎらつかせて、ルーファスを見つめる王女様。

ルーファスが竜の威圧……? 

よくわからないけれど、ルーファスの天使の微笑みなら知ってる。
一瞬でこっちまで笑顔になってしまう、すごい威力だけど。

それよりも、王女様の反応が変じゃない?

一応、モリナさんのことをお友達だって言っていたのに、震えているモリナさんをまるで心配していない。
それどころか、とても嬉しそうなんだけど……。

「ルーファス、おさえなさい……。マリー、モリナさんを別室で休ませてあげて」

レーナおばさまが、モリナさんの近くにいるメイド長のマリーさんに指示をだした。
マリーさんが、すぐさま、モリナさんのところに行って声をかけるけれど、モリナさんは椅子から動こうとしない。

「ルーファスの威圧で動けなくなったのね! ルーファスが本気をだしたら、どれほど強いのかしら……フフ。ロイス、モリナさんを運んであげて」

王女様はふりむくことなく、背後に控えている従者のロイスさんに楽しそうな声で命じた。

「承知しました」

ロイスさんはモリナさんに近寄ると、さっと腕をとり、椅子から引っ張り上げて、立たせた。
一連の動きになんの感情も見えなくて、なんだか、機械みたい……。

「ご案内します」

そう言って、マリーさんがモリナさんとロイスさんの前を歩きだす。
が、震えるモリナさんは立ち止まったまま。

すると、ロイスさんは、モリナさんを軽々と抱えて、歩き出した。
物語でいえば、お姫さまが王子さまに抱えられるような抱え方なのに、ロマンチックな雰囲気は皆無。

まるで荷物のように運ばれていくモリナさん……。

が、モリナさんより、運んでいるロイスさんのほうが気になってしまう。

全く感情が感じられない表情と、さっきも思ったけれど、目がからっぽのように見える。
とはいえ、王女様に無理やり操られている王子妃とも違う感じだし、モリナさんのように王女様を崇拝している感じもしない。
ただただ、王女様に機械的に従っているように思えるんだよね……。
どういうことなんだろう?

なんて考えていると、王女様が私に話しかけてきた。

「ねえ、ララベルさん。モリナさんの言い方は失礼だったかもしれないけれど、言っていることは間違っていないわ。これだけ血の濃い竜の獣人であるルーファスの隣にいるには、ただの人であるララベルさんでは無理よ。ルーファスには番も現れるでしょうしね」

「王女!」

ルーファスが、きつい口調で遮った。

「まあ、ルーファスったら、怖い顔……。でも、私にその威圧は効かないわよ? 私の竜の力がルーファスに効かないのと同じようにね。ああ、でも、本当になんて素晴らしい威圧なの……」

怒りに満ちた視線で王女様を見据えるルーファスを、王女様がうっとりとした表情で見つめた。
そして、私のほうに向きなおった王女様。

「ララベルさんに、私の身近でおこったことをお話ししたいわ。そうしたら、血の濃い獣人のそばには獣人でないといられないということが、理解できると思うの。お話してもいいかしら、ララベルさん?」


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