7 / 58
第一部
3.提案③
しおりを挟む
「私から言いたいことはこれで全部です。アデル様、お忙しい中足を運んでくださりありがとうございました」
「いや……」
「それとアデル様。婚約解消が正式に決まるまでは、今まで通りでいましょう。周りの方にいろいろと詮索されるのも不都合ですから……」
「婚約解消が前提のように言うんだな」
「私、よく考えてから提案したつもりです。アデル様はおそらくこの提案を受け入れるだろうと……。そうでなかったらこんな話切り出しませんわ」
リディアは声に寂しげな色を滲ませて言う。
「アデル様、一週間後に答えを出すまではどうか今まで通りにしてください。婚約解消の話題も避けていただけたらありがたいです。せめて婚約者でいられる最後の一週間は思い煩うことなく過ごしたいんです」
「だから、リディア、最後などと」
「約束してくださいますね?」
リディアににっこり微笑んで、釘を刺すように言われた。思わずこくりとうなずいてしまう。態度は柔らかいと言うのに、やけに威圧感がある。
「ごきげんよう、アデルバート様」
リディアはそう言ってスカートの裾を持ち上げながら頭を下げると、控えていたメイドを連れて去って行った。
私はというと、頭がぼんやりとしてしまいなかなかその場を立ち去ることができない。
私はなぜ婚約解消してもいいと言われ、すぐさま否定したのだろう。
クロフォード家の令嬢との婚約を斥けることは容易ではないとはいえ、常々リディアが婚約者であることにうんざりしていたのだから、少しくらい迷ってもよかったはずなのに。
実際に婚約解消を提案されてみると、それを望む気持ちは不思議なほど起こらなかった。
ぼんやりとする頭でリディアと初めて会った日のことを思い出す。
ある晴れた秋の日のこと。部屋で家庭教師と勉強していると、父上に呼びだされた。
『アデル。今日は婚約者になる予定の子と顔合わせをしてもらう。我が国の魔法防衛省を支えるクロフォード家のご令嬢だ。嫌われないように気をつけろよ』
父上は愉快そうに笑いながらそう言った。突然の言葉に戸惑うことしかできない。
少し緊張しながら執事に連れられて庭まで出ると、そこには同じように固い表情でこちらを見る少女がいた。
綺麗な金色の長い髪に、薔薇色の頬。人形のように綺麗な子だった。冷たく見えるほど整った顔の中で、目だけはきらきらと草原を写しとったかのように輝いて、温かみを感じる。
彼女を一目見た途端、さっきまでの緊張はどこかへいってしまった。気が付くと、私は駆け寄ってその女の子に話しかけていた。
草原のようできれいな目だと褒めると、彼女はとても嬉しそうに顔を綻ばせて笑った。
そうだ、あれが私の初恋だった。今ではリディアに恋していた過去なんて、消し去ってしまいたいとしか思えないけれど。
「いや……」
「それとアデル様。婚約解消が正式に決まるまでは、今まで通りでいましょう。周りの方にいろいろと詮索されるのも不都合ですから……」
「婚約解消が前提のように言うんだな」
「私、よく考えてから提案したつもりです。アデル様はおそらくこの提案を受け入れるだろうと……。そうでなかったらこんな話切り出しませんわ」
リディアは声に寂しげな色を滲ませて言う。
「アデル様、一週間後に答えを出すまではどうか今まで通りにしてください。婚約解消の話題も避けていただけたらありがたいです。せめて婚約者でいられる最後の一週間は思い煩うことなく過ごしたいんです」
「だから、リディア、最後などと」
「約束してくださいますね?」
リディアににっこり微笑んで、釘を刺すように言われた。思わずこくりとうなずいてしまう。態度は柔らかいと言うのに、やけに威圧感がある。
「ごきげんよう、アデルバート様」
リディアはそう言ってスカートの裾を持ち上げながら頭を下げると、控えていたメイドを連れて去って行った。
私はというと、頭がぼんやりとしてしまいなかなかその場を立ち去ることができない。
私はなぜ婚約解消してもいいと言われ、すぐさま否定したのだろう。
クロフォード家の令嬢との婚約を斥けることは容易ではないとはいえ、常々リディアが婚約者であることにうんざりしていたのだから、少しくらい迷ってもよかったはずなのに。
実際に婚約解消を提案されてみると、それを望む気持ちは不思議なほど起こらなかった。
ぼんやりとする頭でリディアと初めて会った日のことを思い出す。
ある晴れた秋の日のこと。部屋で家庭教師と勉強していると、父上に呼びだされた。
『アデル。今日は婚約者になる予定の子と顔合わせをしてもらう。我が国の魔法防衛省を支えるクロフォード家のご令嬢だ。嫌われないように気をつけろよ』
父上は愉快そうに笑いながらそう言った。突然の言葉に戸惑うことしかできない。
少し緊張しながら執事に連れられて庭まで出ると、そこには同じように固い表情でこちらを見る少女がいた。
綺麗な金色の長い髪に、薔薇色の頬。人形のように綺麗な子だった。冷たく見えるほど整った顔の中で、目だけはきらきらと草原を写しとったかのように輝いて、温かみを感じる。
彼女を一目見た途端、さっきまでの緊張はどこかへいってしまった。気が付くと、私は駆け寄ってその女の子に話しかけていた。
草原のようできれいな目だと褒めると、彼女はとても嬉しそうに顔を綻ばせて笑った。
そうだ、あれが私の初恋だった。今ではリディアに恋していた過去なんて、消し去ってしまいたいとしか思えないけれど。
70
お気に入りに追加
2,860
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる