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面倒なふたり
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見なかったことにしたのに、ふたりが立ち上がって、しゃなりしゃなりと私のほうへと近づいてきた。
「げっ……」
気づいたアイリスも嫌そうな声をもらす。
私を見下ろすように立ち、
「やっと、ルーファス様に見放されたのね。ララベルさん!」
と、声高に言ったのは、ゴージャスな金色の巻き毛のモリナさん。
ジャリス侯爵家の令嬢で、年は私よりひとつ上。
ちなみに彼女も相当血は薄いらしいけれど、竜の獣人。
ルーファスとは遠い親戚にあたる。
そして、小さい頃から、ルーファスに執着しているひとりで、私を目の敵にしている。
「ララベルさんは、侯爵家の令嬢とはいえ、獣人ではないですものね。誇り高い竜の獣人であるルーファス様のおそばにいていいわけがないわ。身の程をわきまえないから、こんなみじめなことになるのよ」
これまた、えらそうな口調で言ったのは、桃色の髪が自慢のコルネさん。
ロスター伯爵家の令嬢でモリナさんと同じ年。
この国は元々が獣人の国だったからとかなんて理由で、獣人のほうがえらい、みたいな考えの人がたまーにいる。
コルネさんのお父様のロスター伯爵様がそんな考えみたいで、コルネさんもしっかり受け継いでいる。
小さい頃から、顔を合わすたび、私が獣人じゃないから、ルーファスのそばにいるのはおかしいと言ってくるんだよね。
ちなみに、コルネさんはうさぎの獣人。
コルネさん自身に全く興味はないのに、本人が自慢げに言ってくるので知っている。
私としてはウサギは大好きなのに、ピンク色のうさぎのぬいぐるみを目にすると、コルネさんを条件反射で思い出すのが、なんだか悲しい……。
ちなみに、コルネさんも熱狂的なルーファスファン。
ふたりにとって、私は共通の敵なのか、いつも連れ立って嫌味やら文句をいいにくる。
まあ、ルーファスがいない時だけなんだけどね。
せっかくのお昼休みなのに、面倒だなあ……。
「そうそう、ララベルさん。ルーファス様が今、つきっきりで一緒におられるのは、ジャナ国の王女様らしいわよ。ジャナ国の王族といえば、ルーファス様と私と同じ、竜の獣人。獣人じゃないララベルさんでも、これくらいは知ってるわよね? 常識だもの」
と、やたらと嬉しそうに言うモリナさん。
「まあ、知ってますが……」
と答えたものの、モリナさんがこんなに嬉しそうなのは、なんでだろう。
だって、ルーファスの幼馴染というだけの私を敵視するくらいなのに、王女様なら、そばにいてもいいんだろうか……?
今までのルーファスへの執着を思い出すと、誰であっても、ルーファスのそばに女性がいるのは嫌がりそうなのに。
会話をひろげたくないのに、気になってしまって、つい聞いてみた。
「モリナさんはルーファスのそばに王女様がいるのは別にいいんですか?」
すると、勝ち誇ったように私を見て、ふふっと笑ったモリナさん。
「そりゃあ、いい気はしないわ。でも、ジャナ国の王女様は誇り高き純血の竜の獣人。竜の獣人以外では、ご案内はできないでしょう? つまり、竜の獣人のルーファス様だから任された、国を代表してのお役目だもの。そこは、私だって見守るわ。嫉妬で邪魔はしたくないもの」
「……は? いやいや、それ、なに目線? もしや、自分が妻だって妄想……? こわすぎるっ……」
と、隣で身震いするアイリス。
今度はコルネさんが、負けじとしゃべりだす。
「もちろん、私もよ、ララベルさん。獣人ではない、あなたにはわからないでしょうけどね。やっぱり、ルーファス様のおそばにいるのは、獣人ではないあなたには無理なのよ!」
はい、またでた。獣人マウント。
私は内心、ため息をつく。
グレンなんか興味がなさすぎて、思考を放棄しているよう。
さっきから笑顔のまま、動かないんだけど。
もしかして、眠ってる?
そんなことを考えていると、モリナさんが意味ありげに微笑んだ。
「今回、純血の竜の獣人であられる王女様と一緒にいることで、ルーファス様の竜の獣人としての本能が目覚めるんじゃないかしら」
「本能?」
思わず聞き返す。
「もちろん、番よ! ルーファス様は17歳。竜の獣人の番は18歳までに現れるって言うでしょ。だから、王女様に刺激されて、目覚めるの!」
あ、ついに言ったわね! 私のだいっきらいな言葉を!
「じゃあ、モリナさんは王女様が番で、ルーファスがそれに気づくって言いたいの?」
と、アイリスがあきれたように言った。
モリナさんが目をつりあげた。
「そんなわけないでしょ! というか、アイリスさん。先輩にむかって、なんて口の利き方なの!」
「敬うところがまるでない人のことは、先輩って思えないので」
と、かっこよく言い返すアイリス。
確かに……。
「失礼ね! それに、年だけじゃないわ。アイリスさん、あなた子爵家でしょ。私は侯爵家の令嬢なのよ!」
ちょっと、アイリスになんてことを言うの!
