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8.リーシュの祭典
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暗くなってからのお祭りは昼間より一層賑やかで、目に映るもの全てがきらきらして見えた。
結局、一緒に来ていた大人たちの元に戻ったのはそれから二時間も後で、私とサイラスは散々叱られてしまった。
サイラスはその時も、自分があちらこちらに連れ回したせいでこんなに遅くなってしまったのだと言って一人で怒られようとしていた。
私はサイラスが、怖い顔をした執事長のほうまで一人で説明しに行くのに気づいて、慌てて訂正しに行ったのだ。サイラスは少しお店を回ったら帰ろうと言っていたのに、私がまだいたいと何度も引き止めたのだと。
執事長はしばらく厳しい顔で私達にお説教をしていたけれど、最後には仕方ないなという顔で笑っていた。
「……覚えています。お嬢様と終わりかけのお祭りを回りましたね」
「あの時はすごく楽しかったわ。でも、私ってわがままな子供だったわね。サイラスに迷惑をかけて」
申し訳なくなってそう言うと、サイラスは首を横に振った。
「私もすごく楽しかったです。あの時のことは、今でも懐かしくてよく思い返すくらいです」
「本当に?」
「はい。それにお嬢様が私を頼ってくれたのが嬉しくて、つい立場を忘れてしまったんです」
サイラスは照れたようにそう言った。私はその言葉にまた嬉しくなってしまう。
「じゃあ、あの時みたいにお店を見ながら歩きましょう!」
「いいですね、お嬢様」
その後は、子供の頃を再現するみたいにめいいっぱいお祭りの終わりかけた街を歩いた。
昼間散々お店を回ったはずなのに、夜の街は昼間とは違った楽しさがあって、随分遅くまで歩き通しだった。
いつもはちゃんと決まり事を守らせようとするサイラスも、今日は止めようとせず、むしろあちらにも行ってみませんかなんて提案してくる。
結局、その日お屋敷に戻ったのは、日付の変わった後だった。
ジャレッド王子とカミリアを無視した上、こんなに遅くに帰ってきたのだから、当然怒られるのは覚悟していた。
けれど意外にもお父様は何も文句を言わなかった。
「昨日は大騒ぎだったそうだな。あまり目立つことはするなよ」
ただ一言、翌日の朝にそう言われただけ。
後でわかったことだけど、昨日あの広場にいた人たちは、さすがにジャレッド王子とカミリアのやり方に疑問を持ったようだ。
二人のやりようはどう見ても嫌がらせにしか見えず、私に同情が集まったらしい。
お父様は娘が投獄されても放置するほど非情な人だけれど、自分の不利益にならないことに関しては口を出さない。
今回の件も私を不憫に思って叱らなかったとかでは絶対にないと思うけれど、怒られなかったのは運がよかった。
「ラッキーだったわね。お父様、アメル家の評判を落としさえしなければ私のことはどうでもいいみたいだわ」
「いえ、お嬢様、旦那様はきっと内心ではお嬢様のことを心配なさっているはずです! きっと昨日の件は二人があまりに無神経にお嬢様を傷つけようとしたため、旦那様も寛大に判断してくださったのでしょう」
サイラスは私がお父様の関心のなさに傷ついたと思っているのか、必死でフォローしようとする。本当にラッキーだとしか思ってないのに。
「そうかしら? どっちにしろよかったわ。もう二人に呼び出されることはないといいんだけど」
「本当ですね……」
「でもリーシュの祭典自体は来年も行きたいわ! サイラス、また一緒に来てくれる?」
そう尋ねたら、目を伏せて考え込んでいたサイラスがぱっと顔を上げる。
「は、はい……! お嬢様が同行を許して下さるのなら、喜んで」
「約束ね」
私が笑いかけたら、サイラスも微笑み返してくれた。
また演劇を観たいなとか、今度は広場でやっていたというミニサーカスも観に行きたいなぁなんて考えて、私の頭は早くも来年の祭典のことでいっぱいになる。
最近の私は本当に単純だ。楽しいことを考えたら、すぐにそのことで頭がいっぱいになってしまう。
