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嘘だよね

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王女様の背後に、血相をかえたお父様と、別方向からは、これまた、必死の形相のアイリスとグレンが私のほうに近づいてくるのが見えた。

私を心配しすぎて、あわてている三人を見ると、心配かけないよう、しっかりしなきゃと、妙に気持ちが落ち着いてきた。
いくらなんでも、こんな沢山の人の前で、とってくわれるわけじゃないし。

私は大丈夫というところを見せるため、少し胸をはり、うっすらと微笑んでみせる。

すると、その時だった。

「王女様、マイリ侯爵令嬢になにか用が?」
と、後ろから声がした。
ルーファスだ! 

振り返ると、さっき会った時より、少しだけ髪が乱れている。

離れたところの扉から広間に戻ると言っていたのに、私の様子に気がついて、走ってきてくれたんだ……。
ルーファスの計画とは違ってしまったけれど、ルーファスが来てくれて、ほっとした私。

すると、王女様がフフッと微笑んで、楽しそうにルーファスに言った。

「まあ、ルーファスったら、そんな怖い顔もするのね……。私はただ、ガイガー王子から、ルーファスととても仲の良い幼馴染がいると聞いて、お話してみたいと思っただけなのよ。とてもかわいらしいかただけど……、どうやら、獣人の血は、まるではいっていないようね?」

そういって、確認するように私をじっと見た。
多分、見ただけで、獣人の血が流れてないってわかるみたい。

それは別にいい。純血の竜の獣人なら、そんな能力があるのも納得だし。
それより、私がひっかかったのは、王女様の今の言葉には、あからさまに、獣人ではない人を見下すようなニュアンスが感じられたこと。

もちろん、ルーファスにも伝わっていたようで、顔は微笑んだまま、ひんやりとした視線を王女様に向けた。

「それがどうされましたか? 王女様は、人と獣人が境なく、ともに暮らす我が国を視察にこられたのですよね? この一週間で、何度か説明させていただいたとおり、我が国では、獣人と人とがまじりあって暮らしています。それぞれ違いはあっても、血によっての上下はありません」

淡々と言い返したルーファス。

「まあ、もちろん、わかっていてよ、ルーファス! 私は、獣人と人が仲良く暮らすこの国を見習いたいと思って、視察にきたんだもの。ただね、ルーファスのように、純血に近い竜の獣人が、獣人の血がまるで流れていない人と特別親しくしていると知り驚いただけ。……あ、そうだわ! せっかくだし、私も獣人の血が全く流れていない『人』とお話してみたいわ。信頼できるルーファスの幼馴染なら、是非、私ともお友達になってほしいもの。ねえ、あなた、お名前は?」

え……? 私とお友達になりたい?
どう考えても、獣人じゃない「人」に好意的ではない感じがもれだしているのに、嘘だよね……。
とはいえ、嫌とも言えないし。

一瞬、躊躇していると、ルーファスが私をかばうように、王女様のほうに近づいた。

「王女様。それなら、獣人ではない私の学友で、話好きのものが何人もおりますので、集まってもらいましょう。皆、王女様とは同級生になりますし、楽しい時間を過ごせるかと思います」

あ、良かった……。そうして、そうして!

「おい、ルーファス、何をあせっている? 王女様は、おまえと仲がいいマイリ侯爵令嬢と話がしたいと言っておられるのだぞ? 光栄なことだろう? 何故、邪魔をする? 失礼じゃないか」

そういって、第二王子が、ほの暗い笑みを浮かべてルーファスを見た。

その胸が悪くなるようないじわるな笑みに、思わずこぶしをにぎりしめた。

私を王女様から遠ざけようとするルーファスの意図を察して邪魔をしているのが、ありありとわかる。
第二王子は、さっきの仕返しをしているつもりなんだろう。

バカだとは知っていたけれど、驚くほど、心もちっちゃいんだね!!
と、怒りにまかせて叫びたくなったけれど、なんとか、飲み込んだ。

とにかく、私のために、これ以上ルーファスの立場を悪くするわけにはいかない。

私は王女様に向かって、できるだけ優雅にカーテシーをして、おびえているなんて思われないよう、笑顔でご挨拶をした。

「ご挨拶がおくれました。マイリ侯爵家の娘、ララベルと申します」

「まあ、ララベルさんっていうの? 本当に妖精みたいに儚い美しさね! 私のお付きのものみたいに、うちのジャナ国なんか、頑丈な獣人ばかりでしょう? ララベルさんみたいな人がきたら、あっという間に消えてなくなりそうだわ」

「王女様」

ルーファスがとがめるように、口をはさむ。

「もう、ルーファスったら。冗談に決まってるじゃない」

そう言うと、ルーファスに向かって妖艶に微笑みかけた王女様。

消えてなくなりそう……って、王女様が言うと、なんだか、リアルというか……。
もしかして、私、消されようとしてる?

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