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第一部
7.糾弾②
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「フィオナ、落ち着いてくれ。こんな場所で大騒ぎするなんて君らしくもない……」
「とても落ち着いてなんていられません! その方は……私の母の形見を壊したんです!!」
フィオナはリディアをきっと睨みつけると、はっきりした声で言った。先程からフィオナに向いていた視線は、その一言で一気にリディアに集中する。
リディアは呆気に取られたようにフィオナを見ていた。
フィオナは呆然としているリディアを睨みつけたまま、ポケットからキラキラ光る紫色の飾りのようなものを取り出した。
蝶を模した髪飾りだろうか。美しい髪飾りだが、無残にも真ん中で二つに割れてしまっている。
「これを私が壊したと……?」
リディアは困惑顔のまま、フィオナに近づいて尋ねた。フィオナは、信じがたいものをみるような目でリディアを見る。それから軽蔑を隠さずに言った。
「とぼけるおつもりですか? 昨日、確かに私の髪を引っ張ってこの髪飾りを取り上げて、それにだけは手を出さないでくださいと何度も言っても聞き入れてくれず、踏みつけたではありませんか。……母が、私のために無理をして買ってくれたものだったのに」
フィオナはそう言った途端、さっきまでの勇ましい表情から一転して弱々しくすすり泣き始めた。肩を振るわせて泣く姿に言葉が出なくなる。
誰もが気づかわしげに彼女を見ていた。
「私は、リディア様が疑っているようにアデル様に近づこうなんて身の程知らずのことを考えていたわけではありません。……憧れがあったのは否定できませんが……。けれど、リディア様がご不快に思われるようなら、一切近づかないようにしようと思っていました」
フィオナは涙声で途切れ途切れに、しかしはっきりと確かな口調で言う。
「けれど、リディア様はそう告げてもまったく信じてくれませんでしたね。いえ、悪口を浴びせられるくらいならいいのです。あなたを不快にさせてしまったのだから。けれど、形見を壊されたことだけは許せないんです……!」
フィオナが涙に濡れた目でリディアを睨みながら言った。食堂はしんと静まり返り、誰も言葉を発さない。皆、リディアが何と答えるのか、息を呑んで見守っていた。
リディアのほうに顔を向けると、眉根を寄せ、青白い顔でフィオナを見ている。
「とても落ち着いてなんていられません! その方は……私の母の形見を壊したんです!!」
フィオナはリディアをきっと睨みつけると、はっきりした声で言った。先程からフィオナに向いていた視線は、その一言で一気にリディアに集中する。
リディアは呆気に取られたようにフィオナを見ていた。
フィオナは呆然としているリディアを睨みつけたまま、ポケットからキラキラ光る紫色の飾りのようなものを取り出した。
蝶を模した髪飾りだろうか。美しい髪飾りだが、無残にも真ん中で二つに割れてしまっている。
「これを私が壊したと……?」
リディアは困惑顔のまま、フィオナに近づいて尋ねた。フィオナは、信じがたいものをみるような目でリディアを見る。それから軽蔑を隠さずに言った。
「とぼけるおつもりですか? 昨日、確かに私の髪を引っ張ってこの髪飾りを取り上げて、それにだけは手を出さないでくださいと何度も言っても聞き入れてくれず、踏みつけたではありませんか。……母が、私のために無理をして買ってくれたものだったのに」
フィオナはそう言った途端、さっきまでの勇ましい表情から一転して弱々しくすすり泣き始めた。肩を振るわせて泣く姿に言葉が出なくなる。
誰もが気づかわしげに彼女を見ていた。
「私は、リディア様が疑っているようにアデル様に近づこうなんて身の程知らずのことを考えていたわけではありません。……憧れがあったのは否定できませんが……。けれど、リディア様がご不快に思われるようなら、一切近づかないようにしようと思っていました」
フィオナは涙声で途切れ途切れに、しかしはっきりと確かな口調で言う。
「けれど、リディア様はそう告げてもまったく信じてくれませんでしたね。いえ、悪口を浴びせられるくらいならいいのです。あなたを不快にさせてしまったのだから。けれど、形見を壊されたことだけは許せないんです……!」
フィオナが涙に濡れた目でリディアを睨みながら言った。食堂はしんと静まり返り、誰も言葉を発さない。皆、リディアが何と答えるのか、息を呑んで見守っていた。
リディアのほうに顔を向けると、眉根を寄せ、青白い顔でフィオナを見ている。
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