私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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幼馴染

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イチゴのタルトを食べ終えた私は、今度はイチゴのプリンを食べながら、カフェの入り口のほうを見て、ルーファスに問いかけた。

「そういえば、アイリスとグレン、まだ来ないのかな……? どうしたんだろう? 遅いよね?」

今日は、このカフェに、私とルーファス、アイリスとグレンの4人という、いつものメンバーで一緒に来る予定だった。
でも、急に、アイリスとグレンが寄るところがあるからあとで行くって言い出したんだよね。

ちなみに、アイリスは私の親友で、私と同じ16歳。
アイリスとは5歳の時に出会って、すぐに仲良くなった。
猫の獣人で、手広く事業をしているリンド子爵家のあととり令嬢。

そして、グレンは、ルーファスと同じ17歳でクランツ伯爵家の次男。
グレンは私と同じで、獣人じゃない。

で、このふたりは幼い頃から婚約していて、グレンはアイリスの卒業を待ったあと、すぐにリンド子爵家に婿入りすることになっている。
ものすごく、しっかりしたアイリスと、おっとりやさしいグレンは、本当にお似合いなんだよね。

私とアイリスが6歳でこの学園に入ってから、自然とこの4人で一緒にいることが多くなっていった。

でも、1年後には、ルーファスとグレンが先に卒業してしまう。
卒業したら、こんなに会えないのかなあと思うと、今からちょっと寂しくなる。

しんみりしながらも、イチゴのプリンをせっせと口に運んでいると、ルーファスが言った。

「もし用が長引いたら、今日は合流できないかもしれないって、グレンが言ってたよ」

「えっ、そうなの? アイリス、なんにも言ってなかったのに」

「言い忘れたんじゃない? それより、ララ。口の横に何かついてる」

「うそ!? どこどこ……?」

私が、あわてて口の周りを手でさわろうとすると、それよりも先に、ルーファスの手がのびてきて、私の口元をなでるように優しく触れた。

「ほら、とれたよ。ララ」

そう言って、甘ったるい笑顔を見せてきたルーファス。

うん。さすがにこれは恥ずかしい……。

多分、ルーファスにとったら、私は小さな子どものままなんだと思う。
マカロンを食べさせようとするのも、そうだろうし。

私に過保護すぎて、いつだって、あれこれと世話をしようとしてくるんだよね。

すると、ついさっき、近くのテーブルにすわった見知らぬ女性たちのグループから、「きゃっ!」という声が聞こえてきた。

黄色い声に、思わずため息がでそうになった。
ここは穴場的なカフェで静かなお客さんが多いから、気に入ってたのに。

これもよくあることだけど、ルーファスが落ち着けないでしょ。

そう、ルーファスはとにかく目立つし、人気がある。

銀色に輝く髪に、サファイア色をした瞳で、ものすごくきれいだから。
どこにいたって、みんなの視線を集めてしまう。

血が濃い竜の獣人である王族の方たちは、整った顔をしている方ばかりだ。
(あ、第二王子の顔は私の記憶から強制的に抹消しているので、ここにはふくんでないけどね)

でも、国王様を筆頭に、みなさん、しっかりとした顔立ちで、圧倒されるような迫力がある。

王弟でルーファスのお父様、ロイド公爵様も見た目だけならそんな感じ。
でも、お話しすると、とても気さくで優しい方だから、圧倒されるどころか、とても親しみやすくて素敵な方なんだけどね。

でも、ルーファスは王族の方々とは印象が違っている。
儚げな美貌で社交界の華だったという公爵夫人にも似てるから、ご両親のよいところが絶妙にまじりあったんだと思う。
繊細で、はっと目を奪われるような美貌なのよね。

アイリスに言わせると、「妖しい色気がもれだしていて危ない」とか言うけれど、私には、笑うと天使にしか見えない。その天使のようなきれいさが危なっかしいとは思うけどね。

