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気分は最悪

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「ルーファス! 王女は明日は帰らない。我が国に滞在するのをのばされるそうだ。国王も許可された」

そういって、またもや、声をあげて笑った第二王子。
ルーファスの裏をかいた、みたいな感じで優越感にひたっているよう。

なんて、しょうもない!

「ええ、そうなの。私がもっとモリオン国にいたいと言ったら、国王様が快く受け入れてくださったの」
と、ルーファスに笑いかける王女様。

「ルーファスも王女の滞在がのびたと知り嬉しいだろう。この1週間、仲がよさそうだったからな」

「本当に。せっかく知り合えたルーファスと離れるのは寂しいもの。帰国がのびて私も嬉しいわ」
と、王女様。

ルーファスはさっきから無言なのに、やたらとルーファスの名前をだすふたり。

なんというか、ふたりが妙に上機嫌で話している様子が、何か企んでそうで嫌な予感しかない。
そういえば、ふたりはもともと面識があったって言っていたような……。

黙ったままのルーファスからぴりぴりしたような気が流れてくる。
ルーファスは私を守るように、更に体をよせてきた。

そして、鋭い視線でふたりを見ながら、冷たい声で言った。

「そうでしたか。ですが、前もっての約束通り、私は明日から学園に戻りますので、王女様のご案内はもうできません」

すると、第二王子が満足そうな笑みを浮かべた。

「ああ、ルーファスはもういい。あとは俺が案内するから」

あれ……? 
確か、第二王子が王女の案内することを王子妃が拒否したから、急遽、ルーファスにその役目がかわったんじゃなかったっけ……?
ルーファスも不審に思ったらしく、言葉を選ぶように聞いた。

「第二王子妃は了承されているのですか……?」

「ああ。アンヌに、おまえは私の番だ。なにも心配することはないと言い聞かせたらわかってくれた。おお、そうだ。アンヌが嫉妬したことを詫びたいと、王女を招いて茶会を開くことになったんだ。ちょうどいい。ルーファスもマイリ侯爵令嬢も、是非わが屋敷に来てくれ」

はああああ……!? 
ミナリア姉さまにあんなことをしたくせに、どの口が言うのよ!
私が、いくわけないでしょうが!? 天敵の巣なんかへ!

怒りのあまり、頭が沸騰しそうになった時、ふと隣に気配が……。
あ、お父様だ。

「第二王子殿下。せっかくのお誘いですが、お断りさせていただきます。まだまだ娘は子どもですので、絶対に安心できる茶会にしか参加させないようにしておりますから」

静かな口調のなかに、怒りがこめられているのが伝わってくる。
めったに怒らないお父様が本気で怒っている。

第二王子にも伝わったのか、お父様の迫力に口ごもった。

その時だ。
私たちの様子をうかがっていた人たちがさーっと離れ、頭をさげた。
人の波が引いたところから現れたのは、国王様。

なんで、国王様までここに……!?

「王女が戻ってこないと思ったら、話がもりあがっているようだな」
と、国王様。

いや、全くもりあがってませんが! 
それどころか、気分は最悪ですけど! と、心の中で猛反論する私。

王女様が国王様に向かって、やたらと笑顔で話しかけた。

「今、滞在をのばしていただいたことをルーファスに伝えたところなんです」

「おお、そうか。ルーファスが案内してくれたおかげで、王女は我がモリオン国に更に興味を持ってくれたみたいだぞ。さすがはルーファスだ。ご苦労だったな」

国王様がルーファスを手放しでほめると、第二王子が憎々しげにルーファスをにらんだ。

「本当にルーファスの説明はわかりやすくて、この国がすっかり好きになりました。ああ、そうですわ、国王様。ガイガー王子と王子妃のアンヌ様が、私を招待してお茶会を開いてくれるそうなんです。せっかくですから、ルーファスとミラベルさんにも来ていただきたいと思っているんです」

「アンヌが茶会を? ずっと屋敷にひきこもっていたと聞いておったが……」
と、国王様が驚いたように第二王子を見た。

「父上、アンヌがいらぬ嫉妬をしたことを反省して、王女をわが屋敷にお招きして、茶会を開きたいと申しております。それなら、王女と仲良くなったルーファスとその幼馴染であるマイリ侯爵令嬢も招待したいと思ったのですが、マイリ侯爵が……」

そういって、お父様のほうをあてつけがましく見る第二王子。

「せっかくのご招待ですが、お断りさせていただきました」
と、はっきり言い切ったお父様。

短い文言だけれど、完全なる拒否の気持ちが伝わってきた。
さすがお父様! きっぱり断ってくれて、ありがとう!
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