(完結) わたし

水無月あん

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外と内

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声のほうを見ると、目も口も笑っているような顔をした木の仏像が立っていた。

「あの……、ここはどこ?」

「寺だよ」

「てら?」

「そうさ、人間が拝みにくるところさ」

「へえ……、でも、なんで、ここに?」

「檀家の骨董屋が、あんたをここへ連れてきたんだよ」

「こっとうや……?」

「あんた、古そうなのに、なんも知らないねえ。寝起きだからかねえ」

「はあ……」

「まあ、いいさ。私が、これから、どんどん教えてあげるよ。私は、おしゃべりが大好きだからねえ」

「はあ……」

「骨董屋とはね、ふるいもんを売り買いしている人間のことさ」

「へえ……」

「その骨董屋がね、店を閉めることにしたんだけど、ぼろぼろの仏像……、つまり、あんたが売れ残ったそうだ。古い時代の値打ちもんだと思って大金で買ったが、見当違いだったって嘆いてたよ。思えば、骨董屋へ売りに来た背の高い男も、目つきが悪く怪しかったんだって。捨てるにも、仏像だけに後味がわるいからって。それを聞いた、この寺のお坊さんが気の毒がって、あんたを買い取ったのさ。あっ、ぼろぼろって言うのは聞いたまんまだから、私が言ったんじゃないよ。気を悪くしないでおくれね」

一気に沢山の言葉が流れ込んできて、なにもわからない……。

「はあ……」

「ちょっと、あんた! 大丈夫かい?」

「よく、わからなくて……」

「もしかして、自分がだれなのかも、わからないのかい?」

笑った顔のまま、仏像は心配そうな声で聞いてきた。

「まあ……」

「そうかい……。長く眠りすぎたせいで、外側の仏像にひっぱられてるんだねえ。あんたも、私と同じで、もとから仏像ってわけじゃないのかもね」

「ひっぱられる?」

「そうだよ。外側にひっぱられると、ぼんやりして、なーんも考えられないようになるんだ」

「はあ……」

「まあ、わからなくてもいいから、聞いておいで。なにか思い出すかもしれないだろ。私でも、ぼんやりしていると、ふっと、外側の仏像にもっていかれそうになるからねえ。外側と内側が違うと、どうしても強いほうにひっぱられるんだよ。あんたほど、古い仏像に入ってると、外側の我も相当強そうだ。まあまあ、一緒にいましょうや、ってわけにはいかないだろうしね」

「あの……このままだと、どうなるんでしょう?」

「そうだねえ。あんたが消えちまうんじゃないかねえ」

仏像が悲しげな声で言ったあと、急に明るい声をだした。

「でも、あきらめるんじゃないよ! あんたが、外側に負けなきゃいいだけだからね。私はね、外側にすいこまれないよう、私をわすれないよう、仏像に宿った時の気持ちを思いだすようにしてるのさ」

「はあ……」

「そうさ。私はね、この仏像に強く願って宿ったんだよ。そうはいっても、仏像になりたかったわけじゃない。私が私のまま、宿りたかったんだ。だから、私が消えちまわないように、気をつけてるのさ」

「はあ?」

「いきなり、こんなこと言っても、わかりゃあしないか……。じゃあ、まずは、私がこの仏像に宿るまでのことを話すよ。わからなくてもいいから、聞いておいで。何か思い出すかもしれないしね」
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