私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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私の一番嫌いな言葉

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その昔、私の住むモリオン国は、竜の獣人を筆頭にして、色々な種の獣人だけが住んでいた国だった。
そこへ、近隣の国々から獣人の血が全くはいっていない人たちがやってきて、住み始めたという歴史がある。

長い月日をかけて、獣人と人はまじりあい、今や、獣人と人は半々くらいの割合で住んでいるこの国。

そのため獣人といっても血はうすまり、完全に獣化するような純血の獣人は、この国にはもういない。

たまに短いしっぽがあったり、耳が毛深かったりと、身体的特徴がある人もいるにはいるけれど、だいたいは見た目では区別がつかない人がほとんどだ。

まあ、足が速いとか、力が強いとか、耳がよく聞こえるとか、鼻が利くとか、獣人っぽい能力を持った人は多いけれど、それは、獣人じゃなくてもいるし、決して特別なことじゃない。

ただひとつ、人にはない特性が、獣人にはたまに現れることがある。
それが「番」だ。

そして、私の一番嫌いな言葉も「番」。

もちろん、言うまでもなく、11年前のことが原因になっている。
あの第二バカ王子のせいで。

この国の王族は竜の獣人。

竜の体になることはないけれど、王族の獣人の血はかなり濃い。
代々、竜の獣人の番は、竜の獣人であることが多いし、番が現れなくても、政略的な伴侶として、竜の獣人を選ぶ王族が多いから。
そのため、純血とまでいかなくても、竜の獣人の血が濃いといわれている。
なので、王族の竜の獣人は、いまだに番が現れることが他の獣人よりは圧倒的に多い。

とにかく、ミナリア姉様を傷つけたあの第二王子はあんなひどいことをしたのに、番は獣人の本能だからと、結局、おとがめはなかった。
それどころか、「結婚式当日に番に出会えるなんて、すごい奇跡だ! さすがは竜の獣人である王子様だ!」なんて、褒めたたえる獣人たちも多かったそう。

近年、この国の獣人は血がうすまっているせいか番に会わない。あるいは、わからない獣人が多くなってきている。
そのためか、番=憧れの象徴みたいにとらえる獣人も多い。

私にしてみたら、は? だ。

だって、第二バカ王子みたいに、会ったとたん、すべてを放りだしてでも惹かれてしまうなんて、まわりの人間にしてみたら迷惑極まりない。ミナリア姉さまにいたっては、大災害にあったようなもんじゃない?

それなのに、迷惑をかけた張本人の第二バカ王子は謝るでもなく、「俺は番に出会ったんです! しょうがないでしょう! 彼女が俺の番なんですから!」と、声高に叫んだのよね! 
今でもその憎々しいセリフは、忘れたくても忘れられない。

更には、第二バカ王子の番とされた元メイドの女性も深く考えないタイプなんだと思う。
だって、浮かれまくったふたりはミナリア姉さまに気をつかうでもなく、これ見よがしに、それはそれはド派手な結婚式をしたんだもの。

しかも、その女性が平民だったこともあり、市井で人気の劇団が、運命で結ばれた番みたいな劇にしたようで、一時期、大人気になった。

それを知った時、私は子どもごころに、荒れに荒れた。

そんな劇を作った人も、そんな劇を見る人も、自分がミナリア姉さまの立場だったらどう思うのか、想像もつかないバカばっかりなの? って、毎日、大泣きしていた。

お母様には、「バカ」なんて言葉を言ってはいけませんって怒られたけれど、ボキャブラリーの少ない5歳の子どもには、他に思いつかなかったから。

あー、ダメダメ。あの時のことを思い出すと、やっぱり、むかむかしてきたわ!

といっても、私は「番」が嫌いなだけで、獣人が嫌いとかじゃない。
そもそも、人と獣人をわけて考えたことがない。だって、大好きな親友も大切な幼馴染も、そういえば獣人だったよね、って感じ。

でも、「俺、この前、なんと番に出会ったんだ! 当然、彼女とは即刻わかれたけど、番はやっぱり最高だよ!」と誇らし気に言う獣人のクラスメイトを見たときは、思わず、はいていた靴をぬいで投げつけそうになった。

親友のアイリスがとめてくれたけれど、やっぱり、番なんて最悪だって、改めて思ったできごとだったわ!





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