61 / 87
8.リーシュの祭典
⑨
しおりを挟む
パレードが終わると、とうとう神殿関係者による儀式が始まった。これは、祭典の終わりに神官様やシスターたちが広場に集まり、お祭りを締めくくるために行う儀式だ。
その中でもメインとなるのが「聖女の祈り」で、これは女神リーシュ様への感謝と祈りを、国を代表して聖女が述べるというものだ。
今年その役を務めるのは、もちろんカミリア。
王族と一緒にパレードに参加して、祈りの言葉まで務めるなんて、本当に今年はカミリアが主役みたいな祭典だと思う。
私たちが広場まで行くと、すぐさまジャレッド王子の部下が近づいてきて、わざわざ前方の一番舞台に近い席まで案内してくれた。
別に一般席でいいし、なんなら立ち見だって構わないのにと思いながらも言われた通り席につく。
周りにいるのはカミリアに夢中になっていた権力者たちや、ジャレッド王子に友好的な大貴族たちばかりで、居心地が悪いことこの上なかった。
それでも儀式は何の問題もなく進行していく。
神官様の言葉が終わり、式の終盤に近付くと、真っ白なドレスに金色の細工のついたヴェールを被ったカミリアが長い黒髪を揺らしながら現れた。
カミリアは舞台の真ん中に立ち、祈りの言葉を唱え始める。
舞台の上で手を組み合わせるカミリアは、神秘的な美しさを纏っていた。観客たちも清廉なオーラを放つカミリアの姿にすっかり魅了されている。
祈りの言葉が終わると、舞台の横からジャレッド王子が姿を現した。
去年まではこのような演出はなかったはずだ。ジャレッド王子はにこやかにカミリアに近づき、カミリアもそれに笑顔で答える。
ジャレッド王子は観客たちにここへ集まってくれたことへのお礼を述べ、今祈りの言葉を捧げたカミリアは自分の婚約者なのだと紹介する。
そこでようやく合点がいった。婚約者が代わったことは貴族たちの間では周知の事実だが、平民たちにはまだ伝わりきっていない。
王都にいる平民であれば噂が流れて来るので大抵は知っているが、地方に住む平民の中には話が届いていない者も多いので、国内各所から人が集まる祭典で新たな婚約者を宣言しようとしたのだろう。
私は何の感慨もなくその様子を見守る。
「今日は、もう一人感謝の気持ちを込めて紹介したい方がいますの」
ふいに笑顔のままカミリアが言った。
「それは、エヴェリーナ・アメル様ですわ。ジャレッド様の以前の婚約者様です。エヴェリーナ様には厳しい言葉を投げつけられたり、階段から突き落とされそうになったりと、色々なことをされましたが、必要な試練だったと今では理解しています。
今日は、快く婚約者の立場を譲ってくださったエヴェリーナ様にも舞台に上がって欲しいのです」
そう言って鮮やかに微笑むカミリアに、会場がざわめきだす。
突然名指しされ、さすがに動揺した。これが目的だったのだろうか。
こんなもの見せしめ以外の何物でもない。
カミリアに嫌がらせをして婚約者を外された哀れな女として舞台に上がれと? 今、カミリアが言った言葉には何一つ覚えがないというのに?
「お嬢様」
サイラスが横から焦った顔でこちらを見る。
「さぁ、エヴェリーナ様、こちらへ」
「エヴェリーナ、どうかこちらへ来てくれ。俺たちは君に感謝を伝えたいんだ」
舞台の上からカミリアが近づいてくる。ジャレッド王子も後ろからそれを見守っている。この状況では舞台に上がるしかない。
そうか。だからこんなに舞台に近い特等席を用意されたのかとやっと理解する。
その中でもメインとなるのが「聖女の祈り」で、これは女神リーシュ様への感謝と祈りを、国を代表して聖女が述べるというものだ。
今年その役を務めるのは、もちろんカミリア。
王族と一緒にパレードに参加して、祈りの言葉まで務めるなんて、本当に今年はカミリアが主役みたいな祭典だと思う。
私たちが広場まで行くと、すぐさまジャレッド王子の部下が近づいてきて、わざわざ前方の一番舞台に近い席まで案内してくれた。
別に一般席でいいし、なんなら立ち見だって構わないのにと思いながらも言われた通り席につく。
周りにいるのはカミリアに夢中になっていた権力者たちや、ジャレッド王子に友好的な大貴族たちばかりで、居心地が悪いことこの上なかった。
それでも儀式は何の問題もなく進行していく。
神官様の言葉が終わり、式の終盤に近付くと、真っ白なドレスに金色の細工のついたヴェールを被ったカミリアが長い黒髪を揺らしながら現れた。
カミリアは舞台の真ん中に立ち、祈りの言葉を唱え始める。
舞台の上で手を組み合わせるカミリアは、神秘的な美しさを纏っていた。観客たちも清廉なオーラを放つカミリアの姿にすっかり魅了されている。
祈りの言葉が終わると、舞台の横からジャレッド王子が姿を現した。
去年まではこのような演出はなかったはずだ。ジャレッド王子はにこやかにカミリアに近づき、カミリアもそれに笑顔で答える。
ジャレッド王子は観客たちにここへ集まってくれたことへのお礼を述べ、今祈りの言葉を捧げたカミリアは自分の婚約者なのだと紹介する。
そこでようやく合点がいった。婚約者が代わったことは貴族たちの間では周知の事実だが、平民たちにはまだ伝わりきっていない。
王都にいる平民であれば噂が流れて来るので大抵は知っているが、地方に住む平民の中には話が届いていない者も多いので、国内各所から人が集まる祭典で新たな婚約者を宣言しようとしたのだろう。
私は何の感慨もなくその様子を見守る。
「今日は、もう一人感謝の気持ちを込めて紹介したい方がいますの」
ふいに笑顔のままカミリアが言った。
「それは、エヴェリーナ・アメル様ですわ。ジャレッド様の以前の婚約者様です。エヴェリーナ様には厳しい言葉を投げつけられたり、階段から突き落とされそうになったりと、色々なことをされましたが、必要な試練だったと今では理解しています。
今日は、快く婚約者の立場を譲ってくださったエヴェリーナ様にも舞台に上がって欲しいのです」
そう言って鮮やかに微笑むカミリアに、会場がざわめきだす。
突然名指しされ、さすがに動揺した。これが目的だったのだろうか。
こんなもの見せしめ以外の何物でもない。
カミリアに嫌がらせをして婚約者を外された哀れな女として舞台に上がれと? 今、カミリアが言った言葉には何一つ覚えがないというのに?
「お嬢様」
サイラスが横から焦った顔でこちらを見る。
「さぁ、エヴェリーナ様、こちらへ」
「エヴェリーナ、どうかこちらへ来てくれ。俺たちは君に感謝を伝えたいんだ」
舞台の上からカミリアが近づいてくる。ジャレッド王子も後ろからそれを見守っている。この状況では舞台に上がるしかない。
そうか。だからこんなに舞台に近い特等席を用意されたのかとやっと理解する。
応援ありがとうございます!
54
お気に入りに追加
2,232
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる