私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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違和感

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部屋に入ってくるなり、私を見た第二王子が、見たくもない笑顔をはりつけて猛然と近づいて来た。

本能的に逃げたくなるが、今日は逃げないと決めた私。
迎え撃つ心意気で、ふんばるようにしてその場にとどまる。

すぐに、ルーファスがさっとそばに寄ってくれた。

目の前で立ち止まった第二王子。

私の天敵で、人として最悪だと思っているけれど、とりあえず、目の前にいるのは王子。
身分的には、はるか上。
悔しいけれど、この国の常識として、侯爵令嬢の私が無視していいわけはない。

礼儀知らずの行いで、お茶会をとりしきるレーナおばさまに迷惑はかけられないもんね。
ということで、せめてもの抵抗で気持ちゼロの、形だけのカーテシーをする。

「マイリ侯爵令嬢、よく来てくれた」

やけに明るい声で話しかけてきた第二王子。

「アンヌ主催の茶会を楽しんでいってほしい」

……は!? 
いやいや、それって、どの口が言ってるの?

どう考えても、レーナおばさま主催のお茶会だよね?
王子妃は何もしていないし!

その図々しさにあきれつつ、「……ありがとうございます」と、なんとか返事をしぼりだした私。

来て早々だけれど、すでにぐったりしてきた……。

まだ、お茶会すら始まっていないのに大丈夫かな、私。
弱気になった瞬間、ルーファスが私の前に立ち、第二王子の視線をさえぎってくれた。

「間もなく王女も来られるでしょうし、席にどうぞ」

そう言いながら、第二王子をテーブルの方に連れて行くルーファス。
天敵から離れると、ほっとして、大きく息をはいた。

いきなり至近距離は、やっぱりきつい……。

ふと、レーナおばさまの方を見ると、隣にいる王子妃と目があった。

というか、この女性が王子妃なんだ。
ちゃんと見るのは、11年前のあの時以来。

記憶に残っているのは、第二王子にすがりつく、かよわそうなメイド服姿の女性。
でも、今、目の前にいる女性は全く違う。
11年の月日を考えてもかわりすぎていて、別人にしか思えない。

記憶では華奢な印象の女性だったけれど、かなり、ふくよかになっている。

第二王子の瞳の色にあわせているだろう紫色のドレス。
ぱっと目をひくような強い紫色で、きらきらした素材。しかも、沢山のフリル。
お茶会というより夜会にでるような、とても派手なドレス。

しかも、やけに濃いメイクが、こちらも夜会のようで、なんだか違和感がある。

一応、王女様に謝罪の気持ちをこめてのお茶会を開く、だったよね?
いくら表向きの理由としても、こんな格好をするかな……?

第一、本人にも似合っていないし、この場にも合っていない。
王子妃に仕える人たちは、何も言わなかったのかな?

でも、なにより気になるのは、王子妃の険しい表情。

普段はひきこもっているらしいから、緊張しているんだろうか……?
固い表情は、なにか思いつめたような感じがする。

そう思って見ると、派手なドレスや濃いメイクも武装しているみたい。
やっぱり、王子妃が自ら、お茶会を開きたいと言ったというのは絶対に嘘よね。
第二王子に命じられて、いやいやここに来ているんだと思う。

と、ざっと想像している間も、王子妃が私をじっと見ている。
というか、凝視してない!?

なんだろう。怖いんだけど……。 
でも、これまた、ご挨拶しないわけにはいかないよね。

と、思ったら、すでに戻ってきていたルーファスが隣からささやいた。

「なんか不気味だから、焦点をあわさなくていいよ、ララ。不気味だから、挨拶もしなくていいからね」

いや、そういうわけにはいかないよ、ルーファス!?

私のとまどいを、レーナおばさまが察したように、「ララちゃん、ルーファス」と、呼ぶ。
ルーファスとともに、レーナおばさまに近づいていく間も、王子妃は私から目をそらさない。

本当になんなんだろう、一体……。

「アンヌ様。マイリ侯爵家のララベル嬢と息子のルーファスです。ふたりはとても仲のいい幼馴染なんですよ」

レーナおばさまが私たちを紹介した。

ルーファスが軽く頭をさげ、私はカーテシーをする。

「マイリ……? ラスチェ公爵家の人じゃないの……?」

驚いたようにつぶやく王子妃。

ラスチェ公爵家といえば、ミナリア姉さまのご実家。
うちの親戚になる。

「ラスチェ公爵家は親戚になります」
と、答えた。

「親戚? だから、あの女に似てるんだ……」

苦々しい口調で答えた王子妃。

思わず、息をのんだ。

今、あの女って言った……? 
もちろん、ミナリアねえさまのことを言ってるんだよね!?
信じられない……!

そのひとことで、ミナリアねえさまにしたことを微塵も悪いとは思っていないことを確信した私。

怒りが、奥底からわきあがってくる。
が、ここで言い返すわけにはいかない。

無礼な王子妃と同等になりたくない!
怒りを押しとどめようと、むやみやたらと笑ってみる。

が、王子妃はそれ以上何も言わず、テーブルに向かって歩き出すと、さっさと第二王子の隣に座った。

私は、みんなに見えないように、背中の後ろで手をぎゅーっとにぎりしめた。
悔しくて、たまらない! どうしてくれよう、この怒り!

すると、次の瞬間、私のにぎりこぶしが、あたたかい手で、ふわっとつつみこまれた。
隣に並んでいるルーファスの手だ。

「ララの手が傷つくから、力をぬいて。あのは、放っておいても、自分のしたことの罰をうける。僕が断言する。だから、あんなのせいで、ララが傷つかないで」

ルーファスのとびきり優しい声に、泣きそうになる。
私は、にぎりしめていたこぶしから、ゆっくり力をぬいていった。

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