上 下
47 / 78
8.面会 ※セラの姉視点

しおりを挟む
***

 王宮に着くと、テーブルとソファがあるだけの小さな部屋に通された。

 これはあくまで個人的な面会らしい。

 部屋にはエリオット様と、臣下らしき眼鏡の青年、それから数人の護衛しかいない。


 お父様と私は、殿下に勧められてソファに腰かけた。

 至近距離で見るエリオット様は、いつにも増して美しかった。

 金色の髪に青い目。金の刺繍の入った赤いコートがよく似合っている。

 パーティー会場で遠目に見るエリオット様よりも、断然素敵だ。

 エリオット様はこちらをじっと見た後で口を開く。


「シャノン公爵、よく来てくれた。……そちらは、デイジー嬢か?」

 エリオット様は、若干戸惑った顔で尋ねてきた。

 私はとびきりの笑顔を作ってうなずいた。

「はい、デイジー・シャノンと申します! 殿下に名前を覚えていただけたなんて嬉しいですわ」

「あ、ああ。あなたにまで足を運ばせてしまい申し訳ない」

 精一杯愛らしい笑みを作ったのに、殿下はさらに困惑した顔になってしまった。

 納得のいかない気持ちになりながらも、エリオット様とお父様の話を聞く。


「シャノン公爵、公爵家の令嬢を預かっておきながら行方不明にしたこと、申し訳なかった。謝罪させて欲しい」

 殿下は悲痛な顔でそう言って頭を下げる。

 エリオット様はなぜか私たちシャノン家の人間を嫌っているようで、夜会で会ってもいつもいまいましそうな顔を向けるだけだった。

 そんなエリオット様が今日は深刻な顔で謝罪している。


 お父様はエリオット様に向かってにこやかに言葉を返した。

「頭をお上げください、エリオット殿下。王子殿下が気安く頭を下げるものではありません。娘の方こそ、勝手な真似をして大変なご迷惑をおかけしたようで申し訳ありませんでした」

 お父様は、つい先日娘が行方不明になった父親とは思えないほど落ち着き払った声で言う。

 エリオット様に気を遣っているわけではないことを私はよく知っている。

 お父様はセラフィーナがいなくなろうがどこかで死のうがどうでもいいだけなのだ。

 どうしてわかるのかと言ったら、私も同じ気持ちだから。


「いや、七年前に公爵家から無理矢理連れ出しておいて、セラフィーナを行方知れずにしたのはこちらの落ち度だ。本当に申し訳なかった。必ず見つけ出すと約束する」

「いいえ、殿下。殿下に謝罪を受けるようなことではありません。セラフィーナが自分で決めたことなのですから、そういう運命だったのでしょう」

 お父様はにこやかにそう告げる。

 エリオット様の顔が、若干引きつるのがわかった。


 お父様、ここは娘を亡くしたばかりの父親として、演技でも神妙な顔をしておいたほうがよかったんじゃないかしら。

 声に出すわけにはいかないので、心の内でだけ窘める。

 あ、でもそういえばさっきは私も妹を亡くしたばかりの姉なのに、とびきりの笑顔で挨拶してしまったわ。

 だからさっきはエリオット様に微妙な顔をされたのかと納得する。

 次は注意しようとひそかに決意した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

信用してほしければそれ相応の態度を取ってください

haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。 「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」 「ではその事情をお聞かせください」 「それは……ちょっと言えないんだ」 信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。 二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。

そういうとこだぞ

あとさん♪
恋愛
「そういえば、なぜオフィーリアが出迎えない? オフィーリアはどうした?」  ウィリアムが宮廷で宰相たちと激論を交わし、心身ともに疲れ果ててシャーウッド公爵家に帰ったとき。  いつもなら出迎えるはずの妻がいない。 「公爵閣下。奥さまはご不在です。ここ一週間ほど」 「――は?」  ウィリアムは元老院議員だ。彼が王宮で忙しく働いている間、公爵家を守るのは公爵夫人たるオフィーリアの役目である。主人のウィリアムに断りもなく出かけるとはいかがなものか。それも、息子を連れてなど……。 これは、どこにでもいる普通の貴族夫婦のお話。 彼らの選んだ未来。 ※設定はゆるんゆるん。 ※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。 ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...