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外と内
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声のほうへ、意識をむけると、目も口も笑っているような顔をした木の仏像が立っている。
「あの…、ここは?」
「寺だよ」
「てら?」
「そうさ、人間が拝みにくるところさ」
「へえ…、でも…、なんで、ここに?」
「何日か前、檀家の骨董屋が、あんたをここへ連れてきたんだよ」
「こっとうや?」
「あんた、古そうなのに、なーんも知らないねえ。寝起きだからかねえ」
「…はあ」
「まあ、いいさ。私が、これから、どんどん教えてあげるよ。私は、おしゃべりが大好きだからねえ」
「…はあ」
「骨董屋とはね、ふるいもんを売り買いしている人間のことさ」
「…へえ」
「その骨董屋がね、店を閉めることにしたんだけど、ぼろぼろの仏像のあんたが売れ残ったそうだ。古い時代の値打ちもんだと思って、大金で買ったが、見当違いだったって嘆いてたよ。思えば、骨董屋へ売りに来た背の高い男も、目つきが悪く怪しかったんだって。捨てるにも、仏像だけに後味がわるいからって。それを聞いた、この寺のお坊さんが、気の毒がって、あんたを買い取ったのさ。あっ、ぼろぼろって言うのは聞いたまんまだから、私が言ったんじゃないよ。気を悪くしないでおくれね」
一気にたくさんの言葉が流れ込んできた。
「…はあ」
「ちょっと、あんた! 大丈夫かい?!」
「…なんだか、よく、わからなくて…」
「もしかして…、自分がだれなのかも、わからないのかい?」
笑った顔のまま、仏像は心配そうな声で聞いてきた。
「…はい」
「そうかい…。ながく眠りすぎて、外側の仏像にひっぱられてるんだねえ。あんたも、私と同じで、もとから仏像ってわけじゃないだろうから」
「…はあ? ひっぱられる?」
「そうだよ。外側にひっぱられると、ぼんやりして、なーんも考えられないようになるんだ」
「…はあ」
「まあ、わからなくてもいいから、聞いておいで。なにか思い出すかもしれないだろ。私でも、ぼんやりしていると、ふっと、外側の仏像にもっていかれそうになるからねえ。外側と内側が違うと、どうしても強いほうにひっぱられるんだよ。あんたほど、古い仏像に入ってると、外側の我も相当強そうだ。まあまあ、一緒にいましょうや、ってわけにはいかないだろうしね」
「…このままだと、どうなるんでしょう?」
「そうだねえ。あんたが消えちまうんじゃないかねえ」
仏像が悲しげな声で言ったあと、急に明るい声をだした。
「でも、あきらめるんじゃないよ! あんたが、外側に負けなきゃいいだけだからね。私はね、外側にすいこまれないよう、私をわすれないよう、仏像に宿った時の気持ちを思いだすようにしてるのさ」
「…はあ」
「そうさ。私はね、この仏像に、強く願って宿ったんだよ。そうはいっても、仏像になりたかったわけじゃない。私が私のまま、宿りたかったんだ。だから、私が消えちまわないように、気をつけてるのさ」
「…はあ?」
「いきなり、こんなこと言っても、わかりゃあしないか…。じゃあ、まずは、私がこの仏像に宿るまでのことを話すよ。あんたも何か、思い出すかもしれないしね」
「あの…、ここは?」
「寺だよ」
「てら?」
「そうさ、人間が拝みにくるところさ」
「へえ…、でも…、なんで、ここに?」
「何日か前、檀家の骨董屋が、あんたをここへ連れてきたんだよ」
「こっとうや?」
「あんた、古そうなのに、なーんも知らないねえ。寝起きだからかねえ」
「…はあ」
「まあ、いいさ。私が、これから、どんどん教えてあげるよ。私は、おしゃべりが大好きだからねえ」
「…はあ」
「骨董屋とはね、ふるいもんを売り買いしている人間のことさ」
「…へえ」
「その骨董屋がね、店を閉めることにしたんだけど、ぼろぼろの仏像のあんたが売れ残ったそうだ。古い時代の値打ちもんだと思って、大金で買ったが、見当違いだったって嘆いてたよ。思えば、骨董屋へ売りに来た背の高い男も、目つきが悪く怪しかったんだって。捨てるにも、仏像だけに後味がわるいからって。それを聞いた、この寺のお坊さんが、気の毒がって、あんたを買い取ったのさ。あっ、ぼろぼろって言うのは聞いたまんまだから、私が言ったんじゃないよ。気を悪くしないでおくれね」
一気にたくさんの言葉が流れ込んできた。
「…はあ」
「ちょっと、あんた! 大丈夫かい?!」
「…なんだか、よく、わからなくて…」
「もしかして…、自分がだれなのかも、わからないのかい?」
笑った顔のまま、仏像は心配そうな声で聞いてきた。
「…はい」
「そうかい…。ながく眠りすぎて、外側の仏像にひっぱられてるんだねえ。あんたも、私と同じで、もとから仏像ってわけじゃないだろうから」
「…はあ? ひっぱられる?」
「そうだよ。外側にひっぱられると、ぼんやりして、なーんも考えられないようになるんだ」
「…はあ」
「まあ、わからなくてもいいから、聞いておいで。なにか思い出すかもしれないだろ。私でも、ぼんやりしていると、ふっと、外側の仏像にもっていかれそうになるからねえ。外側と内側が違うと、どうしても強いほうにひっぱられるんだよ。あんたほど、古い仏像に入ってると、外側の我も相当強そうだ。まあまあ、一緒にいましょうや、ってわけにはいかないだろうしね」
「…このままだと、どうなるんでしょう?」
「そうだねえ。あんたが消えちまうんじゃないかねえ」
仏像が悲しげな声で言ったあと、急に明るい声をだした。
「でも、あきらめるんじゃないよ! あんたが、外側に負けなきゃいいだけだからね。私はね、外側にすいこまれないよう、私をわすれないよう、仏像に宿った時の気持ちを思いだすようにしてるのさ」
「…はあ」
「そうさ。私はね、この仏像に、強く願って宿ったんだよ。そうはいっても、仏像になりたかったわけじゃない。私が私のまま、宿りたかったんだ。だから、私が消えちまわないように、気をつけてるのさ」
「…はあ?」
「いきなり、こんなこと言っても、わかりゃあしないか…。じゃあ、まずは、私がこの仏像に宿るまでのことを話すよ。あんたも何か、思い出すかもしれないしね」
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