(完結) わたし

水無月あん

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こっちだ

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「また、雨か!」

落ちてきた雨粒をにらみつけ、重い足をひきずりながら、俺は、今日の寝床をさがす。

数日間続いた大雨で、俺の巣穴は流され、山も崩れた。
危機一髪のところで逃げだし、がむしゃらに走り続け、知らない山へとたどりついた。
が、食べてもいない、眠ってもいない体は、もうほとんど動かない。

本当に、山で生きることは苦しいことばかりだ。
敵に襲われることも、飢えることも、すぐに死につながる。

だが、なにより、やっかいなのは天だ。
天からは絶対に逃れることができない。

子どものころ、嵐がきて、俺だけが生き残った。
その時からずっと、天には、暑さに、寒さに、雨に、風に……と、ことあるごとに苦しめられてきた。

そして、今もだ。
住み慣れた山を追い出されたのに、どこへ行こうが天はついてくる。

生きながらえるより、いっそ、流されたほうが楽だったかもな……。

そんな考えがよぎった時、一本の木が目に入った。

「雨よけの木か! まさか、ここで出会えるとはな! 俺の運も少しは残ってたじゃねえか……」

一年中、丈夫な葉がおいしげり、強烈に雨をはじいてくれるこの木。
めったに出会うことがないほど珍しい木だ。

俺は、最後の力をふりしぼって、木の下に走りこんだ。

やっと、休める……。

と、安心したのもつかの間、一気に雨の勢いが増した。

雨よけの葉が、がんばって雨をはね返してくれてはいるが、雨音がすごい。
巣穴が流されたときの音を思い出し、体がふるえる。

さすがに、雨よけでも、もたねえか……。

そう思った瞬間、俺の上に、どさっと雨が落ちてきた。
体はずぶぬれ。芯から冷えてくる。

緊張の糸がぶちっときれ、俺は腹の底から無茶苦茶に叫んだ。

「あああ、もう、なんなんだっ! 勘弁してくれよっ! 俺をなんでこんなに苦しめる?! 俺は、雨にあたらず、ゆっくり眠れる場所さえあれば、他にはなんもいらねえのに!」

その時だ。

「狐よ。その願いを叶えてやろう」

いきなり、頭の中に、声が響いた。

「うわああ! だっ……、だれだっ!」

俺は叫びながら、あわてて、まわりを見回す。
が、俺のまわりは滝のような雨、雨、雨。

何も見えない。

「うしろを見よ」

またもや、頭の中に、声が響いた。

はじかれるようにふりむいた。
が、やはり、雨で何も見えない。

でも、本能が何かがいると知らせてくる。
全身の毛が逆立ち、思わず、あとずさった。

その時、雨の音が、ふと小さくなった。
その間をぬうように、声が俺をむかえにきた。

「おそれずとも良い。こっちへ来るのだ、狐よ」

俺の頭に優しく響く声に、俺の体は、ふるえがとまらない。

「狐よ。大丈夫だ。ほら、早く、こっちへ来い。こっちへ来るのだ……」

体の毛は逆立ったままなのに、足が勝手に動きだす。

やめろ! 危険だ! 行くな! 
本能が叫ぶ。

なのに、動けないほど疲れきっているはずの足がとまらない。

気がつくと、俺は猛烈な雨にうたれながら、ひたすら歩いていた。
声のもとへ、ひっぱられていくように……。
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