稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭

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3.魔法大会

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「なんだ、諦めたのか? 君のしょぼい魔法なんて届くわけ……」

「えいっ!」

 私が杖を振ると、途端に地面から大量の木が生えてきた。木の枝は触手のようにうねうねうねり、黒髪眼鏡の足を伝って体を締め上げる。

「うわっ! なんだよこれ!?」

 ずっと冷静な顔をしていた黒髪眼鏡は、突然現れた大量の木に目を剥いている。彼の体からぱちんとバリアが弾けるのが見えた。

 まずはダメージ1だ。

「あと二回ね!」

「ちょ……っ、おい! 何する気だ!?」

 私は木の枝に拘束されたままの黒髪眼鏡に、再び杖を向ける。それから今度はドラゴンが火を噴くくらいの威力で炎魔法を放ってみた。

「ぎゃああ!! やめろ!! お前、魔法が使えないんじゃなかったのか!?」

 黒髪眼鏡の周りのバリアがまた一つ弾ける。あと一回だ。

「次は何の魔法にしようかな」

「お、おまえ……」

「やっぱり水魔法かなっ」

 私はそう言ってまた杖を構える。それから全力で、まるで洪水みたいな水魔法を放ってみた。

 観客のほうには被害が出ないように気をつけながら大量の水を操り、黒髪眼鏡に向かって当てる。

 目の前をまるで蛇みたいにうねる水は、我が魔法ながら大変美しかった。

 黒髪眼鏡の最後のバリアが弾ける音がする。


「…………し、勝者、シャーロット・エヴァンズ」

 すっかり静まり返ってしまった会場で、しばらくの沈黙の後、審判が動揺しきった声で言った。

 会場にいる者たちは、誰も言葉を発しない。

 杖を下ろすと、地面を覆っていた木々はぱっと姿を消した。

 そっと倒れている黒髪眼鏡のほうに近づく。彼はぴくぴく痙攣しながら気を失ってしまっている。

 子供相手に大人げなかったかしら。ぐったりしている黒髪眼鏡を前に、ちょっとだけ反省をする。

 私は気を取り直して顔を上げ、観客席にいるヴィンセントのほうに顔を向ける。


「ヴィンセント様―! シャーリーはやりました!」

「シャーリー……!」

 呆然とこちらを見ていたヴィンセントは、私が大きく手を振ると、目をぱちくりする。

 彼はしばらく口をぱくぱくしたまま動かなかったが、はっとしたように席を立つと、一目散に舞台まで駆けてきて私を抱き上げた。
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