自分のことは聞き流せるけれど、アイリスへのその態度は許せない。
抗議しようと立ち上がったとたん、「学園では家は関係ないよね? 爵位をふりかざして、恥ずかしくないの?」と、ひんやりとした声がした。
あ、グレン。起きてる。
そして、笑顔だけれど、目がわらってない。
うん、怒ってるわね。
いつもおっとりしてるけれど、アイリスのこととなると割と沸点は低いグレン。
アイリスがそんなグレンを見て、ちょっと嬉しそう。
この二人の様子にいらだっていた心が瞬時に癒されたわ……。
「げっ……」
気づいたアイリスも嫌そうな声をもらす。
私を見下ろすように立ち、
「やっと、ルーファス様に見放されたのね。ララベルさん!」
と、声高に言ったのは、ゴージャスな金色の巻き毛のモリナさん。
ジャリス侯爵家の令嬢で、年は私よりひとつ上。
ちなみに彼女も相当血は薄いらしいけれど、竜の獣人。
ルーファスとは遠い親戚にあたる。
そして、小さい頃から、ルーファスに執着しているひとりで、私を目の敵にしている。
「ララベルさんは、侯爵家の令嬢とはいえ、獣人ではないですものね。誇り高い竜の獣人であるルーファス様のおそばにいていいわけがないわ。身の程をわきまえないから、こんなみじめなことになるのよ」
これまた、えらそうな口調で言ったのは、桃色の髪が自慢のコルネさん。
ロスター伯爵家の令嬢でモリナさんと同じ年。
この国は元々が獣人の国だったからとかなんて理由で、獣人のほうがえらい、みたいな考えの人がたまーにいる。
コルネさんのお父様のロスター伯爵様がそんな考えみたいで、コルネさんもしっかり受け継いでいる。
小さい頃から、顔を合わすたび、私が獣人じゃないから、ルーファスのそばにいるのはおかしいと言ってくるんだよね。
ちなみに、コルネさんはうさぎの獣人。
コルネさん自身に全く興味はないのに、本人が自慢げに言ってくるので知っている。
私としてはウサギは大好きなのに、ピンク色のうさぎのぬいぐるみを目にすると、コルネさんを条件反射で思い出すのが、なんだか悲しい……。
ちなみに、コルネさんも熱狂的なルーファスファン。
ふたりにとって、私は共通の敵なのか、いつも連れ立って嫌味やら文句をいいにくる。
まあ、ルーファスがいない時だけなんだけどね。
せっかくのお昼休みなのに、面倒だなあ……。
「そうそう、ララベルさん。ルーファス様が今、つきっきりで一緒におられるのは、ジャナ国の王女様らしいわよ。ジャナ国の王族といえば、ルーファス様と私と同じ、竜の獣人。獣人じゃないララベルさんでも、これくらいは知ってるわよね? 常識だもの」
と、やたらと嬉しそうに言うモリナさん。
「まあ、知ってますが……」
と答えたものの、モリナさんがこんなに嬉しそうなのは、なんでだろう。
だって、ルーファスの幼馴染というだけの私を敵視するくらいなのに、王女様なら、そばにいてもいいんだろうか……?
今までのルーファスへの執着を思い出すと、誰であっても、ルーファスのそばに女性がいるのは嫌がりそうなのに。
会話をひろげたくないのに、気になってしまって、つい聞いてみた。
「モリナさんはルーファスのそばに王女様がいるのは別にいいんですか?」
すると、勝ち誇ったように私を見て、ふふっと笑ったモリナさん。
「そりゃあ、いい気はしないわ。でも、ジャナ国の王女様は誇り高き純血の竜の獣人。竜の獣人以外では、ご案内はできないでしょう? つまり、竜の獣人のルーファス様だから任された、国を代表してのお役目だもの。そこは、私だって見守るわ。嫉妬で邪魔はしたくないもの」
「……は? いやいや、それ、なに目線? もしや、自分が妻だって妄想……? こわすぎるっ……」
と、隣で身震いするアイリス。
今度はコルネさんが、負けじとしゃべりだす。
「もちろん、私もよ、ララベルさん。獣人ではない、あなたにはわからないでしょうけどね。やっぱり、ルーファス様のおそばにいるのは、獣人ではないあなたには無理なのよ!」
はい、またでた。獣人マウント。
私は内心、ため息をつく。
グレンなんか興味がなさすぎて、思考を放棄しているよう。
さっきから笑顔のまま、動かないんだけど。
もしかして、眠ってる?
そんなことを考えていると、モリナさんが意味ありげに微笑んだ。
「今回、純血の竜の獣人であられる王女様と一緒にいることで、ルーファス様の竜の獣人としての本能が目覚めるんじゃないかしら」
「本能?」
思わず聞き返す。
「もちろん、番よ! ルーファス様は17歳。竜の獣人の番は18歳までに現れるって言うでしょ。だから、王女様に刺激されて、目覚めるの!」
あ、ついに言ったわね! 私のだいっきらいな言葉を!
「じゃあ、モリナさんは王女様が番で、ルーファスがそれに気づくって言いたいの?」
と、アイリスがあきれたように言った。
モリナさんが目をつりあげた。
「そんなわけないでしょ! というか、アイリスさん。先輩にむかって、なんて口の利き方なの!」
「敬うところがまるでない人のことは、先輩って思えないので」
と、かっこよく言い返すアイリス。
確かに……。
「失礼ね! それに、年だけじゃないわ。アイリスさん、あなた子爵家でしょ。私は侯爵家の令嬢なのよ!」
ちょっと、アイリスになんてことを言うの!
自分のことは聞き流せるけれど、アイリスへのその態度は許せない。
抗議しようと立ち上がったとたん、「学園では家は関係ないよね? 爵位をふりかざして、恥ずかしくないの?」と、ひんやりとした声がした。
あ、グレン。起きてる。
そして、笑顔だけれど、目がわらってない。
うん、怒ってるわね。
いつもおっとりしてるけれど、アイリスのこととなると割と沸点は低いグレン。
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