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6.シスター見習い
③
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「着いたぞ」
廊下をしばらく進んだ先の古びた扉の前で、テレンスは足を止めた。
テレンスが扉を開けたので中を覗き込むと、そこには三人の女の子がいた。みんな黒いシスター服を着て、髪を大雑把にひっつめている。どの子もなぜか表情は怯えていた。
「ここにいるのは、身寄りがないから神殿で世話をしてやっている子供たちだ。見習いの仕事はこいつらから教えてもらえ」
「え、ちょっと……」
「私は忙しいんだ。もう戻る。まったく、どうして私がこんなガキの世話を……」
テレンスはぶつぶつ言いながら出て行ってしまった。
私はぽかんとしたまま部屋に取り残される。
「あの……、あなたは? あなたも行き場所がなくて神殿に来たの?」
少女たちの内一人が、おそるおそるといった様子で近づいてきた。焦げ茶の髪を三つ編みにした女の子だ。グレース時代に見たことがあるような気もするし、ないような気もする。
「私はシャーロット・エヴァンズ。行き場所がないわけじゃないわ。シスターになりたくてお試しで来たの」
「えっ、そうなの? じゃあ、帰れる家があるのね」
私の答えに女の子は驚いた顔をして、それから少し寂しげな表情になった。ほかの二人の女の子もそっと近づいてくる。
「帰れる家があるなら帰ったほうがいいわよ。ここは全然いいところじゃないもの」
「そうそう。私達はほかに行き場がないからここにいるけど、いつもつらいもの」
女の子たちは悲しげな顔で言う。
「あなたたち、そんな大変な暮らしをしているの?」
「大変よ! 神殿中のお掃除に、大量の制服の洗濯、凄まじい量のお皿洗い、全てここにいる私たち三人とほか数人でやらなきゃならないの。日が昇る前から起きて、真夜中になるまで働いてようやく終えられるのよ」
「少しでも遅れたら神官様はひどく怒るの。鞭で打たれることもあるんだから」
「大人の雑用係たちは大変な仕事はみんな私達に押し付けるから、余計時間がないのよ」
彼女たちは口々に言った。
どうやら彼女たちは名ばかりのシスターで、神殿の雑用を押し付けるためにここへ置かれているらしい。おそらく、彼女たちが身寄りもなく何の後ろ盾もないからこんな扱いなのだろう。
神殿には幼い頃からシスター見習いとしてやってくる良家の少女も多くいるけれど、彼女たちの扱いはそんなにひどくなかったはずだ。
そうか、テレンスは身寄りのない子供にはこんな扱いをしていたのかと、再び驚かされる。
廊下をしばらく進んだ先の古びた扉の前で、テレンスは足を止めた。
テレンスが扉を開けたので中を覗き込むと、そこには三人の女の子がいた。みんな黒いシスター服を着て、髪を大雑把にひっつめている。どの子もなぜか表情は怯えていた。
「ここにいるのは、身寄りがないから神殿で世話をしてやっている子供たちだ。見習いの仕事はこいつらから教えてもらえ」
「え、ちょっと……」
「私は忙しいんだ。もう戻る。まったく、どうして私がこんなガキの世話を……」
テレンスはぶつぶつ言いながら出て行ってしまった。
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「えっ、そうなの? じゃあ、帰れる家があるのね」
私の答えに女の子は驚いた顔をして、それから少し寂しげな表情になった。ほかの二人の女の子もそっと近づいてくる。
「帰れる家があるなら帰ったほうがいいわよ。ここは全然いいところじゃないもの」
「そうそう。私達はほかに行き場がないからここにいるけど、いつもつらいもの」
女の子たちは悲しげな顔で言う。
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「少しでも遅れたら神官様はひどく怒るの。鞭で打たれることもあるんだから」
「大人の雑用係たちは大変な仕事はみんな私達に押し付けるから、余計時間がないのよ」
彼女たちは口々に言った。
どうやら彼女たちは名ばかりのシスターで、神殿の雑用を押し付けるためにここへ置かれているらしい。おそらく、彼女たちが身寄りもなく何の後ろ盾もないからこんな扱いなのだろう。
神殿には幼い頃からシスター見習いとしてやってくる良家の少女も多くいるけれど、彼女たちの扱いはそんなにひどくなかったはずだ。
そうか、テレンスは身寄りのない子供にはこんな扱いをしていたのかと、再び驚かされる。
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