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当たり前
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何事もなかったのように席に戻ったルーファス。
当然のごとく、まわりの視線を集めていたけれど、ルーファスが見回すと、何故だか、みんながさーっと目をそらした。
「ええと、ルーファス。モリナさんに何を言ったの……?」
と、おそるおそる聞いてみた。
「ごくごく当たり前のことを注意しただけだよ」
「当たり前のこと? なんだか、モリナさん、ものすごーく怒ってたみたいだけど……」
「そう? でも、あの侯爵令嬢、僕が話してる途中で、いきなり去っていったから、あまり言いたいことが言えなかったんだよね」
愁い漂う表情で、残念そうに言ったルーファス。
そんなルーファスを見て、なるほどと言った感じで軽くうなずいたアイリス。
「要するに、とどめを刺せなかったから不満ってことよね、ルーファスは……。なんかおかしいと思ったのよ。ルーファスだったら、目の前で、ララにあんなことを言った侯爵令嬢には、心を折るくらいのことを言うと思ったのに、ララに捨て台詞をはいていくほどの力が残ってたから……」
「へえ、捨て台詞ね……。グレン、あとで、あれが、……いや、あの侯爵令嬢が何を言ったか、ひとことも漏らさず、教えてくれる? グレンの書いてくれたララの日記、その場にいたみたいに正確だったから、改めて、グレンの記憶力の良さに感心したよ」
「うわ、ルーファスにほめられた。嬉しい。じゃあ、忘れないうちに紙にかいて渡しとく」
グレンはにっこり笑ってそう言うと、シャツの胸ポケットからメモをとりだして、さらさらと書き始めた。
「いや、ふたりとも、ちょっと待って……。それ、紙に書く必要ないよね!? あんな言葉、ルーファスは知らなくていいよ」
「ううん、僕は知っておく必要がある。でも、ララはすぐに忘れて。ララの記憶力がもったいないからね」
「私の記憶力がもったいない……? よくわからないけど、わかった、すぐに忘れる。だから、ルーファスも気にしないで。モリナさんが言ったことは、ただ、腹立ちまぎれに投げ捨てた言葉だったと思う。ルーファスはそんなのわざわざ拾う必要もないし、知らなくていいからね! 優しいルーファスは、いつだって、自分のこと以上に、私を心配するでしょ? そんなどうでもいい言葉で嫌な思いをしてほしくないの。だから、ルーファスは知らなくていいよ」
ぴしっと言った私に、何故だか、とろけるように甘く微笑んだルーファス。
「僕のことを心配してくれるんだ、ララ。でも、ごめんね、気持ちはすごく嬉しいけど、それは聞けない」
そう言うと、グレンから差し出されたメモをしっかり受け取ったルーファス。
仕方ない。ここは、力づくで……。
私はルーファスのすきをついて、グレンのメモを横取りしようと手をのばした瞬間、その手をぎゅっとにぎられた。
「え!? ちょっと、ルーファス、離して……」
「だって、ララから手をのばしてきてくれたんだし。もう、離せないよね」
楽しそうにそう言うと、もう一方の手でグレンのメモをさっと読み、ポケットにしまった。
が、私の伸ばした手は離さない。焦る私。
「ララ、あきらめなさい。ルーファスがララへの暴言を見逃すわけないから……。で、ルーファス。いくらジャリス侯爵令嬢に腹がたったとはいえ、あんな、あおるような行動にでたのはなんでなの? ジャリス侯爵令嬢は浅はかだし怖い敵ではないけど、あの捨て台詞からして、ララにますます矛先が向いたけど? なにしてくれてるのよ、ルーファス?」
冷たい視線をルーファスに向けたアイリス。
「アイリスはそこを指摘してくると思ったよ。でも、今朝、ララにも言ったんだけど、昨日、あれから父に怒られたんだ。ララを隠すだけでは守れない。敵をおびきよせて、つぶすくらいの気概を見せろ。臆病になるなってね」
「ロイド公爵様がそんなことを……。さすがはルーファスのお父様というか……」
と、興味深そうにつぶやいたアイリス。
「で、以前から、あの侯爵令嬢が、僕がいない時をねらって、ララにつっかかってるのは知ってたけれど、僕が何か言うことで、更にララが嫌な思いをするかと思って、そのままにしてたんだ。でも、父に言われたことで考えが変わった。アイリスの言うように、あの侯爵令嬢がいくら浅はかで、脅威になる相手じゃないとしても、そのままにしてはいけないって思ったんだよね。だから、わざとあおってみた。見極めるためにね」
「見極めるね……。つまり、ルーファスにあおられた侯爵令嬢が何かしでかそうとしたら、その時は容赦なく、つぶすってことでいいのよね?」
「そういうこと。だから、ララのことは心配しなくていいよ、アイリス」
「わかったわ、ルーファス」
納得した様子で、うなずいたアイリス。
いや、わかったじゃなくて、今の会話、不穏すぎるんだけど……。
◇ ◇ ◇
それから1週間。拍子抜けするほど、平穏な日々を過ごしている私。
まあ、ルーファスの過保護度は増しているけど。
