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第二部
9.裏表
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ここからリディア視点に戻ります
◆ ◇ ◆
夜にアデル様と会ってクロフォード家の生贄の件についてお伝えしてから、三日が経った。
三日では特に変化があるはずもなく、私はいつも通りの日常を過ごしている。
部屋ではローレッタが、お世辞にも手際がいいとは言えない手さばきで掃除をこなしていた。
「でもリディアお嬢様、うまくいってよかったですよね! アデルバート様、あんなに期待通りの反応をしてくれるなんて。清廉潔白な人って単純で扱いやすいですよね」
「ローレッタ。殿下に対して失礼なことを言うんじゃありません」
私はぺらぺらと軽率なことを言うローレッタを嗜めた。
ローレッタは私の言葉など気にも留めず、鼻歌でも歌いだしそうな様子で床を拭いている。
「ねぇ、ローレッタ。アデル様はいつ動きだすと思う?」
「いつでしょうねぇ。でもあの人のことだから、生贄がいるかもしれないなんて話を聞いたらすぐにでも動きだすんじゃないですか? 仮にも公爵家を探るわけですから、下準備に時間がかかりそうですけれど」
「そうよね。王太子といえど、突然公爵家に押しかけて生贄の件を調べるなんて真似できないものね……」
私はベッドの上に腰掛け、息を吐く。アデル様がいつ、どんな風に公爵家を調べるつもりなのか気になるが、私には知りようがない。
「ほかのことなら私が探って来れるんですけど、アデルバート様にはなかなか近づけませんから、困っちゃいます」
「そうね。アデル様も秘密裏に進めてくださるだろうし、情報を得られる機会なんてそうそうないと思うわ」
「また夜にでも呼び出して、お嬢様が直接お話しをうかがってみてはどうですか?」
「この前抜け出したのは三日前よ。そんなに頻繁に抜け出してバレないかしら」
「お任せください! ローレッタはこういうのが得意ですから!」
ローレッタは胸を張って誇らしげに言う。彼女の提案にどうしようかと頭を悩ませる。できることならアデル様に会って話を聞きたい。
「そうね。……じゃあ、お願いしようかしら」
「承知しました! すぐにアデルバート様に手紙をお届けします」
「いつも悪いわね、ローレッタ」
「いいえ、リディアお嬢様のためならこれくらいわけありません」
元気よくそう言うローレッタに、思わず笑みがこぼれた。どこまでも私のことしか考えていなくて、こちらが断ったって運命を共にしてくれる忠実なメイド。
本当は、ローレッタがいればほかに何もいらないのだ。
***
ローレッタは今日も完璧に抜け出す準備を整えてくれた。
今日は私のほうがアデル様よりも早く着いたようで、人気のない王宮の庭園でローレッタと二人彼が来るのを待つ。しかし、約束の時間になってもなかなか現れない。
「遅いですね、アデルバート様。いつも約束の時間通りに来るのに」
「お忙しいんじゃないかしら。もう少し待ちましょう」
「時間大丈夫かなぁ」
そんなことを話しているうちに、足音が聞こえてきた。見ると、アデル様が息を切らしてこちらに駆けてくる。
◆ ◇ ◆
夜にアデル様と会ってクロフォード家の生贄の件についてお伝えしてから、三日が経った。
三日では特に変化があるはずもなく、私はいつも通りの日常を過ごしている。
部屋ではローレッタが、お世辞にも手際がいいとは言えない手さばきで掃除をこなしていた。
「でもリディアお嬢様、うまくいってよかったですよね! アデルバート様、あんなに期待通りの反応をしてくれるなんて。清廉潔白な人って単純で扱いやすいですよね」
「ローレッタ。殿下に対して失礼なことを言うんじゃありません」
私はぺらぺらと軽率なことを言うローレッタを嗜めた。
ローレッタは私の言葉など気にも留めず、鼻歌でも歌いだしそうな様子で床を拭いている。
「ねぇ、ローレッタ。アデル様はいつ動きだすと思う?」
「いつでしょうねぇ。でもあの人のことだから、生贄がいるかもしれないなんて話を聞いたらすぐにでも動きだすんじゃないですか? 仮にも公爵家を探るわけですから、下準備に時間がかかりそうですけれど」
「そうよね。王太子といえど、突然公爵家に押しかけて生贄の件を調べるなんて真似できないものね……」
私はベッドの上に腰掛け、息を吐く。アデル様がいつ、どんな風に公爵家を調べるつもりなのか気になるが、私には知りようがない。
「ほかのことなら私が探って来れるんですけど、アデルバート様にはなかなか近づけませんから、困っちゃいます」
「そうね。アデル様も秘密裏に進めてくださるだろうし、情報を得られる機会なんてそうそうないと思うわ」
「また夜にでも呼び出して、お嬢様が直接お話しをうかがってみてはどうですか?」
「この前抜け出したのは三日前よ。そんなに頻繁に抜け出してバレないかしら」
「お任せください! ローレッタはこういうのが得意ですから!」
ローレッタは胸を張って誇らしげに言う。彼女の提案にどうしようかと頭を悩ませる。できることならアデル様に会って話を聞きたい。
「そうね。……じゃあ、お願いしようかしら」
「承知しました! すぐにアデルバート様に手紙をお届けします」
「いつも悪いわね、ローレッタ」
「いいえ、リディアお嬢様のためならこれくらいわけありません」
元気よくそう言うローレッタに、思わず笑みがこぼれた。どこまでも私のことしか考えていなくて、こちらが断ったって運命を共にしてくれる忠実なメイド。
本当は、ローレッタがいればほかに何もいらないのだ。
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ローレッタは今日も完璧に抜け出す準備を整えてくれた。
今日は私のほうがアデル様よりも早く着いたようで、人気のない王宮の庭園でローレッタと二人彼が来るのを待つ。しかし、約束の時間になってもなかなか現れない。
「遅いですね、アデルバート様。いつも約束の時間通りに来るのに」
「お忙しいんじゃないかしら。もう少し待ちましょう」
「時間大丈夫かなぁ」
そんなことを話しているうちに、足音が聞こえてきた。見ると、アデル様が息を切らしてこちらに駆けてくる。
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