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9.一度目の世界 サイラス視点②
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「エヴェリーナのことをよく見ておくように命じはしたが、何から何まであいつの味方をしろと言った覚えはないぞ。エヴェリーナとはじきに縁を切る予定だ。お前の主はエヴェリーナでなく私であることを忘れるな」
「旦那様、縁を切るなどと……! お嬢様は今も心細い思いをなさっているはずです。せめてご家族が味方になってはあげてはいただけないでしょうか」
「うるさい! これはお前の立ち入る問題ではない! 下がっていろ!!」
旦那様は苛立たしげに言う。
旦那様の言う通り、使用人が口を挟める問題ではない。下がれと言われればこれ以上この場に留まるわけには行かず、唇を噛んで「出過ぎた真似をしました」と頭を下げた。
部屋を出て行こうとすると、クリス様がこちらにやって来て私の肩を叩く。
「サイラス、お前が我が家にもエヴィにもよく仕えてくれていたことはわかっているよ」
「クリス様」
クリス様の言葉に心が少し軽くなる。旦那様は無理でも、クリス様なら話を聞いてくれるのではないか。そんな期待が頭をよぎった。
「だけど、うちは情で動けるような甘いところではないんだ。お前もずっとうちに仕えてきたんだからわかるだろう? 醜聞のある娘は切り捨てて、ダメージを最小限にするのがアメル家にとっても領民にとっても最善なんだ」
クリス様は諭すように言う。
絶望的な気持ちになった。この家にはお嬢様の味方をしてくれる方は誰もいない。
公爵である旦那様やその後継ぎであるクリス様が動けば、事態を好転させられる可能性は十分にあるというのに。
力なくうなずくと、クリス様は満足げに笑って旦那様の元へ戻っていった。
旦那様たちが協力してくれないのならば、私一人でも動くしかない。
ただの執事にできることがあるとは思い難かったが、お嬢様が冤罪だという証拠を少しでも見つけられないかと探し始めた。
一つ思いついたのが、ルディ・クレスウェル様に相談に行くことだ。
彼は最近のお嬢様が唯一よく会っていた相手だ。何か話を聞いているかもしれないし、運が良ければアリバイにつながることを知っているかもしれない。
お嬢様とよく外出するくらい仲が良かったようだし、もしかすると暗殺未遂の疑いを晴らすのに協力してくれる可能性もある。
ご家族でさえ不干渉を貫く様子なのでさすがにそこまでは期待しないが、事態好転のための鍵になってくれるかもしれない。
ただ、クレスウェル公爵家の跡取りであるルディ様と会う約束を取り付けるのは難しかった。私は何とか彼と接触しようと画策した。
お嬢様にも頻繁に面会に行った。
大抵、来ることはないのにと素っ気なくされるだけだが、彼女の姿を見られるだけでよかった。
日が経つにつれてやつれがひどくなっていくのが心配ではあったけれど、それでも無事を確認できるだけで安心できたのだ。
何もかも諦めたような目をしているお嬢様に、見張りの兵士に聞こえないような小声で告げる。
「今、お嬢様の無実を証明するために動いています。なかなかうまく進まないのですが……。けれど、きっとそこから助けだしますから。どうか待っていてください」
しかし、お嬢様は目を見開いて驚いたような顔をした後、思ってもみないことを口にした。
「そんなことしなくてもいいわよ」
「諦めないでください。お嬢様は何もしていないのでしょう? いつか真実が明らかになりますから」
「真実もなにも、カミリア暗殺を依頼したのは本当だもの。自業自得で捕まっただけだわ」
「え?」
言葉の意味を理解しきれないままお嬢様の顔を見る。
「旦那様、縁を切るなどと……! お嬢様は今も心細い思いをなさっているはずです。せめてご家族が味方になってはあげてはいただけないでしょうか」
「うるさい! これはお前の立ち入る問題ではない! 下がっていろ!!」
旦那様は苛立たしげに言う。
旦那様の言う通り、使用人が口を挟める問題ではない。下がれと言われればこれ以上この場に留まるわけには行かず、唇を噛んで「出過ぎた真似をしました」と頭を下げた。
部屋を出て行こうとすると、クリス様がこちらにやって来て私の肩を叩く。
「サイラス、お前が我が家にもエヴィにもよく仕えてくれていたことはわかっているよ」
「クリス様」
クリス様の言葉に心が少し軽くなる。旦那様は無理でも、クリス様なら話を聞いてくれるのではないか。そんな期待が頭をよぎった。
「だけど、うちは情で動けるような甘いところではないんだ。お前もずっとうちに仕えてきたんだからわかるだろう? 醜聞のある娘は切り捨てて、ダメージを最小限にするのがアメル家にとっても領民にとっても最善なんだ」
クリス様は諭すように言う。
絶望的な気持ちになった。この家にはお嬢様の味方をしてくれる方は誰もいない。
公爵である旦那様やその後継ぎであるクリス様が動けば、事態を好転させられる可能性は十分にあるというのに。
力なくうなずくと、クリス様は満足げに笑って旦那様の元へ戻っていった。
旦那様たちが協力してくれないのならば、私一人でも動くしかない。
ただの執事にできることがあるとは思い難かったが、お嬢様が冤罪だという証拠を少しでも見つけられないかと探し始めた。
一つ思いついたのが、ルディ・クレスウェル様に相談に行くことだ。
彼は最近のお嬢様が唯一よく会っていた相手だ。何か話を聞いているかもしれないし、運が良ければアリバイにつながることを知っているかもしれない。
お嬢様とよく外出するくらい仲が良かったようだし、もしかすると暗殺未遂の疑いを晴らすのに協力してくれる可能性もある。
ご家族でさえ不干渉を貫く様子なのでさすがにそこまでは期待しないが、事態好転のための鍵になってくれるかもしれない。
ただ、クレスウェル公爵家の跡取りであるルディ様と会う約束を取り付けるのは難しかった。私は何とか彼と接触しようと画策した。
お嬢様にも頻繁に面会に行った。
大抵、来ることはないのにと素っ気なくされるだけだが、彼女の姿を見られるだけでよかった。
日が経つにつれてやつれがひどくなっていくのが心配ではあったけれど、それでも無事を確認できるだけで安心できたのだ。
何もかも諦めたような目をしているお嬢様に、見張りの兵士に聞こえないような小声で告げる。
「今、お嬢様の無実を証明するために動いています。なかなかうまく進まないのですが……。けれど、きっとそこから助けだしますから。どうか待っていてください」
しかし、お嬢様は目を見開いて驚いたような顔をした後、思ってもみないことを口にした。
「そんなことしなくてもいいわよ」
「諦めないでください。お嬢様は何もしていないのでしょう? いつか真実が明らかになりますから」
「真実もなにも、カミリア暗殺を依頼したのは本当だもの。自業自得で捕まっただけだわ」
「え?」
言葉の意味を理解しきれないままお嬢様の顔を見る。
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