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8.リーシュの祭典
⑦
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ミリウスは迷うように口を開いては閉じるだけで、何も言葉を発しない。
しばらく沈黙が続いた後で、ようやく言った。
「兄上に婚約破棄された身にも関わらず堂々と祭典にやって来るなんて、お前は本当に図太い奴だな!」
私はぽかんとしてミリウスを見る。道で引き止めて言葉に詰まった挙句、やっと出てきた言葉がこれなのか。
私は以前、王宮で開かれたパーティーでミリウスのために証言までしてやったというのに。
隣にいるサイラスが、ミリウスの言葉に顔を引きつらせるのがわかった。
「ジャレッド殿下とカミリア様に招待していただいたのですわ」
「はっ、兄上とカミリアはお前が祭典に来づらいと思って気を遣ってやったのだろうな。心が広いことだ」
ミリウスはやけに大げさな口調でそんなことを言う。
「まだジャレッド殿下とカミリア様のことを褒めるのですね」
つい思っていることがそのまま口から出てしまった。以前、王宮のパーティーのときあれほどひどい目に遭わされたのに、まだ二人を慕っているのだろうか。
私の言葉にミリウスはあからさまに動揺した顔をした。
「そ、そうだ! 少々の行き違いがあっただけで二人とも立派な方達だからな。お前と違って!」
「はぁ……。そうですか」
こんなことを言うためにわざわざ駆けてきたのだろうかと、怒りより呆れが先に来る。
言われたことは不服ではあるのだけれど、ミリウスの口調が妙にわざとらしいというか、芝居がかっているせいで、怒りは湧いてこなかった。
いつもは私が貶されるとすぐさま止めに入ってくれるサイラスも、今は心配というより困惑した顔をしているし、ミリウスの二人の従者は呆れきった顔でミリウスを見ている。
「お三方の関係が今も良好のようでよかったです。それでは、私たちはこれで」
とはいえ、あまり長くミリウスの意図が不明の話に付き合っていたいとも思えないので、波風を立てないように話を打ち切ることにした。
ミリウスに向かってお辞儀をしてからサイラスの腕をつかむ。すると、後ろから慌てた声で呼び止められた。
「ま、待て! パーティーでのことだがな、俺は別にお前がいなくても何とかなった!」
「……? はぁ、そうですか。それは差し出がましいことをいたしました」
「しかし、お前があの場で証言したことは評価してやる。お前がいなくてもなんとかできたとはいえ、借りは借りだ。お前に借りを作るのも嫌だし何か褒美を与えてやろう」
ミリウスはふんぞり返ってそんなことを言った。
「褒美ですか……?」
「ああ、ドレスでも宝石でも何でもねだればいい。何が欲しいか言ってみろ」
私は返事に困った。別にドレスも宝石も求めていないし、そもそも自分で買える。何より少し自分が見たものを証言しただけでそんなものを買ってもらう理由がない。
ちらりとサイラスのほうを見ると、凍りついたような顔でミリウスを見ていた。
サイラスもミリウスの不可解な言動に戸惑っているのだろうか。それにしては少し反応がおかしい気がするけれど。
「いえ……遠慮しておきます。お気持ちだけ受け取っておきますわ」
「な……!? 断るのか!?」
ミリウスは断られるのを予期していなかったのか、驚いた顔をする。
「だって私は当然のことをしたまでで、ミリウス様に何かしていただく理由がありませんもの」
「いや、それでもだな」
ミリウスはまだ何かぶつぶつ言っている。
いい加減行かせてくれないかなと思っていると、後ろからサイラスに腕を引かれて引き寄せられた。
しばらく沈黙が続いた後で、ようやく言った。
「兄上に婚約破棄された身にも関わらず堂々と祭典にやって来るなんて、お前は本当に図太い奴だな!」
私はぽかんとしてミリウスを見る。道で引き止めて言葉に詰まった挙句、やっと出てきた言葉がこれなのか。
私は以前、王宮で開かれたパーティーでミリウスのために証言までしてやったというのに。
隣にいるサイラスが、ミリウスの言葉に顔を引きつらせるのがわかった。
「ジャレッド殿下とカミリア様に招待していただいたのですわ」
「はっ、兄上とカミリアはお前が祭典に来づらいと思って気を遣ってやったのだろうな。心が広いことだ」
ミリウスはやけに大げさな口調でそんなことを言う。
「まだジャレッド殿下とカミリア様のことを褒めるのですね」
つい思っていることがそのまま口から出てしまった。以前、王宮のパーティーのときあれほどひどい目に遭わされたのに、まだ二人を慕っているのだろうか。
私の言葉にミリウスはあからさまに動揺した顔をした。
「そ、そうだ! 少々の行き違いがあっただけで二人とも立派な方達だからな。お前と違って!」
「はぁ……。そうですか」
こんなことを言うためにわざわざ駆けてきたのだろうかと、怒りより呆れが先に来る。
言われたことは不服ではあるのだけれど、ミリウスの口調が妙にわざとらしいというか、芝居がかっているせいで、怒りは湧いてこなかった。
いつもは私が貶されるとすぐさま止めに入ってくれるサイラスも、今は心配というより困惑した顔をしているし、ミリウスの二人の従者は呆れきった顔でミリウスを見ている。
「お三方の関係が今も良好のようでよかったです。それでは、私たちはこれで」
とはいえ、あまり長くミリウスの意図が不明の話に付き合っていたいとも思えないので、波風を立てないように話を打ち切ることにした。
ミリウスに向かってお辞儀をしてからサイラスの腕をつかむ。すると、後ろから慌てた声で呼び止められた。
「ま、待て! パーティーでのことだがな、俺は別にお前がいなくても何とかなった!」
「……? はぁ、そうですか。それは差し出がましいことをいたしました」
「しかし、お前があの場で証言したことは評価してやる。お前がいなくてもなんとかできたとはいえ、借りは借りだ。お前に借りを作るのも嫌だし何か褒美を与えてやろう」
ミリウスはふんぞり返ってそんなことを言った。
「褒美ですか……?」
「ああ、ドレスでも宝石でも何でもねだればいい。何が欲しいか言ってみろ」
私は返事に困った。別にドレスも宝石も求めていないし、そもそも自分で買える。何より少し自分が見たものを証言しただけでそんなものを買ってもらう理由がない。
ちらりとサイラスのほうを見ると、凍りついたような顔でミリウスを見ていた。
サイラスもミリウスの不可解な言動に戸惑っているのだろうか。それにしては少し反応がおかしい気がするけれど。
「いえ……遠慮しておきます。お気持ちだけ受け取っておきますわ」
「な……!? 断るのか!?」
ミリウスは断られるのを予期していなかったのか、驚いた顔をする。
「だって私は当然のことをしたまでで、ミリウス様に何かしていただく理由がありませんもの」
「いや、それでもだな」
ミリウスはまだ何かぶつぶつ言っている。
いい加減行かせてくれないかなと思っていると、後ろからサイラスに腕を引かれて引き寄せられた。
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