19 / 71
今更
しおりを挟む
第二王子を前に、わきあがる腹立たしさをこらえるようにして、私は無理やり頭をさげた。
「顔をあげよ」
これまた、あげたくはないけれど、あげないわけにはいかない。
ギギギっと音がでそうなほど、力が入った状態で、なんとか頭をあげた私。
逃げるのは嫌なので、せめても、瞳に全力をこめて、にらみつける。
「そなたはミナリアの親戚のマイリ侯爵家の令嬢だったな。ほお……。前に会った時はまだ小さかったが、こうやって成長すると、やはり、ミナリアと似たところがある。懐かしいな……」
じとっとした目で顔をなめまわすように見られて、思わず鳥肌がたった。
「なあ、ミナリアはライナ国に住んでいるんだろう? その……ミナリアは元気なのか?」
は……? 嘘でしょ?
そんなことを聞ける権利が自分にあると思ってるんだろうか?
その無神経さに、ふつふつと怒りがこみあげる。
すぐにでも、靴をぬいで、なげつけたい衝動にかられてきた。
今なら、目の前に立っているし、確実にあてられる。
が、さすがの私でも、この王宮でそんな暴挙にでたら、大惨事になることくらいの理性は残っている。
とりあえず、腹立たしいけれど、ミナリア姉さまの尊厳にかけてでも、ここは笑顔ではっきり断言しておかねば!
「はい。とても元気で、幸せに暮らしております」
第二王子とはまるで違って、それはそれは素敵な旦那様ですからね……と心の中でつけ加えておく。
すると、「そうか……」と言って、何故か傷ついたような顔をした第二王子。
その瞬間、かっと火が付いたように怒りがふきあがった。
なに、その顔!? なんで、そんな顔をするの!?
そんな顔をする資格なんてない! と、叫びそうになるのを、なんとか飲み込んだ私。
考えるのも嫌だけれど、もしかして、今更、ミナリア姉さまのすばらしさに気づいたとか、バカなことを言いださないよね……?
と思った矢先、すがるような気持ちの悪い目を私に向けて、言った。
「マイリ侯爵令嬢。そなたはミナリアと仲がいいんだろう? 頼む! こっそり、ミナリアに連絡をとってほしい」
「はあ!?」
今度こそ、あきれた声がもれだしてしまった。
不敬であろうが、しょうがないよね。だって、ありえないことを耳にしたんだから。
「そんなこと、できません! 失礼します!」
叫ぶようにそう言い放ち、急いで、第二王子から離れようとした瞬間、腕をつかまれた。
「ミナリアと話しがしたいんだ!」
「離してください!」
「ミナリアにとってもいいことなんだ。だから、頼む! ミナリアに連絡をしてくれ!」
ものすごい力でひっぱられて、腕が痛い。
でも、それよりも、これは、さっきから、何、勝手なことを言っているの!?
心の方が怒りでどうにかなりそうなんだけど!
その時だ。
「ガイガー王子!」
ルーファスの鋭い声がした。
ものすごい速さで近づいて来たルーファス。私の腕をつかむ第二王子の手を叩き落し、私の姿を隠すようにして前にたった。
ルーファスの背中にかばわれて、一気に力が抜ける。
怒り、悔しさ、緊張、自分の無力さがごちゃまぜになってこみあげてきて、涙で目の前がにじんだ。
「ララに……マイリ侯爵令嬢に何をするんですか!?」
「ミナリアのことを聞いただけだ」
「それなら私に聞いてくださればいいでしょう!?」
「おまえらに聞いても、ミナリアのことは教えてはくれないだろうが。それに、ルーファス! なんで、おまえに指図されねばならない! 俺は王子で、おまえは、たかだか公爵家の息子だぞ!? それに、マイリ侯爵令嬢は、おまえの婚約者でもなんでもないだろうが! おまえが横から口だすことではない!」
声を荒げる第二王子。
王宮の護衛の方たちが近づいてくるが、王子相手なので手出しができず、ただ様子を伺っているよう。
「大事な幼馴染です」
ルーファスが第二王子に強い口調で言い返した。
そんなルーファスを見て、鼻で笑った第二王子。
「ほお……。まわりの者に優秀だとおだてられて、いい気になってるおまえでも、そんな余裕のない顔をするんだな? たかが話しかけただけで、なんだ、その殺気は……。そんなにこの子が大事か? まさか番か?」
「違います」
ルーファスが淡々とした声で答えた。
が、次の瞬間、いきなり、ルーファスの後ろにいる私をのぞきこんできた第二王子。
最悪なことに、ばっちり目があってしまった。
悔しいから、逃げることなく、きっちり睨み返す。
すると、第二王子は私を見据えて言った。
「もし、ルーファスがおまえのことを番だなんて言おうもんなら、即逃げろ。番は運命とか、そんなきれいなもんじゃない。ただの呪いだ……」
え……?