このまま何事もなく、お茶会は中止になり、王女様はジャナ国に戻られたらいいなあ……なんて思っていたら、第二王子妃の名前で、私宛にお茶会の招待状が届いた。
当然のごとく、まわりの視線を集めていたけれど、ルーファスが見回すと、何故だか、みんながさーっと目をそらした。
「ええと、ルーファス。モリナさんに何を言ったの……?」
と、おそるおそる聞いてみた。
「ごくごく当たり前のことを注意しただけだよ」
「当たり前のこと? なんだか、モリナさん、ものすごーく怒ってたみたいだけど……」
「そう? でも、あの侯爵令嬢、僕が話してる途中で、いきなり去っていったから、あまり言いたいことが言えなかったんだよね」
愁い漂う表情で、残念そうに言ったルーファス。
そんなルーファスを見て、なるほどと言った感じで軽くうなずいたアイリス。
「要するに、とどめを刺せなかったから不満ってことよね、ルーファスは……。なんかおかしいと思ったのよ。ルーファスだったら、目の前で、ララにあんなことを言った侯爵令嬢には、心を折るくらいのことを言うと思ったのに、ララに捨て台詞をはいていくほどの力が残ってたから……」
「へえ、捨て台詞ね……。グレン、あとで、あれが、……いや、あの侯爵令嬢が何を言ったか、ひとことも漏らさず、教えてくれる? グレンの書いてくれたララの日記、その場にいたみたいに正確だったから、改めて、グレンの記憶力の良さに感心したよ」
「うわ、ルーファスにほめられた。嬉しい。じゃあ、忘れないうちに紙にかいて渡しとく」
グレンはにっこり笑ってそう言うと、シャツの胸ポケットからメモをとりだして、さらさらと書き始めた。
「いや、ふたりとも、ちょっと待って……。それ、紙に書く必要ないよね!? あんな言葉、ルーファスは知らなくていいよ」
「ううん、僕は知っておく必要がある。でも、ララはすぐに忘れて。ララの記憶力がもったいないからね」
「私の記憶力がもったいない……? よくわからないけど、わかった、すぐに忘れる。だから、ルーファスも気にしないで。モリナさんが言ったことは、ただ、腹立ちまぎれに投げ捨てた言葉だったと思う。ルーファスはそんなのわざわざ拾う必要もないし、知らなくていいからね! 優しいルーファスは、いつだって、自分のこと以上に、私を心配するでしょ? そんなどうでもいい言葉で嫌な思いをしてほしくないの。だから、ルーファスは知らなくていいよ」
ぴしっと言った私に、何故だか、とろけるように甘く微笑んだルーファス。
「僕のことを心配してくれるんだ、ララ。でも、ごめんね、気持ちはすごく嬉しいけど、それは聞けない」
そう言うと、グレンから差し出されたメモをしっかり受け取ったルーファス。
仕方ない。ここは、力づくで……。
私はルーファスのすきをついて、グレンのメモを横取りしようと手をのばした瞬間、その手をぎゅっとにぎられた。
「え!? ちょっと、ルーファス、離して……」
「だって、ララから手をのばしてきてくれたんだし。もう、離せないよね」
楽しそうにそう言うと、もう一方の手でグレンのメモをさっと読み、ポケットにしまった。
が、私の伸ばした手は離さない。焦る私。
「ララ、あきらめなさい。ルーファスがララへの暴言を見逃すわけないから……。で、ルーファス。いくらジャリス侯爵令嬢に腹がたったとはいえ、あんな、あおるような行動にでたのはなんでなの? ジャリス侯爵令嬢は浅はかだし怖い敵ではないけど、あの捨て台詞からして、ララにますます矛先が向いたけど? なにしてくれてるのよ、ルーファス?」
冷たい視線をルーファスに向けたアイリス。
「アイリスはそこを指摘してくると思ったよ。でも、今朝、ララにも言ったんだけど、昨日、あれから父に怒られたんだ。ララを隠すだけでは守れない。敵をおびきよせて、つぶすくらいの気概を見せろ。臆病になるなってね」
「ロイド公爵様がそんなことを……。さすがはルーファスのお父様というか……」
と、興味深そうにつぶやいたアイリス。
「で、以前から、あの侯爵令嬢が、僕がいない時をねらって、ララにつっかかってるのは知ってたけれど、僕が何か言うことで、更にララが嫌な思いをするかと思って、そのままにしてたんだ。でも、父に言われたことで考えが変わった。アイリスの言うように、あの侯爵令嬢がいくら浅はかで、脅威になる相手じゃないとしても、そのままにしてはいけないって思ったんだよね。だから、わざとあおってみた。見極めるためにね」
「見極めるね……。つまり、ルーファスにあおられた侯爵令嬢が何かしでかそうとしたら、その時は容赦なく、つぶすってことでいいのよね?」
「そういうこと。だから、ララのことは心配しなくていいよ、アイリス」
「わかったわ、ルーファス」
納得した様子で、うなずいたアイリス。
いや、わかったじゃなくて、今の会話、不穏すぎるんだけど……。
◇ ◇ ◇
それから1週間。拍子抜けするほど、平穏な日々を過ごしている私。
まあ、ルーファスの過保護度は増しているけど。
このまま何事もなく、お茶会は中止になり、王女様はジャナ国に戻られたらいいなあ……なんて思っていたら、第二王子妃の名前で、私宛にお茶会の招待状が届いた。
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