噂好きのローレッタ

水谷繭

文字の大きさ
上 下
44 / 58
第二部

20.王宮

しおりを挟む

「リディア! 大丈夫だったか? 随分痩せてしまって……」

「アデル様……」

「城に来たからにはもう安心していい。誰にも君に手出しはさせない」

 城につくと、真っ先にアデル様が出迎えてくれた。アデル様は目に涙を浮かべ、私の手を両手でぎゅっと握りしめる。

 クロフォード家の地下牢からローレッタによって連れ出された私は、外で待機していた小さな馬車に乗せられた。それからすぐさま王宮まで運ばれ、アデル様の私室に通されたのだ。

 まだ状況がよく呑み込めていない私に、アデル様が説明してくれる。

「そこにいる君のメイドが全て教えてくれたよ。君はずっとクロフォード家の地下で搾取され続けてきたそうだな。つらかっただろう。もう何も心配しなくていい」

「アデル様、私は」

「君への数々の非礼も詫びたい。君は双子だと聞いた。私は君の双子の姉が苦手で、別人だと気づくこともなくリディアに冷たい態度を取り続けた。許して欲しい」

「アデル様が謝ることではありません。こちらこそ騙す形になり申し訳ありませんでした」

 謝罪すると、アデル様は驚いた様子で首を横に振る。

「好きでやっていたわけではないだろう? ローレッタから、君が当主に姉の代わりをするよう命令されていたのだと聞いた。君はよく耐えたよ」

「アデル様……」

「リディアはずっとローレッタと二人で頑張ってきたんだな。これからは私にも協力させてくれ」

 アデル様は曇りのない笑顔で言う。私は胸がいっぱいになってしまった。

「お嬢様、よかったですね。アデルバート様、クロフォード家のこと随分調べてくれたみたいですよ。それにお嬢様を地下牢から救出するついでにほかに生贄も確認しておきましたし。証拠はばっちりです」

 ローレッタが横から説明する。

「リディア、すぐにでもクロフォード家の者を呼んで事実確認しようと思う。当主だけでなく夫人も君の兄妹たちも全員だ」

「まぁ、何も全員呼ばなくても」

「君を利用していたのは当主だけではないだろう? 罪に問わないわけにはいかない」

 アデル様は厳しい口調で言った。

「明日にでもクロフォード一家を呼んで追及する予定だ。必要であれば、証人としてほかの大貴族も同席させることを考えている。リディアはどうする? 無理に同席する必要はないが、希望するなら彼らが決して君に危害を加えないように護衛をつけよう」

「アデル様……私のためにそこまで考えてくださってありがとうございます。けれど、私は別の方法でやりたいことがあるのです。私の家族を呼び出すのは少し待ってくださいませんか?」

「やりたいこと?」

 アデル様が首を傾げる。私は彼に「やりたいこと」の内容を説明した。そばで聞いているローレッタは、楽しげに顔をにやつかせている。

 アデル様の顔がみるみる困惑していくのがわかった。

「いや、君の気持ちもわかるが……それは……」

「私、十七年間ずっと生家に苦しめられてきたんです。復讐したいと思うのはいけないことでしょうか……?」

「そういうわけではない。しかし、罰というものは法律に則って然るべき方法で与えられるべきで……」

 アデル様は戸惑い顔で言葉を選んでいる。

「アデル様は、私の味方をしてくれませんの……?」

 そう尋ねたら、アデル様は言葉を止めた。そして顔に手を当て、しばらくの間考え込む。

「……わかった。君のしたいようにすればいい」

 長い沈黙の後、アデル様は観念したようにそう言ってくれた。

 私はローレッタと顔を見合わせて笑った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈 
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

処理中です...