すぐにルーファスの背にかばわれたけれど、その時の第二王子の目は、不気味なほど暗い光を発していた。
「顔をあげよ」
これまた、あげたくはないけれど、あげないわけにはいかない。
ギギギっと音がでそうなほど、力が入った状態で、なんとか頭をあげた私。
逃げるのは嫌なので、せめても、瞳に全力をこめて、にらみつける。
「そなたはミナリアの親戚のマイリ侯爵家の令嬢だったな。ほお……。前に会った時はまだ小さかったが、こうやって成長すると、やはり、ミナリアと似たところがある。懐かしいな……」
じとっとした目で顔をなめまわすように見られて、思わず鳥肌がたった。
「なあ、ミナリアはライナ国に住んでいるんだろう? その……ミナリアは元気なのか?」
は……? 嘘でしょ?
そんなことを聞ける権利が自分にあると思ってるんだろうか?
その無神経さに、ふつふつと怒りがこみあげる。
すぐにでも、靴をぬいで、なげつけたい衝動にかられてきた。
今なら、目の前に立っているし、確実にあてられる。
が、さすがの私でも、この王宮でそんな暴挙にでたら、大惨事になることくらいの理性は残っている。
とりあえず、腹立たしいけれど、ミナリア姉さまの尊厳にかけてでも、ここは笑顔ではっきり断言しておかねば!
「はい。とても元気で、幸せに暮らしております」
第二王子とはまるで違って、それはそれは素敵な旦那様ですからね……と心の中でつけ加えておく。
すると、「そうか……」と言って、何故か傷ついたような顔をした第二王子。
その瞬間、かっと火が付いたように怒りがふきあがった。
なに、その顔!? なんで、そんな顔をするの!?
そんな顔をする資格なんてない! と、叫びそうになるのを、なんとか飲み込んだ私。
考えるのも嫌だけれど、もしかして、今更、ミナリア姉さまのすばらしさに気づいたとか、バカなことを言いださないよね……?
と思った矢先、すがるような気持ちの悪い目を私に向けて、言った。
「マイリ侯爵令嬢。そなたはミナリアと仲がいいんだろう? 頼む! こっそり、ミナリアに連絡をとってほしい」
「はあ!?」
今度こそ、あきれた声がもれだしてしまった。
不敬であろうが、しょうがないよね。だって、ありえないことを耳にしたんだから。
「そんなこと、できません! 失礼します!」
叫ぶようにそう言い放ち、急いで、第二王子から離れようとした瞬間、腕をつかまれた。
「ミナリアと話しがしたいんだ!」
「離してください!」
「ミナリアにとってもいいことなんだ。だから、頼む! ミナリアに連絡をしてくれ!」
ものすごい力でひっぱられて、腕が痛い。
でも、それよりも、これは、さっきから、何、勝手なことを言っているの!?
心の方が怒りでどうにかなりそうなんだけど!
その時だ。
「ガイガー王子!」
ルーファスの鋭い声がした。
ものすごい速さで近づいて来たルーファス。私の腕をつかむ第二王子の手を叩き落し、私の姿を隠すようにして前にたった。
ルーファスの背中にかばわれて、一気に力が抜ける。
怒り、悔しさ、緊張、自分の無力さがごちゃまぜになってこみあげてきて、涙で目の前がにじんだ。
「ララに……マイリ侯爵令嬢に何をするんですか!?」
「ミナリアのことを聞いただけだ」
「それなら私に聞いてくださればいいでしょう!?」
「おまえらに聞いても、ミナリアのことは教えてはくれないだろうが。それに、ルーファス! なんで、おまえに指図されねばならない! 俺は王子で、おまえは、たかだか公爵家の息子だぞ!? それに、マイリ侯爵令嬢は、おまえの婚約者でもなんでもないだろうが! おまえが横から口だすことではない!」
声を荒げる第二王子。
王宮の護衛の方たちが近づいてくるが、王子相手なので手出しができず、ただ様子を伺っているよう。
「大事な幼馴染です」
ルーファスが第二王子に強い口調で言い返した。
そんなルーファスを見て、鼻で笑った第二王子。
「ほお……。まわりの者に優秀だとおだてられて、いい気になってるおまえでも、そんな余裕のない顔をするんだな? たかが話しかけただけで、なんだ、その殺気は……。そんなにこの子が大事か? まさか番か?」
「違います」
ルーファスが淡々とした声で答えた。
が、次の瞬間、いきなり、ルーファスの後ろにいる私をのぞきこんできた第二王子。
最悪なことに、ばっちり目があってしまった。
悔しいから、逃げることなく、きっちり睨み返す。
すると、第二王子は私を見据えて言った。
「もし、ルーファスがおまえのことを番だなんて言おうもんなら、即逃げろ。番は運命とか、そんなきれいなもんじゃない。ただの呪いだ……」
え……?
すぐにルーファスの背にかばわれたけれど、その時の第二王子の目は、不気味なほど暗い光を発していた。
825
お気に入りに追加
1,995
あなたにおすすめの小説
恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥
矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。
でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。
周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。
――あれっ?
私って恋人でいる意味あるかしら…。
*設定はゆるいです。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる