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11.冤罪事件再び

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「こちらでございます」

 途中でミリウスの邪魔が入ったが、無事時間通りに部屋まで着くことができた。侍女が扉を開けると、そこにはジャレッド王子とカミリアだけでなく、大勢の人たちが集まっていた。

 王子が断罪劇の観客にするために呼んだのだろうかと、どこか冷静な頭で考える。


「来たな、悪女エヴェリーナ」

 ジャレッド王子は私に目を留めると、冷たい声で言う。

 人々がさっと道を空けたので、私はゆっくりと彼の元へ進んでいった。

「お待たせして申し訳ございません。仰せの通り、参上いたしました」

 笑みを浮かべて言うが、ジャレッド王子の表情は冷ややかなままだ。彼の腕にはいつものようにカミリアが絡みついて、不安げに目を潤ませている。

 ふと、王子たちを囲む群衆の中に、よく目立つプラチナブロンドの髪の男がいるのが目に入った。ルディ様だ。

 人々が困惑と緊張の表情を浮かべながらこちらを見守る中で、ルディ様だけは穏やかな表情を浮かべてこちらを見ている。その姿はなんとも不気味だった。


「カミリアを暗殺しかけておいて、笑みを浮かべてやってくるなど図々しいものだな」

 意識が散漫になった私を現実に引き戻すかのように、ジャレッド王子が蔑みの表情を浮かべて言う。

「その件ですが、殿下は誤解されていると思うのです。私はカミリア様を暗殺しようなどと考えておりません」

「現行犯で捕まった犯人がお前に頼まれたと証言したのだぞ。どう説明をつける」

「それは私にも何がなんだか……。けれど、犯人の言葉が本当だと言う証拠もないでしょう?」

 眉根を寄せてそう言うと、ジャレッド王子の顔はたちまち怒りに歪んだ。

 正直に言っただけなのに。ジャレッド王子といいミリウスといい、この兄弟はなぜ些細な一言で激昂するのだろう。こちらとしては怒らせるつもりはないのに、困ってしまう。

「小賢しい! 犯人がはっきりそう証言している以上、何の疑いの余地がある。それにお前には動機があるだろう。お前は分不相応に私の愛を求め、カミリアに嫉妬したんだな。それで暗殺にまで手を出すなど、恐ろしい女だ」

 ジャレッド王子は汚らわしいものでも見るかのような顔で言った。

「殿下、おやめください。エヴェリーナお嬢様はそのようなことをする方ではありません」

 サイラスが王子の方に歩み出て言う。

「なんだお前は。……ん? お前、エヴェリーナの家の執事じゃないか。祭典のときにお前が舞台を邪魔したのをよく覚えているぞ」

 ジャレッド王子はサイラスをじろじろ眺めると、ふいににやりと口を歪ませた。

「噂に聞いているぞ、エヴェリーナ。お前、私に婚約破棄されたのがショックで、その執事を囲い込んでいるそうじゃないか。公爵令嬢が使用人にすがって寂しさを紛らわせるなど、哀れなことだ」

「ジャレッド様、そんなことを言ってはかわいそうですわ」

 ジャレッド王子は馬鹿にしたように言い、カミリアが笑いをこらえたような顔で窘める。部屋の中には、不愉快な二人の笑い声だけが響いていた。

「殿下、エヴェリーナ様は……!」

「なぁ、エヴェリーナ」

 近づくサイラスを無視して、ジャレッド王子はこちらに顔を向ける。

「こんな平民上がりの男でも相手にしてもらって楽しいのか? 身分も金もないつまらない男だろう。罪を認めて這いつくばって謝罪するなら、俺の妾にくらいはしてやってもいいぞ」

 言われた瞬間頭に血が上り、私は気がついたらジャレッド王子の頬を思いきり引っぱたいていた。

 パシンと乾いた音が響いた後、部屋は静寂に包まれる。

 カミリアも、サイラスも、会場の人たちも、誰もが目を丸くして私とジャレッド王子を見ていた。


「何をする!!」

「……殿下があんまり馬鹿なことをおっしゃるので」

「馬鹿なこととはなんだ! 本当のことを言っただけだろう!?」

 私は喚いているジャレッド王子を横目で見ながら、びっくりした顔でこちらを見ているサイラスの腕をつかむ。

「サイラスは優しくて優秀でかっこよくて、ずっと私を見守っていてくれた大切な人ですわ! つまらない男ですって? 殿下の自己紹介かと笑いそうになったわ。身分くらいしか取り柄がないあなたと違って、サイラスは世界一素敵な人なんだから」

 王子にはっきりそう言ってやった。私に腕をつかまれたままのサイラスは、顔を真っ赤にして何か言いたげに口をぱくぱくさせている。

「貴様……!」

 打たれた頬を右手で押さえながら、ジャレッド王子は怒りに顔を紅潮させる。

 それからそばに控えていた兵士に命じた。

「エヴェリーナを捕らえろ! カミリア暗殺未遂の罪に加え、王族に危害を加えた罪だ! 牢の最下層にでもぶち込んでおけ!!」

 王子の言葉にぎゅっと身体を固くする。

 しくじったかもしれない。いや、確実にしくじった。今回の人生では人を恨まずサイラスの幸せだけ考えて生きようと思ったのに。

 一体何をやっているのだろう。でも、サイラスを悪く言われた瞬間、何も考えられなくなってしまった。

 ふと顔を上げると、サイラスがかばうように私の前に立っていた。その大きな背中を見ると、こんな状況なのに安心してしまう。

 あぁ、もういいか。今回の人生ではやっていないとはいえ、私は一度カミリア暗殺を企てた身。罰せられるのも仕方ないのかもしれない。

 ただ、今回はサイラスが身代わりになることを防がないと。

 それだけはうまくいかせないと……。
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