上 下
26 / 111
4.視線

しおりを挟む
***

 その日は一日中、周りの生徒たちからちらちら見られながら過ごした。どうやら今朝ラウロ様と一緒に来たことが学園中に広まってしまったらしい。

 「あのラウロと一緒の馬車で来たって」、「腕まで組んでたって聞いたけど」、「悪魔の恋人か何かなのか?」だなんて、噂がたくさん聞こえてきた。

 私は別に構わないけれど、ラウロ様も同じように好奇の目で見られていたら申し訳ないと思った。注目されている中でわざと腕まで組んだのはやり過ぎだったかもしれない。


 廊下を歩く度に注目を浴びて、休み時間の度に質問攻めにされて、すっかり疲れながらも何とか一日が終わった。

 また質問攻めにあわないよう、急いで教室を後にする。

 帰りもラウロ様の家の馬車に乗せてもらう約束だ。しかしこのまま彼の元へ行こうものなら、さらに注目を浴びてしまうのはわかりきっている。

 どうしようかと人気のない渡り廊下のところで考え込んでいると、後ろから聞き慣れた軽やかな足音が聞こえてきた。


「ジュスティーナお姉様っ!」

 やって来たのは、フェリーチェだった。薄茶色の髪を揺らし、相変わらずの愛らしい笑顔でこちらを見上げている。

「フェリーチェ……」

「もう、昨日は急にラウロ・ヴァレーリの家にしばらくお世話になるなんて連絡が来るから驚いちゃったわ。お父様もお母様も、通信機を切った後かんかんに怒ってたわよ!」

 フェリーチェは眉尻を下げ、困ったものを見るような目で言う。

 私が家に帰れなくなった原因については、ちっとも責任を感じていないらしい。

「そう、それはごめんなさいね。しばらく帰るつもりはないから、私のことは放っておいてちょうだい」

 早めにその場を立ち去りたくて、それだけ言って背を向ける。するとフェリーチェに甘ったるい声で呼び止められた。

「待って、お姉様! せっかく可愛い妹が心配して見に来てあげたのよ?」

「心配……?」

「そうよ。私、本当に心配してたんだから。ラウロ・ヴァレーリって、悪い噂が絶えない悪魔みたいな人なんでしょ? そんな人と一緒にいて大丈夫なのかしらって」

 うんざりした思いでフェリーチェを見る。一体、どうして誰も彼も彼を悪く言うのだろう。顔をしかめる私に構わず、フェリーチェは続ける。

「それにあの醜い痣! よくあんな人と一緒にいられるわね。私だったらあんな醜い人と並んで歩くなんて絶対無理。お姉様、勢いでルドヴィク様と婚約破棄しちゃって焦っているのはわかるけど、相手はもう少し選んだほうがいいんじゃない?」

 フェリーチェは意地の悪い笑みを浮かべ、嘲るように言った。不愉快な思いが胸に広がっていく。

「ラウロ様は醜くなんてないわ。大体、人の痣のことをとやかく言うなんて失礼よ。やめてちょうだい」

「まあ、お姉様ってとっても優等生で素晴らしいわね! でも、私は醜いと思ってしまうんだからしょうがないじゃない。普通は顔半分に痣がある人なんて敬遠すると思うわ」

「フェリーチェ!」

 いいかげんにしてと言おうとしたところで、今度はフェリーチェの方がくるりと背を向けてしまった。


「じゃあね、お姉様。顔も見られたことだし私はもう行くわ。ルドヴィク様のことは私が幸せにしてあげるから心配なさらないでね!」

 フェリーチェは一度だけ振り返ってそう言うと、さっさと歩いていく。

 残された私には苦々しい気持ちだけが残った。

 もうフェリーチェに惑わされないと誓ったはずなのに、相変わらず動揺させられている自分が悔しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

公爵様は幼馴染に夢中のようですので別れましょう

カミツドリ
恋愛
伯爵令嬢のレミーラは公爵閣下と婚約をしていた。 しかし、公爵閣下は幼馴染に夢中になっている……。 レミーラが注意をしても、公爵は幼馴染との関係性を見直す気はないようだ。 それならば婚約解消をしましょうと、レミーラは公爵閣下と別れることにする。 しかし、女々しい公爵はレミーラに縋りよって来る。 レミーラは王子殿下との新たな恋に忙しいので、邪魔しないでもらえますか? と元婚約者を冷たく突き放すのだった。覆水盆に返らず、ここに極まれり……。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◯完結まで毎週金曜日更新します ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

処理中です...