でも、これでいいのかも。だって、前の人生よりずっと幸せだから。
結局、一緒に来ていた大人たちの元に戻ったのはそれから二時間も後で、私とサイラスは散々叱られてしまった。
サイラスはその時も、自分があちらこちらに連れ回したせいでこんなに遅くなってしまったのだと言って一人で怒られようとしていた。
私はサイラスが、怖い顔をした執事長のほうまで一人で説明しに行くのに気づいて、慌てて訂正しに行ったのだ。サイラスは少しお店を回ったら帰ろうと言っていたのに、私がまだいたいと何度も引き止めたのだと。
執事長はしばらく厳しい顔で私達にお説教をしていたけれど、最後には仕方ないなという顔で笑っていた。
「……覚えています。お嬢様と終わりかけのお祭りを回りましたね」
「あの時はすごく楽しかったわ。でも、私ってわがままな子供だったわね。サイラスに迷惑をかけて」
申し訳なくなってそう言うと、サイラスは首を横に振った。
「私もすごく楽しかったです。あの時のことは、今でも懐かしくてよく思い返すくらいです」
「本当に?」
「はい。それにお嬢様が私を頼ってくれたのが嬉しくて、つい立場を忘れてしまったんです」
サイラスは照れたようにそう言った。私はその言葉にまた嬉しくなってしまう。
「じゃあ、あの時みたいにお店を見ながら歩きましょう!」
「いいですね、お嬢様」
その後は、子供の頃を再現するみたいにめいいっぱいお祭りの終わりかけた街を歩いた。
昼間散々お店を回ったはずなのに、夜の街は昼間とは違った楽しさがあって、随分遅くまで歩き通しだった。
いつもはちゃんと決まり事を守らせようとするサイラスも、今日は止めようとせず、むしろあちらにも行ってみませんかなんて提案してくる。
結局、その日お屋敷に戻ったのは、日付の変わった後だった。
ジャレッド王子とカミリアを無視した上、こんなに遅くに帰ってきたのだから、当然怒られるのは覚悟していた。
けれど意外にもお父様は何も文句を言わなかった。
「昨日は大騒ぎだったそうだな。あまり目立つことはするなよ」
ただ一言、翌日の朝にそう言われただけ。
後でわかったことだけど、昨日あの広場にいた人たちは、さすがにジャレッド王子とカミリアのやり方に疑問を持ったようだ。
二人のやりようはどう見ても嫌がらせにしか見えず、私に同情が集まったらしい。
お父様は娘が投獄されても放置するほど非情な人だけれど、自分の不利益にならないことに関しては口を出さない。
今回の件も私を不憫に思って叱らなかったとかでは絶対にないと思うけれど、怒られなかったのは運がよかった。
「ラッキーだったわね。お父様、アメル家の評判を落としさえしなければ私のことはどうでもいいみたいだわ」
「いえ、お嬢様、旦那様はきっと内心ではお嬢様のことを心配なさっているはずです! きっと昨日の件は二人があまりに無神経にお嬢様を傷つけようとしたため、旦那様も寛大に判断してくださったのでしょう」
サイラスは私がお父様の関心のなさに傷ついたと思っているのか、必死でフォローしようとする。本当にラッキーだとしか思ってないのに。
「そうかしら? どっちにしろよかったわ。もう二人に呼び出されることはないといいんだけど」
「本当ですね……」
「でもリーシュの祭典自体は来年も行きたいわ! サイラス、また一緒に来てくれる?」
そう尋ねたら、目を伏せて考え込んでいたサイラスがぱっと顔を上げる。
「は、はい……! お嬢様が同行を許して下さるのなら、喜んで」
「約束ね」
私が笑いかけたら、サイラスも微笑み返してくれた。
また演劇を観たいなとか、今度は広場でやっていたというミニサーカスも観に行きたいなぁなんて考えて、私の頭は早くも来年の祭典のことでいっぱいになる。
最近の私は本当に単純だ。楽しいことを考えたら、すぐにそのことで頭がいっぱいになってしまう。
でも、これでいいのかも。だって、前の人生よりずっと幸せだから。
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