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14.王宮へ

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「そうだ。その第四王女の輿入れ先に、我が国を選びたいと申し出があったのだ。第一王子には既に婚約者がいるから、第二王子のコルラードにという話だったんだが、コルラードも正式には決まっていないものの国内の公爵家の令嬢と縁談が進んでいる。しかし、出来ることなら我が国はヨラド王国と関係を深められる機会を逃したくない。そこでお前に第四王女と婚約してもらおうと考えているんだ」

「……は」

 国王様の言葉に、ラウロ様は固まっている。

 私も急な話に頭がついていかなかった。

 ヨラド王国は、フォリア王国の東に位置する大国だ。

 広い国土を持ち、軍事力にも経済力にも優れている。ヨラド王国の周辺の国々は、フォリア王国を含めて、皆ヨラド王国を中心に栄えてきた。

 ヨラド王国の王家と婚姻によるつながりが出来ることは、周辺国の多くが望んでいることだった。

 けれど、だからといってラウロ様が王女様と婚約だなんて。


「心配することはない。第四王女は美しく聡明な方だ。会えばお前もすぐに気に入るだろう。それにヨラドの王女が伴侶になれば、お前が王子として表舞台に戻ったときの後ろ盾になる」

「陛下、しかし……」

 明るい口調で言う国王様に、ラウロ様は引きつった顔を向ける。

 ラウロ様が戸惑うようにこちらを見た。その目には困惑と焦燥が浮かんでいる気がした。

 私も無意識のうちに、ラウロ様に縋るような目を向けてしまう。


「ローレ嬢が気がかりなのか? ラウロ」

「え?」

 国王様はにこやかに、しかし確かな威圧感を含む声でラウロ様に尋ねる。それから私の方に向き直ると、眉根を寄せて言った。

「ローレ嬢、君のことは色々と調べさせてもらったよ。しばらく家に帰っていないんだって? 年若いご令嬢がそれでは親御さんも心配なさるだろう」

 私が答えに窮していると、国王様は穏やかな口調で続ける。

「すぐに家に帰ったほうがいい。……と、言いたいところだが、君にも色々と事情があるのだろうね。それならばこちらで住む場所を用意しても構わない」

 国王様は寛大に笑って言う。

 家に帰っていないことが話題に出た瞬間、家出したことを咎められるとばかり思ったので、予想外の言葉に驚いてしまった。
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