Sports Hitman

糸魚川叉梨有

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SportsHitman③

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「銃を使う奴に強いのは居ない」
アニキの遺言だ。「俺から最後にアドバイスだ」とか最後まで上から目線で死んでいきやがった。
パスカル家。
俺の家は特に裕福なんてことも無く、かと言って貧困に悩まされるほど貧しくもない、普通の家庭で生まれ育った。強いて言うなら世間一般よりも少し田舎臭いくらいだ。どちらにしろ、『お尋ね者』という感じでは一切ない。
母の職業はスーパーでレジのパート。父の職業は警察官。
あまり詳しくは教えて貰えなかったが、そこそこ給料も貰えていて「警察官」の仕事も大変ではあるが命の危険はない業務を担当しているようで、とても平和な家庭だった。
ただ、普通に暮らしていた。ただ、朝起きて、飯食って、学校行って、帰ってきてゲームして………
平和だった。あの日々。
それは、一瞬にして崩れ落ちた。
まるで、ダルマ落としを上から押し潰すように、根本的に崩れた。
まず、父親が当時世の中に混沌を巻き起こしていた殺し屋を排除する「殺し屋特捜部」の初代部長に就任。特捜部の部長は他の部長よりもワンランク階級が高く、特捜部の中でも一番の階級の為、実質警官の中で署長に次ぐ二番目に偉い人となった。。流石にこれに関しては子供であるアニキと俺も驚いた。自分らはまだ子供だったから大人の社会のことはほとんど分からなかったが、そんな普通の社員が企業のトップまで上り詰める、そんな下克上話は聞いたことがない。あったとしても昇進階級が桁外れすぎる。
二人で母に調べるよう訴えたが、母は
「お父さんが頑張ってたからよ。応援しましょう。」
そう言いながら俺らの頭撫でるだけだった。
その目頭が、今にも破裂しそうな、母が蘇ってくる。
「良し、準備運動終了。」
我に戻った俺は、過去の感傷から現実に目を向ける。
目の前には顔が凸凹になり、そこから血が滴り落ちる五人の屍が積まれていた。
俺は舌打ちをしながら
「もう終わりかよ。」
と言って、その屍の一人のリーダー的なヤツに近づき、それの首にかかっている"生徒証"に目を通す。
C76。
「これで"C"かよ」
殺し屋の世界にはAからZまでの階級がある。Aが一番強くてそこからだんだん弱くなり、Zが一番弱い。いや、普通の人間の基礎体力は殺し屋のレートで言う、Zだと誰かが言っていた気がする。
そしてその中でもA1からA99、B1からB99……のようにそれがZまで続く。要するにA1が一番強く、Z99が一番弱い。
C76という事はコイツは276番目に強い。大戦では約1000人の殺し屋が動員されるので十分な戦力として扱われるが……
「これじゃ、特捜部にも負けるな……」
少し諦めてしまう。
もしかすると、殺し屋崩壊の時代も近いのかもしれない。殺し屋の素質があるヤツらが特捜部にスカウトされて殺し屋虐殺を生業にするヤツも増えてきている。
中には、寝返るヤツもいる………
いや、ここは過去形にしておこう。
幸いこの時間に通行人が一人もいなかったため、通報だけはされなかったが、あまり積極的に動くのは良くない。
反省してアジトに帰ろうとする。多分ダスターは大丈夫だ。アイツが庇っていた『チビ』も気を失っているだけなはずだし、後はダスターに任せよう。
俺は足早に引き返すために歩を進ませるが、一つ気になったことがあった。
「ダスターが庇ったって事は結構凄いやつなんじゃねぇのか?顔もアイツのタイプとは違うし、カッコイイ容姿でもないし……」
ペラっ
隠れるように都合よくひっくり返っている生徒証を容赦なく繰り返す。
その瞬間、笑いが止まらなくなる。
俺はその後も大きな声で笑い、時に収まり、思い出し笑いしながら、家路に着いた。
一言、俺は言う。これも大笑いしながら。
「ガキは家に返してこい」

"Z94"
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