Sports Hitman

糸魚川叉梨有

文字の大きさ
上 下
8 / 9

殺し屋特捜部③

しおりを挟む
「特捜総会を始める一同、礼」
全員が礼をするが俺はしない。なんか皆が礼をして、元の姿勢に帰ってくるのが優越感があって気持ちいいのだ。
「欠席者はいるか」
二本の手が挙がる。その二人はそれぞれ、本日の欠席者を伝える。
「欠席者二名。承った!」
野太い声で叫んでいるのはガム・スマート準大将だ。
経歴二十年の大ベテランで元々戦闘能力にはそれほど長けていなかったが、地道な訓練と筋トレにより自分の拳だけで上から二番目の準大将まで上り詰めた人だ。特捜の中には、憧れる人もいるが、呑みなどに連れていかれると変な論理を展開されるため、嫌いな人の方が多い。ちなみに自分は嫌いだ。
スマート準大将が叫んでいるのを聞いて耳障りだと思いながらボンヤリしていると前から何やら変な駆け引きが聞こえてきた。
ジャスさんとダルウィン準大将だ。
「おいジャス。言え。早く。」
「え?いや、そこはウチの長が言うべきですよ。」
「その長が命令中だぞ。」
「パシリでもなんでもやりますから今日は勘弁して下さいよ!」
と何かを言いたいようだ。ダルウィン準大将は顔色は変えなかったが、少々焦りが見えた気がした。
「そこ。何。」
スマート準大将の隣からまた通りのいい女性の声が聞こえる。剣のように鋭い声だ。
彼女はイブキ・カイヅカ準大将で、日本生まれ日本育ちだそうで、ここに来るために懸命に勉強したんだとか。その勉学だけでここまで来ている。そして、何とダルウィン準大将の彼女だというウワサも多い。なんてインテリカップルなんだと感心してしまう。
「い、いや………何でも……。」
ダルウィン準大将は完全に潰されてしまい、小さな声で答えた。
「ふん。そう。」
と答え、席に着く。本当にカップル何だろうか………
「続けてください。」
そうカイヅカ準大将が言うと、全員がその通りに動く。
「よしでは、ソープ準大将。よろしく。」
「は。」
そう答えたのはソープ・ジャケット準大将。
超真面目でものすごく仕事が出来ると有名な人だ。しかし、怒らせたら人ではなくなるという噂も多く、恐れられている。
「では、全体調査の報告を御願いします。」
と、会議の指揮を取っていく。
数秒経って、ジャスさんが手を挙げる。
「ゴーランド・ジャス特将。」
ソープ準大将に名指しされたジャスさんは重だるそうな体を持ち上げ、立つ。そして報告を始めた。
「はい。昨夜未明、パトロール中に"A6"と対峙しました。被害は数名に抑えることができています。」
ソープ準大将は「うむ」と言ってそれを承ったが、ジャスさんの傷んだ腕を見ようとしていないことがよく分かった。それに関しては、自分も同感であった。
戦闘による殉職者数名を黙祷により祈願した後、ソープ準大将が毛色を変えて話し始めた。
「この度は、皆さんに、確認したいことがあります。この質問に承諾できない者はここから立ち去る事を推奨します。」
彼は一つため息を着く。目を閉じ、また開ける。
「この中に、死にたくない人はいますか?」
彼が尋ねた途端、それの魂胆が目に浮かび上がった。
これから大きな争いが始まるのだから、死にたくない奴は戦闘中に雑念が入ってしまう。だから士気をあげるべくこの質問をしているのだと、全員が察した。
前のソープ準大将含めた三人は、何もミーティングーせずこの発言をしたようで、カイヅカ準大将が少しオドオドしている様子が目に入る。
全員が魂胆を見据えてしまったせいで、本当は絶対に死にたくなくても、こんなしんとした雰囲気に勝って出ていこうとするものは誰もいなかった。少なくとも、自分は死にたくない。
誰もが沈黙の中、約十秒程度が流れて行った。
耐えられなさそうな職員も出てきそうな中で、ガチャ、と扉が唐突に開いた。
「オレはぁ死にとうないなあ」
コテコテの関西弁を最初の言葉に現れたのは本当に顔も見た事のない、俺と同じ年齢くらいの男だった。制定スーツは着てはいるが、シワが寄って集っており、そこら中に砂のようなシミが着いている。おでこ周りに巻くはずのスポーツバンドが首にかけられて、髪は若干紺色に染めてあり、前髪は鼻がしっかりと隠れるほどだった。目は…辛うじて片目だけ見える。
全員からの視線を浴びせられていたが、何も分からないというふうにとぼけた顔をしている。
「誰?」
カイヅカ準大将が言う。こういう人物はカイヅカ準大将のしっかりとしたターゲットとなる。
「あ、名前っすか?」
彼は何も臆することなく答えている。聞いているこっちが鋭い彼女の口調に倒れそうなのに……
「あなたの特捜での情報。全て教えなさい。あと、今日は重要な会議よ。なぜ遅れてきたのかも。」
本人は分かっていないがカイヅカ準大将の怒りゲージは着々と上がっている。もう刺激はやめておいた方がいい。
「あの、この方は、その……会社でよくいる"ウザイ上司"枠の方ですか?」
バカヤロー!
途端に辺りがザワつく。ほとんどはヤバいヤバい、と焦りを隠しきれない様子だ。
「は?」
カイヅカ準大将の怒りゲージはMAXへと達した。そして両手全指をバキバキと鳴らし、左右伸びをしてから、そいつの胸ぐらを掴む。少し持ち上げて
「常識から外れた阿呆を調教してあげるのが、アタシの務め。そのためならウザくなったって構わないわ。」
素直に持ち上げられている彼は「ごめんなさい」と一つ謝罪したが、その念は一切感じとれない。
「フフ、全然反省していないようね。あの世へ送ってあげるわ。」
彼女は腰に据えたアイスピックを取り出す。
スマート準大将が叫ぶ。
「ダメです!カイヅカ準大将!」
彼女を取り抑えようと進み出るが、彼女は容赦なく首筋にピックを突きつける。
「スマート準大将!私はね、こんな事する奴が大っ嫌いなの。人間は上下関係をしっかりと守るべきよ!一歩でも進めば殺すわ!」
スマート準大将も為す術なしというように、その場に止まってしまった。
「いや、進まなくても殺す!」
少し反動をつけて首筋に突き刺し━━━
「活動停止。」
俺の目の前に座るダルウィン準大将がパチッとPCのenterを押す音が聞こえた。
それと一緒にカイヅカ準大将は中身の無い着ぐるみのようにその場にバタリと倒れる。
また周りが騒がしくなる。カイヅカ準大将の正体が何か。あの男は誰か。何が起こったのか。
ザワザワと騒ぐ中、一人の男が唐突に自己紹介を始めた。
「どもども!今日から特捜部にお世話になります!と申します!よろしく!」
雰囲気は、ただの不潔な男だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【鬼シリーズ:第一弾】鬼のパンツ

河原由虎
ファンタジー
自分のパンツに誇りを持っている赤鬼。 突然飛ばされた未来で衝撃の事実を知る。 節分のお題で思いつき書きましたー! 表紙はミドリさんのステキな鬼さんをお借りしています(^^)! きゃーかっこいぃー! リアルタイム執筆更新で2/1から書き始め、2/4の0時0分に完結! 【鬼シリーズ】 2022年 『鬼のパンツ』 2023年 『青鬼のパンツ』 2024年 ※この作品は、なろうにも掲載されます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...