なんてことを考えながら、ルーファスの顔をまじまじと見ていたら、「どうしたの、ララ?」と、小首をかしげて聞いてきた。

「改めて見ると、どこからどう見ても、きれいだなと思ってね。ルーファスは」

「そうかな……? 僕にしたら、ララのほうが、どこからどう見ても、すごくかわいいけどね」

幼馴染の欲目なのか、恥ずかしいほど、私のことを褒めまくるルーファス。
いつものことなので、「はいはい、ありがとうね」と、これまた、いつものように、適当に受け流しておく。

「本当なのにひどいな。ララが信じてくれない」

そう言って、少しすねたような顔をしたルーファス。

その途端、さっきのテーブルから、またもや、「きゃあっ!」という声があがった。

「もしかして公爵家のルーファス様じゃ……」とか、なんとか、ざわざわしはじめた女性たち。
彼女たちのルーファスを見る視線が、あからさまになったのを肌で感じた。

とっさに、体が動いた。
貴族令嬢としてのマナーも完全無視で、すばやく、ルーファスのほうに椅子ごと移動していく。

そして、ルーファスと女性たちの視線をさえぎるような位置に椅子をおいて、坐りなおした。
そう、自分の体を盾にして、ルーファスを彼女たちの視線から守る感じ。

これも幼いころからの習性のようなもの。

私のお母様と、公爵夫人でありルーファスのお母様であるレーナ叔母様は学生時代からの親友。
だから、物心ついた時から、そばにいたルーファス。
私には過保護なくせに、自分のことにはまるで警戒心がないんだよね。

ルーファスの美貌は年齢問わず、性別問わず、いろんな人をひきよせてしまうから、危なっかしいのに。

子どもの頃、天使より天使みたいな美少年だったルーファスは、一度、誘拐されそうになったことがある。
幸い未遂だったけれど、ルーファスがショックを受けて部屋からでてこないから、私に会いにきてほしいとレーナ叔母様から連絡があった。

お母様と一緒に、すぐにかけつけた私。

レーナ叔母様が「ララちゃんがきてくれたわよ」とドアの外から声をかけると、やっと、顔をのぞかせたルーファス。

サファイア色の瞳に涙をうかべ、銀色のきれいな髪も、ぼさぼさになっていたルーファス。
私は号泣しながら、だきついた。

その日、一日、ルーファスにぴったりひっついて、一緒にご飯を食べて、慣れないけれど、着替えを手伝ったり、髪をとかしたりした。メイドさんたちもレーナ叔母様でさえルーファスに近づけない。多分、大人が嫌なんだと思う。だから、私がなんでもやってみた。

夕方、やっと笑顔を見せてくれるようになったルーファス。

帰らないといけない時間になり、「また、明日来るね」そう言って帰ろうとしたら、ルーファスが私の手をにぎってはなさかった。

「ララ、帰らないで……。ララ、いっしょにいて……。ララがいっしょなら、ぼく、怖くないから……」

レーナ叔母様が何を言ってなだめても、ルーファスは絶対に私の手をはなさなかった。
結局、レーナ叔母様にも頼まれて、私はそのまま家に帰らず、それから10日間、公爵家に滞在したんだよね。

あの時、私の手をにぎってきたルーファスの手の感触は今でも覚えてる。

そう、その時、強く思ったの。
ルーファスを私が守らなきゃって。

成長した今もその気持ちは変わらない。

すらりと背ものびて、大人っぽくなったら、ますます目立つようになり、人を魅了してしまうルーファス。
それなのに、あいかわらず、自分の美貌には無頓着で、私の心配ばかりしている。

そんな、心優しいルーファスだから、どれだけ背が伸びても、子どもの頃と同じように、私には天使に見えてしまう。

私のほうが年下で、背もずっと低いし、純血の人だから、特別な能力もないけれど、私がそばにいて守らなきゃ、そう思ってしまうんだよね。




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