私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

文字の大きさ
上 下
44 / 91

気になる

しおりを挟む
「ラジュ王女様に直々にお誘いいただき、お茶会に参加させていただくことになりました。ロイド公爵家のお屋敷に来られるなんて、とても光栄ですわ、ルーファス様の

レーナおばさまに意気揚々と話しかけたモリナさん。

妙に「お母様」のところが声が大きくなった気がしたけれど、そんな風に呼びかけたりする……?
モリナさんから、ジャリス侯爵家はロイド公爵家と遠い親戚と聞いているから、ずっと、そんな風に呼んできたのかな?

でも、レーナおばさまから、モリナさんの名前もジャリス侯爵家の話ですら聞いたことはなかったから、交流はないと思っていたんだけど、違ってたのかも……。

レーナおばさまが美しい笑みを浮かべて言った。

「確か、ジャリス侯爵家のご令嬢でしたわよね。夜会でお見かけしたことはありますが、きちんとご挨拶をした覚えがないので、失礼ですが、お名前を教えていただいても?」

え、そうだったの?

モリナさんの頬がさっと赤くなった。
そして、何故だか、私をにらんだモリナさん。

「ジャリス侯爵家の娘、モリナと申します……」
 
「モリナさんね。王女様のお連れさまですから、歓迎しますわ。では、王女様とモリナさん、お席に案内します」

そう言うと、優雅なしぐさで、レーナおばさまがふたりをテーブルのほうへと連れて行く。

「ララ、へんなのが増えてごめんね」
と、ルーファスがささやいてきた。

「なんでルーファスが謝るの? 王女様が連れてきたんだから、ルーファスは関係ないのに」

私の言葉に、ルーファスは軽く首を横に振った。

「いや、この前、学園のカフェで、侯爵令嬢を僕があおった結果がこれだから。今後、ララにとって、さらなる害をなす存在になるかどうか、見極めようと思ったからだけど、まさか、こんなに早く動き出すとはね。しかも、王女とひっつくとは想定外だった。友達どころか、どう考えても王女の駒にされて終わりだろうに、考えが足りなくてびっくりだよ……。まあ、向こうの出方次第で、今日で一掃できるから手間も省けるか……」
と、鋭い視線でテーブルの方を見ながら、つぶやいたルーファス。

ルーファスの言葉に、なんだか、毒々しさがまじってる……。
ルーファスの本質は天使なのに、変なことで、その優しい心を悩ませたくはない。

私はあわてて言った。

「あのね、ルーファス。モリナさんが来たのは驚いたけど、別に何を言われようが慣れてるから大丈夫。嘘偽りなく、全く気にならないんだよね。だから、モリナさんのことは、ルーファスは気にしないで。よくわからないけれど、一掃? みたいなことは考えなくてもいいからね」

「ララ、僕のことを思ってくれて、ありがとう。でも、ララこそ、テーブルの向かい側の不快な存在は気にせず、ゆったりお茶を飲んでてね。あとは、全部、僕にまかせて」

そう言って、にっこり笑ったルーファス。
なんだか、私の言っていることが伝わっていないような気がするんだけど……?



そして、ついに全員が席に着いた。
ひだまりのような素敵なテーブルに集まった強烈な個性の人たち。

大きなテーブルをはさんだ向こうには、端から、王子妃、第二王子、王女様、そして、モリナさんが坐っている。
そして、こちら側は、レーナおばさま、ルーファス、私がすわった。

当初の予定では、お茶会に王女様のお付きとして参加する予定だったのは従者のロイスさんだったみたい。
でも、その席にモリナさんがすわったため、ロイスさんは、王女様の背後に立った。

レーナおばさまが、もうひとつ席を追加しようとしたけれど、王女様が「ロイスのことは気にせずとも結構ですわ。護衛として立たせますから」と、にべもなく断った。
その口調は、まさに、そんなことはどうでもいいというような冷たい感じ。

幼馴染って言ってたけれど、ロイスさんへの情とか親しみとか気遣うような雰囲気は全く感じられない。
まあ、パーティーの時も、王女様はロイスさんのことを、尽くしてくれてなんでも言うことを聞いてくれる幼馴染、みたいなことを言っていたもんね。

ふたりの関係性はいつもこうなのかもしれないけれど、当のロイスさんはどう思っているんだろう?
王女様の背後にたつロイスさんを、目立たないように、さりげなく観察してみる。

お付きの人らしく、王女様のまわりに気を配るように視線をめぐらせているロイスさん。

私はその顔から目が離せなくなった。

というのも、整った顔立ちに表情はなく、目が、からっぽのような気がしたから。
よくわからないけれど、まるで大事な何かが失われているような、そんな感じ……。

見れば見るほど、気になってくる。

「ララ、どうかした?」

隣からルーファスが小声で聞いてきた。

あわてて、ロイスさんから目をそらし、「ううん、なんでもない」と答えた私。

その時、レーナおばさまが穏やかな口調で話し出した。

「それでは、皆さま揃われましたので、アンヌ妃殿下主催のお茶会を始めさせていただきます。では、アンヌ様。お言葉をお願いいたします」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰でもよいのであれば、私でなくてもよろしいですよね?

miyumeri
恋愛
「まぁ、婚約者なんてそれなりの家格と財産があればだれでもよかったんだよ。」 2か月前に婚約した彼は、そう友人たちと談笑していた。 そうですか、誰でもいいんですね。だったら、私でなくてもよいですよね? 最初、この馬鹿子息を主人公に書いていたのですが なんだか、先にこのお嬢様のお話を書いたほうが 彼の心象を表現しやすいような気がして、急遽こちらを先に 投稿いたしました。来週お馬鹿君のストーリーを投稿させていただきます。 お読みいただければ幸いです。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

階段下の物置き令嬢と呪われた公爵

LinK.
恋愛
ガルシア男爵家の庶子として育てられたクロエは、家族として認めてもらえずに使用人として働いていた。そんなクロエに与えられた部屋は階段下の物置き。 父であるカイロスに不気味で呪われているという噂の公爵家に嫁ぐように言われて何も持たされずに公爵家に送られたのだが、すぐに出ていくように言われてしまう。 何処にも帰る場所の無いクロエを憐れんでか、一晩だけなら泊まっても良いと言われ、借りている部屋を綺麗にして返そうと掃除を始めるクロエ。 綺麗になる毎に、徐々に屋敷の雰囲気が変わっていく…。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

処理中です...